ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記

宝塚から始まった観劇人生。ミュージカル、ストレートプレイ、歌舞伎、映画やTVドラマ等も書きます。

07/01/14 渡辺保氏の放送大学公開講演会を聴講

2007-01-16 23:58:49 | 観劇

またもやyukari57さんからお知らせいただいて演劇評論家・渡辺保氏の講演会に行ってきた。今回は放送大学の公開講演会ということで参加費無料。通常なら3回乗換えですむところ京浜東北線で工事が入っていてぐるっと大回りで4回乗換えて一橋大学小平国際キャンパスまで。頑張って遠出した甲斐のあるお話だった。
昨年11/18の講演会「襲名と新しい歌舞伎」聴講メモはこちら
今回のお題は「歌舞伎の魅力とは何か 5つのポイント」。レジュメなしだったので見出しなどは私の独断だ。
1.衣装の素晴らしさ
①カラフルな舞台の魅力の一番重要なものは衣装(江戸時代は大道具などは今に比べれば粗末なものだった)。原色の色使いの大胆さ。
例●菊之助の「船弁慶」の衣装は玉三郎が贈った物。3年がかりでつくらせたもの。今の能衣装は昔の色を出すが難しい。●吉右衛門の「俊寛」の錦を継ぎ接ぎした衣装。パーツは豪華で全体はボロに見せる。●「知盛」後半の大口袴。白地に平家の紋。それが血に染まる。見事に戦のイメージが広がる。
②何重にも意味がある模様や紋。
●舞踊「かさね」の肌脱ぎの襦袢の紅葉。血に見える。紅葉の名所高尾はかさねの姉の太夫名。その姉の運命と同じ運命をたどる妹。●桜丸の切腹前に白の襦袢(裸になることをあらわす)になる前に赤の襦袢を見せるのが性根。他
2.音楽
下座音楽が大事。それでどんな場面かわかる。ミュージカルのオーバーチュアにあたる。静かに聞いてほしい。効果音とともに約束事を観客にうえつける。そういうルールが出来上がっているところが文化。また同じ場面でも人によって違う音楽を使う場合もある(例:「寺子屋」の芹生の里で恋の仮名文の方を使う場合は習字→恋文までというイメージが広がる)
3.舞台空間
①花道は舞台とは違うもう一つの場所。過去のこと別の場所のことをしゃべる時は必ず「向こう」を見る=「思い入れ」。舞台をはさんで「奥」(ブラックホールのよう)もあるという空間構成となっている。
②舞台装置も定型のもの。構造は同じで変えるのは少しだけ。例:「すし屋」も「渡海屋」も同じ構造。
4.「型」
静止したポーズを演出することが「型」。役者が工夫してその人の型となる。同じ場面でも違う型が伝承されていてそれぞれの美しさがある。「型」は人から人へ伝承するときのテキストになる。「型」があったからこそ女方も歌舞伎に残った。記号としてシンボルとして理解させる。
5.実は~
歌舞伎は荒唐無稽だと言われるが、わざとそういう設定にしている。「実は~」というのは芝居の「引抜き」のようなもの。
例●花川戸助六、実は曽我五郎。江戸時代から鎌倉時代へのタイムスリップの面白さ。曽我五郎は敵討を果たしてすぐに死ぬ。男の中の男の無残な一生を助六に重ねている。男という属性の抽象化。
★近松門左衛門の「虚実皮膜」
芸というものは「虚実皮膜」の間にあると語っている。虚にして虚にあらず、実にして実にあらず。AでもなければBでもない。リアルではないがそう見えるようにする「働き」が大事。
例●「かさね」の襦袢の紅葉。紅葉であり血潮でもあり女の怨みでもある。
★「つかずはなれず」「ぬめりという感覚」
踊りも地方の音楽にベッタリついたら面白くない。定間定間で踊るのではダメで1・2・3の3で合わせるくらいのつかずはなれずで踊るのが良い。
「ぬめり」という感覚が歌舞伎では大事。植物のぬめりも余計なものだがそれがあると味わいが出る。この浮ついた艶かしい感じが歌舞伎の官能性。官能性があるということが出雲の阿国から伝わっている歌舞伎の本質。「ぬめり」という光彩をとったら歌舞伎ではなくなってしまう。
以上、ぴかちゅう文責によるメモ。5つのポイントといいながら、いつのまにか7つくらいになっている(^^ゞ
あと、日本の伝統芸能においては拍手とかをする習慣は元々なかったのに拍手が増えた。納得のいく拍手だけでなく意味のない拍手もある。意味のないところでの拍手はやめてほしいというようなお話もあった。

前回保留にした質問は今回のお話だとあまり関連性がないので自粛。またの機会ということにした。そして前回の講演会のような問題提起的なお話はあまりなかったが、観客へのご指摘は上記のようにあった。しかしながらそうは言っても歌舞伎以外の演劇を観る延長線上で歌舞伎を観にくれば、そうなってしまうことも多々あるだろうなとも思う。歌舞伎がブームになっていて気軽に観にきてくれる観客が増えていることはいいことだと思う。見巧者の方たちはそういう新しい客層への違和感を持たれることも多いと思うのだが、これはなかなかに難しい問題ではないか。まずは自分の勉強優先とすることにしよう。

追記
今月歌舞伎座の3本をおすすめされていたのを追記。吉右衛門の「俊寛」、玉三郎の「金閣寺」、勘三郎の「鏡獅子」。現代歌舞伎の高度な水準の舞台ということだった。夜の部はこれからなので楽しみが増した。
写真は会場の一橋学園キャンパス。

終了後、駅前のマクドナルドで5人でオフ会。楽しかった。そして私はその後ラピュタ阿佐ヶ谷へ映画「曽根崎心中」を観に行くという欲張りな一日を過ごしたのだった。