ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記

宝塚から始まった観劇人生。ミュージカル、ストレートプレイ、歌舞伎、映画やTVドラマ等も書きます。

06/11/04 演舞場花形歌舞伎昼の部①ヒートアップの「勧進帳」

2006-11-10 23:58:42 | 観劇
花形歌舞伎昼の部は海老蔵・菊之助共演の「勧進帳」から感想を書く。「勧進帳」は昨年の播磨屋弁慶が初めてで今回が2回目。さあ、どうだったか。
1、「歌舞伎十八番の内 勧進帳(かんじんちょう)」
ウィキペディアで「勧進帳」はこちら
今回の配役は以下の通り。
武蔵坊弁慶=海老蔵  富樫左衛門=菊之助
亀井六郎=男女蔵  片岡八郎=猿弥
駿河次郎=段治郎  常陸坊海尊=市蔵
源義経=芝雀
まず芝雀の義経の登場に予想以上の好印象。武将というよりもお公家さんのような品のいい義経。動きは少しぎこちないところもあったが予想外の収穫を得た気分。
四天王もいい顔ぶれが揃ったので嬉しい気分。段治郎は目立ちすぎないように?小さくなっていた気がしたが、とにかく猿弥ともどもこういう古典をしっかり身につけてもらうといいと思う。夏の鑑賞教室以来、男女蔵に好感が持てるようになっている私は単純なのか(^^ゞ

さて海老蔵の弁慶。2階右列から花道を出てきた姿を見て驚く。燃えている.....、これがオーラというものか!これは贔屓にはたまらないだろうなと納得。熱く全身に力が漲り、眼はしっかり見開かれ終始潤みっぱなし。
イヤホンガイドで弁慶の黒い衣装に不動明王を表す梵字(サンスクリット文字)が金色の模様として入っているのだと説明があった。「不動の見得」もあるが、海老蔵はまるで炎をしょった不動明王に見えた。まさに燃えるような弁慶だ。

対する菊之助の富樫。登場の時に菊五郎そっくりの顔の拵えに感心。DNAの強さを感じた。先月お軽を演じていたとは思えない立派な立役ぶり。
弁慶富樫の問答がすごい。どんどんヒートアップしていってすごい迫力。私はだんだん聞き取れなくなっていくが、まあ今回はこの熱さにつき合おうという感じでジッと凝視。先月の五郎・十郎のところでも書いたが、この二人のやりとりは補い合って高めあってなんともいえない恍惚感をもたらす。その高揚に身を任せる。

関を通された後、弁慶が主人を打ち据えてしまったことに自責して義経を前に激しく慟哭する場面。下を向いてかがんでいるところで顔の下の床に水がしたたっていて驚いた。涙か汗か両方か。
義経は弁慶の気転を褒め、一同が出立しようとするところに富樫が先刻の非礼を詫びて酒盃をすすめる。義経一行を逃したことが鎌倉に知れれば富樫も命がない。男と男の別れの杯でもあるようだ。葛桶の蓋を大杯にして飲み干して酔態を見せるが、ここの芝居はまだまだ若くて余裕がなさそう。「延年の舞」を舞いながら義経と四天王を先に発たせる。
富樫の菊之助がそっと見送る姿の美しさ。弁慶の海老蔵は最後に大目玉を見開いて気迫の飛び六方で引っ込んでいく。
観終わって、ハーッと溜息。こんな高揚感に巻き込まれて茫然自失するとは思わなかった。

観劇後、賛否両論の感想をお聞きした。「賛」は海老蔵のパワー全開の素晴らしさを讃えるもの、「否」は「この弁慶は暴走しすぎで義経が置き去りだった」というもの。
私は両方その通りだと思う。確かに海老蔵の弁慶は爆発的だった。ちっとも抑制的なところが感じられない。そういったメリハリがない上にどんどんとテンションが上がっていった。終始大きな目は剥き出し状態だったし、相当目の周囲には負担がかかるだろうなと心配がよぎったくらいだ。菊之助の富樫もそれに拮抗するというよりはテンションが一緒に上がっていってしまった感じがある。そのために義経と四天王はかなり後景に追いやられてしまった感がある。

