*ブラームスが流れる「さよならをもう一度」
「ブラームスはお好き」( Aimez-vous Brahms? )は、フランスの作家フランソワーズ・サガンの、映画化されても有名になった小説である。
映画はフランス・アメリカ合作映画として1961年作られ、日本では「さよならをもう一度」(英:Goodbye Again、仏:Aimez-vous Brahms?、監督:アナトール・リトヴァク)というタイトルで上映された。
パリを舞台に一人の中年女性に中年の男と若い男が絡む、いわゆる男女三角関係の物語は、サガンらしい甘酸っぱさが薫る繊細な人間模様で、映画ではイングリッド・バーグマン、イヴ・モンタン、アンソニー・パーキンスという当時の人気スター(イヴ・モンタンはシャンソン歌手でもあった)が共演した。
作品の中で、主人公の女性をコンサートに誘う口実に、若い年下の男が書いた手紙の一文に使われているのが「ブラームスはお好きですか?」という文句である。
映画では、女性(I・バーグマン)に一目で恋心を抱いた若い男性(A・パーキンス)が、初めて二人で外でランチを食べた後、仕事に向かうため歩き去ろうとする女性に「ブラームスはお好き?」と問いかける。
立ち止まった女性に「プレイエルホールで日曜に演奏会がある」と誘う。彼の視線の先の、パリの街の通りに「ブラームス演奏会」のポスターが貼ってある。
実際、映画のなかでもブラームスの「交響曲第3番」の「第3楽章」が様々なシーンで流れる。
若いとき、私は最初サガンのこのタイトルを目にしたとき、内容はともかく、洒落たタイトルだなあと感心した。
クラシック音楽は退屈でどこに魅力があるのかさっぱりわからなかったその頃、私が最初に買ったレコードがブラームスの「ハンガリー舞曲」と「夏の日の思い出」(作詞・作曲:鈴木道明、唄:日野てる子)だった。どちらを先に買ったのかもう曖昧だが、両方ともドーナツ盤で、「ハンガリー舞曲」は第5番と第1番だったと思う。
ブラームスはこの「ハンガリー舞曲」しか知らなかったのだが、それで充分だった。
「ブラームスはお好きですか?」と訊かれれば、私は昔から「えゝ」と答えた(だろう)。残念ながら、こう訊かれたことは今までなかったのだが。
18歳のとき、「悲しみよこんにちは」(Bonjour Tristesse )で彗星のごとくデビューしたサガンは、当時世界的に人気のある作家だった。フランスでは文化人との交流も多彩で、時代の寵児だった。特に女性には熱狂的といえるファンがいるほど人気が高かった。
あのフランソワーズ・サガンが囁く。
「ブラームスはお好き?」
*オーケストラ・サウンドをバックに、服部百音のヴァイオリン演奏
2023年9月26日、都響による「輝ける名曲、珠玉のオーケストラ・サウンド BRAHMS」と題したコンサートが行われた。
会場:調布市グリーンホール(東京都調布市)
出演:ローレンス・レネス(指揮)
服部百音(ヴァイオリン)
東京都交響楽団(管弦楽)
曲目:「ブラームス:協奏曲 ニ長調 作品77」
「ブラームス:交響曲第4番 ホ短調 作品98」
服部百音は、24歳の若手ヴァイオリニストである。生の演奏を聴いてみたいと思っていた矢先に、あのブラームスを、しかも近くの調布市で演奏するというので喜んで出かけた。
彼女ははっきりしたメイクで意外と小柄だった。しかし、演奏はエネルギッシュで力強い。
ローレンス・レネスの指揮による東京都交響楽団をバックに、メイン曲のブラームスの「協奏曲ニ短調」を熱演。
演奏のあと、アンコールで演奏した曲は、いきなり指で弦をはじくピチカートという技法で始まった。ピチカートと弓で弦を弾くアルコの技法が力強く入り混じる曲は現代的で、初めて聴く曲だった。
帰りに出口に貼られていたアンコール曲名を見ると、ファジル・サイ作曲の「クレオパトラ」とあった。
