ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記

宝塚から始まった観劇人生。ミュージカル、ストレートプレイ、歌舞伎、映画やTVドラマ等も書きます。

06/11/18 渡辺保氏特別講演会「襲名と新しい歌舞伎」聴講

2006-11-18 21:43:15 | 観劇
yukari57さんからお知らせいただいて演劇評論家・渡辺保氏の特別講演会に行ってきた。十文字学園女子大学の客員教授でもいらっしゃって保護者会開催に合わせた特別講座ということで参加費無料。同じ県内でもあり、武蔵野線に乗って新座まで。お茶屋娘さんと3人並んで聴講。

先生のお話のお題は「襲名と新しい歌舞伎」。
1.襲名について
●歌舞伎役者の襲名は松竹株式会社の商業政策上にある。
●襲名の思想的根拠は日本における近世以前の人間のとらえ方による。
・大きな名前は財産。遺産相続のように争いも起きる。
・個性を重視するようになった近代以降の考え方ではない。
・襲名する名は一つの人格であり継承してきた先達と一つになること。共同体の中で自分の個性をなくして積極的にその名を自分の物にすること。
・その名前は記号ではなく、集客力という力を持っている。
●襲名の効果
・役者に自信が生まれ緊張感が出て一回りも二回りも大きくなる。
・襲名には役者にもかなりの経済的負担を強いるが、それを上回る効果がある。
2.新しい歌舞伎
①コクーン歌舞伎
串田和美さんは父が戸板康二さんと懇意だったくらいで小さい時から歌舞伎を観ている。古典歌舞伎のテキストを大事に演出している。舞台美術が優れていてそのことにより新しい視点の提供があった。
②野田版の歌舞伎
野田秀樹の書き下ろし作品はシチュエーション喜劇としてシリアスな笑いを追及している。
③蜷川幸雄演出「十二夜」
シェイクスピアの箍をはめて洗練された美しい舞台に仕上げていた。幕開きのハーフミラーによって歌舞伎座の自画像を別の角度から描き出したことは秀逸。菊之助が女方も立役もできる役者である特性を生かした作品。元々シェイクスピア劇自体が男だけで演じられてきたことは共通。歌舞伎との共通点と相違点を浮き彫りにした。
④PARUCO歌舞伎
中山安兵衛の屈折がなぜなのかが書かれていない。何の目的もなく走っている人達の姿は現代人の象徴だったと思う。
⑤いのうえ歌舞伎
劇団☆新感線は確かに新幹線のようにスピード感があるが、話がつまらない。パクリが多い。本人が歌舞伎と名乗っているだけでこれは論外。
★「新しい歌舞伎」の成果と欠点
成果
・いずれも興行的成功をおさめた。
・歌舞伎界に新しい作者・演出家を入れて新しい視点を入れた。
・特に①~③は評価できる。歌舞伎を分析・批評・解体するもので歌舞伎の可能性を拓くもの。
欠点
若い世代の役者が「客に受けること」を覚えてしまった。観客に迎合して媚を売ったり客をいじるようになった。古典芸能の世界では落語も含めて禁じられてきたことを破った。観客との距離感が大事。
歌舞伎の本来の良さは「芸の格」「品格」であり、それが崩れかかっている。新作・新演出はいいが真面目にやってもらいたい。そうして「文化遺産」としてきちんと守っていってほしい。
以上、ぴかちゅう文責によるメモ。

最後の質疑応答ですぐに手を上げなかったのが失敗。どうにも先生の話にかみあわない質問が3本続き、ある方の質問には「私はそういうことは言ってません」と回答されることもあった。まあこういう質問も出るとは思うがうーん、私の質問の方がよかったな。
お聞きしたかったのは、歌舞伎役者の美しさが時代によって変わるという(そういうお話もあった)のと同様に、歌舞伎の良さという概念も時代によって変化してしまうのではないかということ。先生のおっしゃる本来の良さの理解はなかなか難しい時代になっているがどうしたらそういう観客を増やしていけると思っていらっしゃるのかということ。

もう少しで読み終わるが、先生の1989年の著作で1993年にちくま学芸文庫にもなった『歌舞伎 記号の森』の口上でこう書かれている。
「もともと私は古典というものは簡単なものでも面白いものでもまして気軽にわかる類のものではないと思っている。・・・・・(中略)・・・・・いまの観客の何人が歌舞伎を本当に理解しているかというとまことに心もとない。むろん私自身も歌舞伎を考えてやはり日暮れて道遠き想いにとらわれざるをえないのである。」
これはかなり高尚でストイックな方だと思った。それを読んだ上で今回の講演会にのぞんだが、やはり質問したかったなぁ。

私自身は先生のように経済的に余裕のある環境に育たなかったので、一枚一枚のチケットのコストパフォーマンスを考える。3階のA席にするかB席にするかをそうとう考える。そうして払った代価に対してやはりある程度エンタメ度が高いと嬉しかったりする。一方で伝統芸能としての奥深さも感じてこうしていろいろと本を読んで勉強したりもする。そこでいろいろと問題意識を醸成中なのである。

