かりそめの旅

うるわしき 春をとどめるすべもなし 思えばかりそめの 旅と知るらむ――雲は流れ、季節は変わる。旅は過ぎゆく人生の一こま。

「ラ・フォル・ジュルネ」が鳥栖へ

2011-05-11 03:43:23 | 歌/音楽
 「ラ・フォル・ジュルネ」(La Folle journée)とはフランス語で、訳すと「狂おしい日」「われを忘れた日」だが、フランスのナント市(フランスの西、ロワール川のほとりにある街)で始まったクラシックの音楽祭である。
 一日中、クラシック音楽を楽しもう、というフランスらしい洒落た祭りである。
 お祭りだから、かしこまった劇場だけでなく、小さなホールや野外会場など、様々な会場で、一日中演奏会が行われるのだ。
 通常クラシック音楽の入場料は高いのだが、この日は安い価格で多くの人に楽しんでもらおうという主旨なので、名もないアーチストやアマチュアのアーチストを集めそうだが、世界的に一流のアーチストを集めるというのがこの祭りを価値あるものにしていった経過がある。

 そもそものネーミングだが、モーツアルトの有名なオペラ「フィガロの結婚」の正式原題が、ボーマルシェの戯曲「狂おしき一日、あるいはフィガロの結婚」(La Folle journée, ou le Mariage de Figaro)で、それにちなんでつけられたという。

 「ラ・フォル・ジュルネ」、この名前から僕が連想するのは、「フィガロの結婚」ではなくて、あのヌーヴェル・バーグの映画ゴダールの「気狂いピエロ」(Pierrot le Fou)だ。
 気の狂った、夢中になったという意味のFolleは女性形で、fouは男性形という違いで、同じ形容詞である。
 こんな、「熱狂的な日」が味わえたらいい。

 その「ラ・フォル・ジュルネ」の音楽祭が、黄金週間の終日、佐賀県の鳥栖市で行われた。
 このフランス生まれの音楽祭りは、日本でも数年前から黄金週間の間に東京の国際フォーラムで行われていて、その後金沢市などでも行われているのは知っていた。
 今年から鳥栖で行われるということを、佐賀に帰っていた僕は、うかつにも5月6日のテレビでそれを知り、しかも5~7日という期間であることもその時知った。
 翌日7日の最終日は東京に戻る予定の日であったが、帰京を1日ずらして7日に鳥栖に行くことにした。
 佐賀にいて、熱狂的な日(ラ・フォル・ジュルネ)を味わえるなんて、滅多にない機会だろうと思ったのだ。
 「ラ・フォル・ジュルネ」音楽祭の九州初上陸ということだが、佐賀市でなくて、なにゆえか鳥栖市だ。ましてや、福岡や長崎でない。
 鳥栖は、新しく開通した九州新幹線の停車駅ということもあって、福岡、熊本からの来客を期待できるという計算もあったのかもしれない。福岡はその季節、「どんたく」でそれどころではない。長崎は、時期は違うが「くんち」や「ランタン」という大きな祭りがある。
 それよりも、このイベントが実現できたのは鳥栖の人(関係者)の情熱だろう。地方の映画祭もそうだが、関係者の熱意だけがものごとを動かしうるし、それを維持・推進できるのだ。
 「ラ・フォル・ジュルネ鳥栖」のテーマは、ベートーヴェンだ。
 映画「月光の夏」でも描かれた、第二次世界大戦の末期、特攻隊の青年がベートーヴェンの「月光」を演奏したというのが、鳥栖にある「フッペルのピアノ」である。

 *

 昼頃、鳥栖駅に着いたら、駅前から会場となっている鳥栖市民文化会館・中央公民館までシャトルバスが往復していた。
 会場はテントのブースが並んで、いろんな食べ物(飲み物も)を売っていて、お祭りの雰囲気が漂っていた。
 会場でもらったプログラムが載っているガイドブックを見ると、有料の演奏会は3つの会場(ホール)で、頻繁に行われている。うまくすれば、ベートーヴェンの有名なピアノ曲、特にピアノ・ソナタのいくつかを聴くことができる。
 確かに、梯子すれば朝から晩まで音楽三昧である。しかも、入場料は各1500~1000円と安い。

 ガイドブックを持って、まず入口に設えてある受付に行く。と、当日券はすべて完売でありません、とある。
 何? 一日中、音楽に浸れる、のではなかったのか?
 では、無料の野外の演奏会もいくつか行われているようなので、それを梯子して音楽三昧の日とするかと思ったが、こちらは演奏会が少なく、次の演奏まで3時間もあり、時間が開きすぎている。
 食事もしてきたばかりだし、受付の前でどうしようと考えていたら、出演者が変更した演奏会は、キャンセルが出る可能性があります、と受付の人は言う。そう言った直後に、幸運なことにキャンセルの人が現れた。
 4時からの演奏で、それまでまだ相当時間があり、それにあいにくベートーヴェンでなくシューベルトだが、一つでも有料の演奏会を聴いていかないと来た意味がないので、即チケットを手にした。
 演奏まで、会場に出ている出店を見てまわり、テントの中の椅子で本でも読んでいた。
 会場内には、多くのボランティアの高校生が活動していた。

 待ったあとの、トリオ・ショーソン(フランスの室内アンサンブル)のシューベルトの「ピアノ三重奏曲第2番」は、素晴らしかった。
 演奏が終わったあと、特設即売所で、彼らのCDを買った。
 ただ、チケットが完売なので、この日、多くの人が会場に来たにもかかわらず演奏を聴かずに帰っていったと思われる。それなのに、だいぶん演奏会場の席が余っていた。 関係者は、次回からこういう事態を考慮した対処・対応が必要だろう。

 野外に出ると、日本庭園の水上ステージで、クラリネット・アンサンブル「チャクラ」による演奏が始まった。緑の中に、音楽が流れる。

 黄昏れてきたので、夕食として屋台テントの店で、壱岐の茹でたイカをつまみに缶ビールを飲み、長崎・老李の焼きチャンポンと水ギョウザを食べた。

 この日、僕は「熱狂の日」とはいかなかったが、鳥栖の初めての「ラ・フォル・ジュルネ」は黄金週間の終りとともに終わった。課題が残っただけでも、次回に活かされ、年々熱い日になっていけばいい。
 無料の野外の演奏をもっと増やすとか。

 「サガン」だけでなく、これから、「鳥栖」の前に「ラ・フォル・ジュルネ」が冠として、知れ渡るようになればいい。

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