かりそめの旅

うるわしき 春をとどめるすべもなし 思えばかりそめの 旅と知るらむ――雲は流れ、季節は変わる。旅は過ぎゆく人生の一こま。

Wの悲劇

2011-01-27 02:14:59 | 映画:日本映画
 原作:夏樹静子 監督:澤井信一郎 出演:薬師丸ひろ子 世良公則 三田佳子 清水紘治 三田村邦彦 蜷川幸雄 高木美保 1984年、角川春樹事務所

 「Yの悲劇」(The Tragedy of Y)は、エラリー・クインのミステリーだが、「Wの悲劇」は、夏樹静子の小説の映画化。
 「セーラー服と機関銃」や「探偵物語」などで、当時アイドル的スターだった薬師丸ひろ子を主演にした、舞台女優の誕生物語である。スター誕生の裏に隠された陰謀を、映画の中の舞台に仕立て、巧みな劇中劇にしている。

 劇団研究生の三田静香(薬師丸ひろ子)は、舞台女優になることを夢みている健気な少女だ。彼女に好意を抱いている男(世良公則)の恋の申し出にも、距離をおいている。なぜなら、舞台女優になることが、彼女の人生の最大の目的だからである。
 次回公演の主役の座のオーディションに彼女は落ちるが、夢を捨てずに劇団の下働きをしている。あるとき彼女は、劇団の看板女優羽鳥翔(三田佳子)のスキャンダルに遭遇し、主役の座と引き替えに、女優の身代わりになることにする。
 それまで無名の彼女だったが、一躍スキャンダルの主役となり、それと同時に舞台の主役の座も獲得する。

 青春は夢多くて、それゆえ誰かを傷つけ、自分も傷つく。青春のただ中は、血にまみれ、泥だらけだ。
 看板女優は、まだ明日をも知れない新人研究生に、女優になるためには何でもやるの、と叫ぶ。そして、私は今までそうやってきた、と。
 舞台に立ち、スポットライトを浴びるのを夢みる若者は、昔も今も多い。その中で、才能と運がよかった者だけが、何かを失いながら、生き延びる。
 多くの若者は、躓き、これまた別の何かを失い、舞台から去っていく。

 舞台女優を夢みている女と一緒になりたくて、今までの古びたアパートから何とか洒落たマンション風アパートを見つけてきた男が、女に一緒に住まないかと誘う。二人とも、まだ夢しか持っていない、しがない若者だ。
 女は、女優になることだけしか考えていない、と答える。
 男は、躊躇う女に質すように話す。
 「一生芽が出なかったら、どうする?」
 「そんなこと、いつも考えているわ」
 「芽が出なかったら、俺と結婚しよう」
 今度は、女が訊き質す。
 「成功したら?」
 「ヒモになる気はないさ、俺が惨めだから。楽屋に大きな花束を届けるから、それがサヨナラのしるしにしよう」
 気負いの自尊心は、青春の特権でもある。

 ひと握りのスターの陰で、舞台から去っていった多くの若者たち。彼らは、今どこで、何を思い、何をしているのだろう。

 映画の中で、舞台の演出家役に蜷川幸雄、俳優役に三田佳子、清水紘治、三田村邦彦などの顔が並ぶ。薬師丸を押しのけて最初に主役の座をつかむ新人研究生に、やはり新人だった高木美保が出ている。
 芸能リポーター役に、本職の去年亡くなった梨本勝や福岡翼などが出ているのも面白い。
 この映画で、あどけない可愛さが残る薬師丸ひろ子が、年月が流れ、今では「ALWAYS三丁目の夕日」(2005年)では母親役である。
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