彼女のメイク、動きの大きい芝居がかった演奏スタイルが合点できた。
服部百音は、父が服部隆之、祖父が服部克久、曽祖父が服部良一という音楽家系である。
古い私らに馴染みのあるのは、淡谷のり子の「別れのブルース」、霧島昇・渡辺はま子の「蘇州夜曲」、高峰三枝子の「湖畔の宿」、笠置シヅ子の「東京ブギウギ」、藤山一郎・奈良光枝による「青い山脈」など、戦前・戦後を通じてヒット歌謡曲を数多く作り、国民栄誉賞を寄与された服部良一だろう。
*
公演の後半は、ローレンス・レネス(指揮)、東京都交響楽団による、ブラームス「交響曲第4番ホ短調」である。
アンコールは、「ハンガリー舞曲」第1番。
最後は、ブラームスのあの私のスーヴェニール曲だった。
*
出向いた調布市の駅前は、京王電鉄が地下に潜ったこともあって以前より広々とすっきりとした。調布市の駅近くの「調布市グリーンホール」や「調布市文化会館たづくり」では、ときどき音楽公演や映画上映が行われているので、気に入った催しにはこうして出向くことがある。
多摩市の「パルテノン多摩」のホールでも、かつてはしばしば有名な交響楽団やアーティストによるクラシック音楽の公演が行われてきた。クラシック音楽ではないが、あの沢田研二も2017年にパルテノン多摩にやってきたことがあるのだ。
しかし、昨年(2022年)7月のリニューアル・オープン以来、企画主催者の演劇シフトしたことにより、寂しいかな以前に比べてクラシック音楽がさっぱり催されなくなった。
こうして近郊のホールへ出向くことも、また楽しからずや、である。
<参考>
ブログ「沢田研二、ジュリーが多摩にやって来た ヤア!ヤア!ヤア!」(2017-12-19)
https://blog.goo.ne.jp/ocadeau3/e/e3ca6664b14ef21f1dbdd77e36f90cc0
「ブラームスはお好き」( Aimez-vous Brahms? )は、フランスの作家フランソワーズ・サガンの、映画化されても有名になった小説である。
映画はフランス・アメリカ合作映画として1961年作られ、日本では「さよならをもう一度」(英:Goodbye Again、仏:Aimez-vous Brahms?、監督:アナトール・リトヴァク)というタイトルで上映された。
パリを舞台に一人の中年女性に中年の男と若い男が絡む、いわゆる男女三角関係の物語は、サガンらしい甘酸っぱさが薫る繊細な人間模様で、映画ではイングリッド・バーグマン、イヴ・モンタン、アンソニー・パーキンスという当時の人気スター(イヴ・モンタンはシャンソン歌手でもあった)が共演した。
作品の中で、主人公の女性をコンサートに誘う口実に、若い年下の男が書いた手紙の一文に使われているのが「ブラームスはお好きですか?」という文句である。
映画では、女性(I・バーグマン)に一目で恋心を抱いた若い男性(A・パーキンス)が、初めて二人で外でランチを食べた後、仕事に向かうため歩き去ろうとする女性に「ブラームスはお好き?」と問いかける。
立ち止まった女性に「プレイエルホールで日曜に演奏会がある」と誘う。彼の視線の先の、パリの街の通りに「ブラームス演奏会」のポスターが貼ってある。
実際、映画のなかでもブラームスの「交響曲第3番」の「第3楽章」が様々なシーンで流れる。
若いとき、私は最初サガンのこのタイトルを目にしたとき、内容はともかく、洒落たタイトルだなあと感心した。
クラシック音楽は退屈でどこに魅力があるのかさっぱりわからなかったその頃、私が最初に買ったレコードがブラームスの「ハンガリー舞曲」と「夏の日の思い出」(作詞・作曲:鈴木道明、唄:日野てる子)だった。どちらを先に買ったのかもう曖昧だが、両方ともドーナツ盤で、「ハンガリー舞曲」は第5番と第1番だったと思う。
ブラームスはこの「ハンガリー舞曲」しか知らなかったのだが、それで充分だった。
