「スラムドッグ$ミリオネア」などの俳優デヴ・パテルが構想に8年をかけた監督デビュー作で、架空のインドの都市を舞台にひとりの男の復讐劇を描いたアクション映画。
幼い頃に故郷の村を焼かれ、母も殺されて孤児となったキッド。どん底の人生を歩んできた彼は、現在は闇のファイトクラブで猿のマスクを被って「モンキーマン」と名乗り、殴られ屋として生計を立てていた。そんなある日、キッドはかつて自分から全てを奪った者たちのアジトに潜入する方法を見つける。長年にわたって押し殺してきた怒りをついに爆発させた彼は、復讐の化身「モンキーマン」となって壮絶な戦いに身を投じていく。
パテルが自ら主演を務め、「第9地区」のシャルト・コプリー、「ミリオンダラー・アーム」のピトバッシュが共演。パテルとともにポール・アングナウェラと「ホテル・ムンバイ」のジョン・コリーが脚本を手がけ、「ゲット・アウト」のジョーダン・ピールがプロデュースを担当。第31回サウス・バイ・サウスウエスト映画祭で観客賞を受賞した。(映画.comより)
<2024年8月25日 劇場鑑賞>
「スラムドッグ・ミリオネア」で少年だったデヴ・パテルも、もう立派な大人の俳優になりました。「ライオン」や「ホテル・ムンバイ」「グリーンナイト」など、いくつも作品を見ましたが、今回は初監督作品だということで、どういう題材なんだろうと思っていました。この作品は、インドの架空都市を舞台に、インドに深く根付く神話をベースにしています。なので、ある程度神話を理解しているほうがわかりやすいかと思います。
デヴ演じるキッドは、幼い頃、目の前で母親を焼き殺されました。なぜなら、カーストの身分が著しく低かったからです。突然立ち退きを強要され、抵抗した。それだけです。生活の保障もないのに反論するのは当然です。それなのに「女の癖に生意気な」と焼き殺されてしまったのです。そのトラウマとや、想像絶するものがあると思います。その後も親のないまま、苦労を重ねて成長しました。今は猿の被り物をして闇のファイトクラブで殴られ屋をしています。
ところで、この映画には時々彼の回想シーンが入るのですが、そこで母親がハヌマーン(猿の顔を持つ神様)の物語を語って聞かせるシーンが何度かあります。その中に、ハヌマーンは太陽を熟した果実と勘違いして登り、一度落とされてしまった、という話があります(そんなバカな、と思いましたけどね。笑)。実際のハヌマーン神話には、ラーマ王子が妻シータを助けに行く旅に同行して協力したり、一度死んだものの破壊神シヴァによって再生され、そして雷、水や火にも耐性のある戦士となって蘇ったとか、いろんな話があるようです。
それで、そういうバックグラウンドもあって、キッドは基本的に猿神ハヌマーンに守られている、という設定になってたみたいです。それというのも、キッドは何かを周到に準備していたわけではなく、偶然の機会を得て復讐を開始するし、準備不足からか、やられてしまったりすることも多々あるのです。見ていた私は「えぇ?復讐って、そんな行き当たりばったりでできるものなん?危険すぎるやろ」と思ったし、それでも殺されずに生き永らえ、やがてヒジュラ(女性の格好をしているけど男性)の部落に匿われ、そこで鍛錬を積み、強くなってまた世の中に打って出る姿を見るにつけ、どういう展開なのかと少し思っていたのですが、どうやら「すべてハヌマーンの庇護があったから強くなり、成功してゆく」ということだったようです。
ともかく、キッドは強くなり、復讐を果たせました。ヒジュラの面々も応援に駆けつけてくれました。彼らは、普段女性の格好をしていますが、いざとなれば体格のある男性ですから、強いのです。この辺も、シヴァにより再生したハヌマーンや、ラーマと共に猿の軍団を率いて戦ったハヌマーンになぞらえてあるのかもしれません。
今回、デヴの細くて長い手足に見とれました。こんなに足細かったっけ?とか、こんなに背が高かったっけ?とか思いました。こんな見栄えのする体格だったっけ~と真剣に思いましたが、彼自身はテコンドーの黒帯なんですってね。さすが。素養があったのですね。
神話を知らなかった私は、”こんなへなちょこ戦士があるものか”と思ってましたが、その辺、インドのことをよく知って見ると、きっと楽しめる映画だと思います。