しかしながら、既に書いたようにかなりの高揚感を味あわせてくれたことも確かだ。私は、海老・菊の今の若さならでは特殊な「勧進帳」を観ることができたのではないかと感じた。
以前TVで海老蔵は「にらみ」をやると目の周りがブチブチ切れるような感じがあるとしゃべっていた。それならば父上はあまり「にらみ」をやっていただかない方が健康上もいいなと思って聞いていた。海老蔵だってだんだん年をとっていけばセーブするようになっていくだろう(そうでなくして若死にされては困る)。
こういうのが「時分の花」というのかどうかわからないが、「時分の花」の盛りにいる海老・菊の今だけの「勧進帳」だったのではないかという気がする。この印象はきっとずっと忘れられないだろう。

写真はポスターから海老蔵の弁慶部分のアップ画像。
関連の感想記事はこちらm(_ _)m
11/4昼の部②菊之助の「弁天小僧」
11/4昼の部③奴隷と主人の恋「番町皿屋敷」
11/24夜の部①「馬盥」で松緑を見直す
11/24夜の部②菊之助の「船弁慶」
11/24夜の部③海老蔵の澤潟屋型「四の切」!
追記
昨年の播磨屋弁慶の感想は書いていないのだが、観ている時の体調が悪くて早く幕間になって欲しかったのでじっくり観ることができなかったのだ。来年1月の歌舞伎座で高麗屋の弁慶がかかる。文庫本で『弁慶のカーテンコール』を読んだが、さてどんな感じなのだろうか。


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7 コメント

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歌舞伎十八番 (スキップ)
2006-11-11 08:01:00
ぴかちゅうさま
ステキですね。海老蔵弁慶の高揚感がとてもよく伝わってくる観劇記、興味深く読ませていただきました。
2年前の夏、大阪松竹座の襲名披露興行で海老蔵さんの弁慶を観ました。富樫は仁左衛門さん!これがまたカッコよかったんです(笑)。
でも、“平成の三之助”としてともに切磋琢磨してきた同世代の菊之助さんとの丁々発止のやり取りは、また別のエネルギーの高まりを感じますね。観てみたいです。
海老蔵さんは、役によってご本人のやる気にムラがある(笑)ように感じることが個人的には時々あるのですが、「勧進帳」やその年の南座顔見世で観た「暫」など、歌舞伎十八番にあげられる演目は、さすがに力入っていて、海老蔵の魅力全開!見応えありました。
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ひさびさに感動!勧進帳 (かつらぎ)
2006-11-11 10:15:19
ごぶさたしております。かつらぎです。
3日に私も昼の部を見て参りました。ぴかちゅうさんのコメントを読ませて頂いて、この1週間、実にいろいろなことがあったのだな、と思いました。

勧進帳の弁慶は、大阪松竹座で見ました。実はそのとき、あまり正直「これが百年にひとりの弁慶か?」とおもったほど、海老蔵さんの調子がよくなかったように思うのです
でも、それは、いろいろなプレッシャーの中で演じられていたからだろうと思います。

それだけに、今回の演舞場は絶対に失敗できない・・という気迫、死闘のようなものを、海老蔵の今回の弁慶から感じました。自分のブログにも書きましたが、荒れ狂う凄まじい嵐のような弁慶、そしてそれを受け止める富樫の対比が、海老・菊コンビならではの一幅の絵として完成されているように思いました。それをこの若さで完成できることに驚嘆しました。まず、このふたりが作り上げていく「勧進帳」なら、間違いないでしょう、と思います。