そうこうして歌舞伎会一般会員の私もしっかりと劇場に通いつめてしまい、ついに2007年ゴールド会員に到達するまでになった(写真参照)。これで来年はもう少し正面席で前の方で観ることができるだろうと嬉しい。まあ3階席中心の観客であることは同じであるが(笑)

終了後、駅前のジョナサンでオフ会。よくしゃべりました。


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12 コメント

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楽しまれたようで何より (yukari57)
2006-11-18 22:23:59
これからも何かあったらご連絡しますね!
次回のぴかちゅうさんの質問楽しみにしています。
ああ、楽しかった!今、ジーク太郎が膝にいるのでまたゆっくりと。
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さすが核心にせまるお言葉 (とみ)
2006-11-19 12:31:33
>ぴかちゅうさま
立派な講演録ありがとうございました。
箇条書きのところがうれしいです。
さて,メッタ切りセンセが誉めておられるのが残念な感じ。お体でも悪いのか(爆)心配です。
センセならこれくらい言っていただかないと…。(以下仮想)
「お客様との一体感を客いじりとはき違えた役者,回り舞台の劇的効果を只の場面転換に貶めた演出家,歌舞伎役者の身体能力は糸にノルこと,それをもはや死語となった新劇の台詞術の枠に封じ込めた演出。」
ワタクシは吉右衛門丈の新作や亀治郎丈の新演出が最も好きです。歌舞伎の表現技術にとことん拘り,古典のドラマツルギーの制約の中に,宿命に立ち向かったり芸術の永遠性に殉じる人間の美しさを躍動と共感で織り上げてゆかれます。
あー東京に行きたいです。ゴールドにもあこがれます。
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皆様コメント有難うm(_ _)m (ぴかちゅう)
2006-11-20 00:16:31

★yukari57様
オフ会もいっぱいしゃべれましたね。またお知らせお願いします。質問は三田祭で傾亭さまが聞いておいてくださるとご連絡いただいてちょっとあせっております。質問事項を箇条書きにしないといけないかな。
★とみ様
>メッタ切りセンセが誉めておられるのが残念な感じ
.....いえいえ5つの新しい歌舞伎の最後のふたつは否定的評価でしっかりメッタ切りだったんです。本文中にはそこまで書きませんでしたけれど(笑)
「なぜこの場面でこんな笑いが」という論議を思い出します。先生のように歌舞伎を古典芸能として愛して研究し続ける心積もりを全ての観客に期待できるかというと無理だと思います。時代の変化にも対応しつつ経営的にも成り立ち、質もきちんと堅持していく舞台づくりをキャストもスタッフもしていく努力はしていっていただきたいです。私も勉強しながら楽しんでいこうと思います。
娘の学校通いよりも私の劇場通いの方がよほどちゃんと勉強しているなぁと苦笑しつつ、まあ長い目でお互い続けていけるといいかなと.....。
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Unknown (さちぎく)
2006-11-20 00:56:24
<若い世代の役者が「客に受けること」を覚えてしまった。観客に迎合して媚を売ったり客をいじるようになった。古典芸能の世界では落語も含めて禁じられてきたことを破った。観客との距離感が大事。
歌舞伎の本来の良さは「芸の格」「品格」であり、それが崩れかかっている。新作・新演出はいいが真面目にやってもらいたい。そうして「文化遺産」としてきちんと守っていってほしい。>
正に同感です。この先どうなっていくんだろうという不安を感じます。若い人のエスカレートに苦言できる人って誰でしょうね。成駒屋はしっかり言って下さっていたと思うなぁ。
あのー、今度は私めにもお声かけて下さいまし。予定があえば行きたいです。
目出度く来年はゴールド会員に・・・みなさんのお仲間入りです。
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異論反論♪ (花梨)
2006-11-20 01:06:39
こんばんは。そんなおもしろい講演会があったのですね♪
私もでも保先生のメッタ斬りには幾つか疑問。

⑤いのうえ歌舞伎
別に歌舞伎風味が多少味付けされているだけで、歌舞伎作品じゃないから、同列に語る方がおかしいかと。それならネオ歌舞伎の花組を同列に挙げるべき。

③蜷川幸雄演出「十二夜」
これは大反論です。廻り舞台は豪華なセットの場面展開の為だけにしか使われていないし、何より台詞廻しが美しくなかったのは、シャイクスピア作品としては致命的。
↑その場にいたら、これだけは言いたかった(笑)

以前一度だけ保先生の講演会に行きましたが、凄くおもしろかった~。何より舞台を愛していることが伝わってくるので、辛口も全然気にならないです。
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追記 (花梨)
2006-11-20 01:08:32
ブックマークに入れて頂きありがとうございました♪
あとシャイクスピアじゃなくて、当然シェイクスピア。かな入力はこれだから…。
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続・皆様コメント有難うm(_ _)m (ぴかちゅう)
2006-11-20 02:24:08

