田沼武能のカタルニア・ロマネスク

2022-06-02 22:28:20 | 写真


写真家の田沼武能さんが他界されました。

高校生の頃、父親の書棚のなかに一冊の写真集を見つけました。
田沼武能写真集 カタルニア・ロマネスク。
それはすべてモノクロの写真集で、スペイン・カタルニア地方に古くから残る石造りの素朴な礼拝堂と、そのまわりに暮らす人々の日常を写したものでした。

以降、ぼくの人生はこの写真集とともにあったと思います。
そこに映る写真に導かれるようにして大学では建築学を専攻しました。
大学のキャンパスは新宿にありましたから、自ずと設計課題のテーマは都市に対する問題提起をし、それを斬新な切り口のコンセプトで解決していくのが、いわば設計課題でセンセイ方に評価されるトレンド手法だったように思います。
まあぼくは、一生懸命に設計課題に取り組みはしたけれども、どうも馴染めず不毛な思いもありました。
そんなときはこっそりと田沼さんの「カタルニア・ロマネスク」を眺めては癒され、救われていたのでした(笑)

仕事をし始めて20年以上経ち、「カタルニア・ロマネスク」に向き合い続けるなかで自覚的になってきたテーマを、そっと設計のなかに忍ばせるようになってきました。

それは、寄る辺となるものを築く、ということ。

寄る辺とは、日々の暮らしのなかに平穏をもたらし、安心感をもたらしてくれるもの。

そんなことをあらたまってお施主さんに言うのは恥ずかしいから(笑)、別の言葉で置き換えたりしているのですが。

ぼくにとって設計の活動は人生と同義だし、その核をなすのは、田沼さんのファインダーで切り取られた図像の数々なのです。
田沼さんの写真なくして、今のぼくはあり得なかった。
そんなことを思うと、感謝の言葉しかありません。


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