音楽面においてもふれたいと思います。今回長唄さんが新しい方に替わっていましたが、実に立派でスケールの大きい演奏だったと思います。私は、どうしても巳紗鳳さん・巳太郎さん、というイメージがつよいのですが、この方々による、まったく新たなダイナミックな「勧進帳」の演奏が生まれたことも、また非常に喜ばしいことだと思っています。
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熱い舞台でしたね! (Ren)
2006-11-11 15:06:00
こんにちは☆
海老蔵さんの弁慶が花道に出てきたときすごい熱いものを感じました。気迫というかオーラなんでしょうね。「勧進帳」「弁天小僧」とすばらしい出来でもう一度見たい!と思いました。(チケないので無理ですが・・)
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二十代の弁慶・富樫 (さちぎく)
2006-11-12 00:14:12
海老蔵の弁慶は注文はあるものの(セリフが雑になるとか、目の演技をやりすぎとか・・・)今の若さあふれる魅力的な弁慶です。どうにかして義経を守らなければという気持、「判官御手を~」の義経に対する忠義心、情けある富樫への感謝の思い、こういう心がややオーバーではありますが、ひしひしと伝わってきました。
対する富樫の菊之助、セリフもよく分かり、情けある富樫をきちっと演じていました。本当に良いコンビですよ。
「弁天小僧」も松緑の南郷とイキぴったり良かったです。
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皆様コメント有難うm(_ _)m (ぴかちゅう)
2006-11-13 02:47:05

★スキップ様
海老蔵弁慶がヒートアップしても仁左衛門富樫だとしっかりと受けとめて抑制がきいたバランスのよい「勧進帳」になったんじゃないでしょうか。
そうだ、今ひらめいた。仁左衛門丈は「しなやかさ」がいいんです。しなやかだとタメがきいてここぞというところで力が出せるんですよ。「柔よく剛を制す」って言いませんでしたっけ。それだと思う。この間どうやって仁左衛門丈の芝居を言い表そうか考えていたのですが、おかげでひらめきましたm(_ _)m
それと若手を育てる力が大きいように思います。染五郎しかり、菊之助しかり。海老蔵ももっと組ませてもらうといいと思いました。
★かつらぎ様
>海老・菊コンビならではの一幅の絵.....このコンビはなかなか得難いと思います。これからもしっかりと精進してもらって長く楽しませてほしいです。
また長唄さんの情報も有難うございますm(_ _)m私はそちらにまでなかなか関心が広がっていっていないです。大夫さんもまだまだ名前とお顔が一致しない方も多いものですから(^^ゞ
今月しっかり通って堪能してきてくださいませ(^O^)/
★Ren様
>「勧進帳」「弁天小僧」とすばらしい出来でもう一度見たい!.....そういう方が今月はたくさんいらっしゃりそうです。この11月は演舞場と歌舞伎座で若手とベテランの歌舞伎を観ることができて充実しそうで嬉しいです。感想を書くのがおいつかなくなりそうなおそれが大きいのですが(^^ゞ
★さちぎく様
>二十代の弁慶・富樫.....まさに今でしか見られない舞台を見せてくれたという感があります。松緑も含めてこの3人はずっと一緒に活躍していってもらいたいです。ああ、先代の辰之助さんはもう少し長生きして活躍してほしかった.....(T-T)
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こんにちは (dream)
2006-11-27 20:56:47
こちらにもお邪魔いたします。
いつも海老蔵様にはオーラのある方だなぁ~。
なんて思っていましたが、今回の弁慶には熱い
ものを感じました。「勧進帳」は是非もう一度
観たいと思っています。
子供が観劇した日は「勧進帳」のみカメラが入
っていたようですからTV放送を期待しています。
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★dream様 (ぴかちゅう)
2006-11-28 00:32:18
こちらにもコメント有難うございましたm(_ _)m
私も今回の弁慶の花道の出のところで海老蔵のオーラを初めて感じました。NHKの朝番組にジャージ姿で出てきた人と同じとは思えません(以後は普段着禁止!袴姿で出て欲しい=笑)
この熱さも今だけのもの。時分の花の弁慶なんだと思います。10年20年後も同じようだと脳内血管が危ないですよ。
一方で新春の幸四郎のベテラン弁慶も楽しみになっています。
今回の録画のTV放映は是非とも歌舞伎チャンネルなどでない局からお願いしたいです。自分が観られないもんですから(^^ゞ
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