ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記

宝塚から始まった観劇人生。ミュージカル、ストレートプレイ、歌舞伎、映画やTVドラマ等も書きます。

05/06/04 『箱根強羅ホテル』

2005-06-07 17:23:59 | 観劇
新国立劇場の2005演劇シリーズ企画「笑い」の第3弾で井上ひさしの新作。新国立劇場芸術監督の栗山民也が演出。
遅筆堂と名乗る井上氏のこと、新作だと初日が遅れたり、予定されていた内容とすっかり変わってしまうこともある。今回も稽古場を地獄にしてしまったとパンフレットのはさみこみになっていた作者の挨拶にあった。その舞台は...微妙な間のところまでぴたりと息が合っていてさすがだった。ホント、役者さん、スタッフさん大変だったろうな。

話の大筋は以下の通り(HPより抜粋に手を加える)。
今回は、井上ひさし所蔵の膨大な資料の中から、元首相で後にA級戦犯で処刑された広田弘毅が戦争末期、箱根強羅ホテルで、和平の仲介を中立同盟国であるソ連に依頼するための会談を秘かに持っていたという事実に刮目。戦争末期の悲惨な日本の状況を救うことが出来るのかというシリアスな問題を、井上ひさしならではの虚実ない交ぜで展開する抱腹絶倒劇として描かれている。
1945(昭和20)年。当時の日本では指折りの名門ホテル「箱根強羅ホテル」が、丸ごと日本政府に接収された。ソ連邦の駐日大使館の再疎開先に指定されたからだ。ホテルの雇われ管理人秋山テル(梅沢昌代)のところへ外務省参事官加藤清治(辻 萬長)がそのことを伝えに来て、従業員として外務省が雇った従業員の男たちが次々とやってくる。戦争に行けない障害があったり戦地から病気で帰されたりした男たち(内野聖陽、段田安則、大鷹明良、酒向 芳、藤木 孝)。他にテルが雇った女たち(中村美貴、吉田 舞、平澤由美)、駐日大使館の職員の子どもたちに日本語を教える教師のロシア人とのハーフ山田智恵子(麻実れい)が登場する人物。
和平工作を阻むために軍部がスパイを送り込んでいるのがだんだん明らかになってくる。軍部のスパイも陸軍、海軍、憲兵隊と3派から別々にきているが、協力し合ってホテルの爆破をたくらむ。しかし、その作戦は阻止された。そこまでかなり随所で笑える笑える。
スパイたちは解雇されて去っていくが、その際の憲兵隊の調査官役(藤木 孝)のソ連をそんなに信じての和平工作でいいのかというような台詞が秀逸。それをきいて外務省参事官が天皇による戦争終結宣言をラジオでやればいいという具申をすることを思いつき、本省に急ぐが...、取り上げられることもなく、敗戦。敗戦後、ホテルは米軍用に接収され、その片付けのシーンで終わる。最後がちょっと物足りなかった。
日本の戦争責任をきちんと追及してきた井上ひさしらしく締めくくったのだが、最後は時間切れかなという印象も持った。完成度という点では『太鼓たたいて笛吹いて』の方が高いと思う。新国立劇場で上演されている東京裁判三部作は、まだどれも観たことがない(「夢の裂け目」「夢の泪」の2作を発表済み)。来年には第3作目の最終章を発表予定とのこと。それは是非観に行くつもりである。

麻実れいと内野聖陽の役が実は異母兄弟だったとかいう盛り上がりの中のデュエットとか、登場人物には歌の達者な人が揃っていて、井上流 “ドラマ・ウィズ・ミュージック”の流れの作品として充実している。7人の演奏陣も戦時中の国民服やもんぺ姿に身を固めてドラマに溶け込んでいる。音楽はベストコンビの宇野誠一郎だが、「ひょっこりひょうたん島」の曲から2曲、『みんな人間よ』と『鬼ヶ島の子守唄』の2曲はチャイコフスキー、リチャード・ロジャースから2曲、など等、劇中歌も多彩。
以下、キャスト評。
麻実れいの役は、まさに彼女のための当て書きをしたような感じで、ロシア人とのハーフという設定もあの長身、エキゾチックな顔立ちでは納得してしまう。子どもは全く登場しないのに子どもたちを思う教師としての思いがきちんと伝わってくる。井上作品に出たくて仕方がなかったということだが、その思いをぶつけた熱演であった。
内野聖陽は、前半の植木職人の角刈り半纏姿にまずびっくり。後半の陸軍少尉の姿と最後の学生服姿の3つの変化にファンは大喜びだろうな。歌もかなり上手くなっているし、麻実れいと伍してふたりで歌ってもすごくいい。
段田安則は、内野聖陽とそれぞれの作戦で天井から降りてくるところ、ふたりとも身の軽さがすごくて感心。三枚目的な芝居も上手い。2月に観た『幻に心もそぞろ狂おしのわれら将門』の三郎役の重厚さといい、芸の幅が広くていい役者だ。
藤木 孝も前半は頼りなさそうで後半ぐっと渋く決める。『デモクラシー』の院内総務役といい、存在感のあるいい役者。
いつものこまつ座おなじみキャストの辻 萬長、梅沢昌代らももちろんいい。『ミス・サイゴン』のジジ役に抜擢されていた平澤由美が芝居も上手くこれも感心した。

写真は、新国立劇場のHPのチラシ写真から転載。