「ブラームスはお好きですか?」と訊かれれば、私は昔から「えゝ」と答えた(だろう)。残念ながら、こう訊かれたことは今までなかったのだが。
18歳のとき、「悲しみよこんにちは」(Bonjour Tristesse )で彗星のごとくデビューしたサガンは、当時世界的に人気のある作家だった。フランスでは文化人との交流も多彩で、時代の寵児だった。特に女性には熱狂的といえるファンがいるほど人気が高かった。
あのフランソワーズ・サガンが囁く。
「ブラームスはお好き?」
*オーケストラ・サウンドをバックに、服部百音のヴァイオリン演奏
2023年9月26日、都響による「輝ける名曲、珠玉のオーケストラ・サウンド BRAHMS」と題したコンサートが行われた。
会場:調布市グリーンホール(東京都調布市)
出演:ローレンス・レネス(指揮)
服部百音(ヴァイオリン)
東京都交響楽団(管弦楽)
曲目:「ブラームス:協奏曲 ニ長調 作品77」
「ブラームス:交響曲第4番 ホ短調 作品98」
服部百音は、24歳の若手ヴァイオリニストである。生の演奏を聴いてみたいと思っていた矢先に、あのブラームスを、しかも近くの調布市で演奏するというので喜んで出かけた。
彼女ははっきりしたメイクで意外と小柄だった。しかし、演奏はエネルギッシュで力強い。
ローレンス・レネスの指揮による東京都交響楽団をバックに、メイン曲のブラームスの「協奏曲ニ短調」を熱演。
演奏のあと、アンコールで演奏した曲は、いきなり指で弦をはじくピチカートという技法で始まった。ピチカートと弓で弦を弾くアルコの技法が力強く入り混じる曲は現代的で、初めて聴く曲だった。
帰りに出口に貼られていたアンコール曲名を見ると、ファジル・サイ作曲の「クレオパトラ」とあった。
彼女のメイク、動きの大きい芝居がかった演奏スタイルが合点できた。
服部百音は、父が服部隆之、祖父が服部克久、曽祖父が服部良一という音楽家系である。
古い私らに馴染みのあるのは、淡谷のり子の「別れのブルース」、霧島昇・渡辺はま子の「蘇州夜曲」、高峰三枝子の「湖畔の宿」、笠置シヅ子の「東京ブギウギ」、藤山一郎・奈良光枝による「青い山脈」など、戦前・戦後を通じてヒット歌謡曲を数多く作り、国民栄誉賞を寄与された服部良一だろう。
*
公演の後半は、ローレンス・レネス(指揮)、東京都交響楽団による、ブラームス「交響曲第4番ホ短調」である。
アンコールは、「ハンガリー舞曲」第1番。
最後は、ブラームスのあの私のスーヴェニール曲だった。
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出向いた調布市の駅前は、京王電鉄が地下に潜ったこともあって以前より広々とすっきりとした。調布市の駅近くの「調布市グリーンホール」や「調布市文化会館たづくり」では、ときどき音楽公演や映画上映が行われているので、気に入った催しにはこうして出向くことがある。
多摩市の「パルテノン多摩」のホールでも、かつてはしばしば有名な交響楽団やアーティストによるクラシック音楽の公演が行われてきた。クラシック音楽ではないが、あの沢田研二も2017年にパルテノン多摩にやってきたことがあるのだ。
しかし、昨年(2022年)7月のリニューアル・オープン以来、企画主催者の演劇シフトしたことにより、寂しいかな以前に比べてクラシック音楽がさっぱり催されなくなった。
こうして近郊のホールへ出向くことも、また楽しからずや、である。
<参考>
ブログ「沢田研二、ジュリーが多摩にやって来た ヤア!ヤア!ヤア!」(2017-12-19)
https://blog.goo.ne.jp/ocadeau3/e/e3ca6664b14ef21f1dbdd77e36f90cc0
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