★さちぎく様
渡辺先生は「文化遺産とは壊れかかって滅びかかっているものに与えられるもの」でまさに歌舞伎はその通りという言い方もなさっていました。だから守っていってほしいと。
歌舞伎の本来の良さは「芸の格」「品格」.....このへんなんですよ、私が本を読んでいても納得するようなそれだけではこれからやっていけないよと思うのは。
権力者向けの芸術志向を強めていったために「理解できる一部の方だけがわかればいい、楽しめればいい」というような感じのある能楽のように、歌舞伎はなるべきではないし、なってほしくないんです。庶民の娯楽だったはずなのですから。明治時代の高尚路線化の弊害がまだ残っているような気がするのですが、もっと娯楽として魅力があった江戸時代の歌舞伎への原点回帰をどのように図るかということを大事にしていくべきではないかとも思うんです。そのへんは猿之助丈の問題意識に得るところが大きかったです。
お声かけの件、了解しました。今回ぎりぎりまで私も迷ってたものですから(^^ゞ
★花梨さま
花組芝居には歌舞伎役者が出ていないけれど、いのうえ歌舞伎には染五郎が出ているというのが大きな違いとしてあると思います。歌舞伎役者が演じれば歌舞伎だという論もありますし。ただ5番目にいのうえ歌舞伎を上げたのは4つではカッコがつかないから上げただけという辛辣な言い方もされてました。歌舞伎の外題も五文字か七文字だし。数字の問題?!
『NINAGAWA十二夜』のハーフミラーに客席が写ったというのは私にとっても大きな衝撃でした。それから桜の舞台が透けて見えてきた時も感動しました。感動大きかったです。それと双子=鏡というイメージがあるようでさい芸で観た『間違いの喜劇』にも鏡の装置が使われていて興味深かったです。
大体、日本語で聞くシェイクスピアには元々限界がありそうですし台詞回し、これは歌舞伎風のシェイクスピアなのでこんなもんだと思いました。
質問があまりにもピンボケだったので先生が可哀相な
感じがしました。花梨さんや私の質問の方がきっとよかったと思います。
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保氏の好悪 (まるこ)
2006-11-20 09:44:02
保氏は高麗屋嫌いだから、槍玉に挙げたかったんでしょう。いのうえ歌舞伎を歌舞伎として観に行ってる客は一人もいない演劇をわざわざ取り上げるとはね。失笑するしかありません。大好きな海老蔵さんの演舞場での「信長」を歌舞伎として論じたらよかったのに(笑)
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★まるこ様にひとこと申し上げますm(_ _)m (ぴかちゅう)
2006-11-20 20:59:33

コメントいただきまして有難うございます。ただし、まるこ様のコメントはどのようなお立場でされたものなのでしょうか。議論というのはきちんと相手の意見に敬意を払った上ですべきだと思うのですが、いかがでしょうか。
渡辺保先生がただの好き嫌いで評論されているというような書き方はどのような根拠でされているのでしょうか。少なくとも先生のご本を1冊でも読まれた上でされているのでしょうか。
私はこの間、高麗屋でも染五郎は踊りがうまいなぁと思ってきました。ところが秀山祭の「菊畑」の劇評で先生が「染五郎の身体に踊りがないから動きがきまらない」的なことを書かれていたのが理解できなかったので本文中に書いた本を買って読みました。いくらかは先生のおっしゃることがわかったような気がしました。歌舞伎役者の芝居の中の「しぐさ」の元には踊りがあるのだそうです。私にはまだまだ舞踊についてはほとんどわからないので、核心に迫るレベルまでは遥かに及びませんが。
先生は子どもの頃より歌舞伎を観続けて名優の舞台をずっと観てきていらっしゃいます。それもかなりストイックな姿勢で研究されてきた方のようです。本も1冊ではありますがきちんと読んだ上で講演を聞くことができて私は大変勉強になりました。
もちろん全面的に賛同しているわけではありません。疑問が残った点もあり、先生の価値観と私の価値観が違うところもあります。しかしながらともに歌舞伎を守り育てたいと思う立場で深めていきたいという立場ブログにアップさせていただきました。
それを皆で深め合っていくような論議をここではしたいと存じます。そういう私の思いをご理解いただきまして今後のコメントをいただきますようにお願い申し上げます。
追記
特にURLやメールアドレスをつけずにコメントする場合は言い捨てるような内容のコメントを自分でない人のブログですべきではないと考えますが、いかがでしょうか。
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是非先生の著書、「日本の舞踊」を (yukari57)
2006-11-20 23:46:43
ぴかちゅうさん、林真理子も推薦している、先生の岩波新書の著書、「日本の舞踊」を是非お読み下さい。日本舞踊について言葉で記すのは物凄く難しいと思いますが、この本は目から鱗だったようなことを林真理子が書いているほど、目鱗だと思いますから。古本屋で探せば300円くらいであるかも?です。図書館なら必ずありますよ。
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