[Short Term 12 (2013)]
ロカルノ国際映画祭ほか世界中の映画祭や映画賞を席巻した、未成年の保護施設を舞台に生きる喜びを描いた感動のヒューマンドラマ。ティーンエイジャーをケアするための短期保護施設で働くヒロインの心の闇や、彼女を取り巻く施設の子供たちが心に受けた傷を丁寧にすくい取る。監督と脚本は、これまでショートフィルムなどを手掛けてきたデスティン・ダニエル・クレットン。主演は、テレビドラマ「ユナイテッド・ステイツ・オブ・タラ」シリーズなどのブリー・ラーソン。人とのつながりや人の温かさを感じさせる、珠玉のストーリーが心に響く。(シネマトゥディより)
上映時間は比較的短く、見やすい映画に仕上がっていましたが、その内容は濃く、冷静ではいられないものでした。”ショートターム”とは、18歳以下の事情のある子を短期間預かる施設のこと。しかし、それぞれ深い事情を抱える子供たちに寄り添うのは、その辺の人間には務まりません。彼ら若いスタッフたちの才能の高さには、本当に感心しました。
子供たちに対する絶妙の距離感。当然ですが、いくら彼らのためを思っていても深く関わればいいというものでもなく、また滅多なことで心を開いてくれるものでもありません。
また、施設には施設のルールがあって、一歩施設から出ると彼らに触れることはできません。それは、うっかり施設から脱走してしまうと、あとは追いかけて言葉で説得するしかないことを意味します。もちろん彼らだって、脱走したって行くところもないわけですが、しかし最悪の結果を招かないためにも、とにかく寄り添うしかありません。
しかも、teenagerのための短期施設のため、18歳になると否が応でも出て行かなければなりません。いくら施設になじんでいても、行くあてがなくても。そんなシーンも描かれます。黒人のマーカス。彼自身は言葉や体の不自由もなく、賢い男の子なのですが、深い深い心の闇を抱いています。卒業間近の彼が「歌を作ったから聞いてくれ」とスタッフのメイソン(男性)に言います。小さな太鼓をたたきながら応じたメイソン。しかし、その内容の悲しさにしまいには太鼓をたたけなくなります。「おぉ・・・マーカス・・・(つぶやき)」それ以上の言葉が見つかりません。私は涙が止まりませんでした。
メイソンだって、元々は孤児です。でも、彼は優しい養父母に恵まれ、仲間に恵まれ、育ちました。ちょっと変人(?)だけど、とっても優しい男性です。そんな彼は同じスタッフのグレイスとつきあっています。グレイスは有能なメインスタッフで、自らの人生のことを多くは語りませんが、子供たちに寄り添うのがとても上手です。
もちろん、いくらスタッフが有能でも、横やりも入ります。「優秀」と言われる心理士さんに「訓練」と称して、大事にしていた人形をすべてとりあげられ、こもってしまった少年。これ、誰が考えても極端ですよね。でも、心理士さんが正しいってことになってしまうのです。このへんは「カッコーの巣の上で」を想起しました。
新メンバーの少女の筆記から、父親による性的虐待を確信したグレイス。でも、所長(男性)は「僕も知っているけど、立派な男だ。私だって現場は長いんだからわかる。それはない。そもそも子供たち全員を救うことなんてできないんだ」などとのたまう。なんでそれは絶対にない、なんて男性にはっきりわかるんですか。
件のマーカスが退所を前に、初めて頭を刈り上げるシーンがあります。どうして今まで髪を伸ばしていたか明らかになるシーンも。そして「大丈夫。刈り上げられる」とわかった時の希望。
人は一人っきりでは生きて行けません。どんなに裕福でも、どんなに優秀でも。もっとも、裕福だったら人が集まって来るのかもしれませんが(笑)。
ともかく、心揺さぶられる映画でした。自分にも発達障害の息子がいるので、いろんな面倒が起きてほとほとイヤになります。この映画を見たからと言って「私もがんばらねばなぁ」などと、お手本のような感想は持ちませんし、生きる希望を見出すわけでもありません。逆に、「普通の子供を産んでるのに、なんでそれに感謝せずに虐待するんだろう」と思ったりします。
それより、グレイスやメイソンの寄り添いの上手さに感心しました。この感性、学習するものではないんだろうなぁ、と思いました。
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