かりそめの旅

うるわしき 春をとどめるすべもなし 思えばかりそめの 旅と知るらむ――雲は流れ、季節は変わる。旅は過ぎゆく人生の一こま。

◇ ポアゾン

2005-12-16 02:53:23 | 映画:外国映画
 マイケル・クリストファー監督 アンジョリーナ・ジョリー アントニオ・バンデラス2001年作品
 
 巨額の金を手にした成金男が、新聞広告で妻を募集する。やって来たのは写真とは違って美人だ。それにすこぶる男心をそそる女だ。その女は、写真の女の妹だと名乗る。一目ですっかり女の虜になった男は、女と結婚する。しかし、女の素性や言動には辻褄が合わないところがあるし、謎も多い。それでも、男は女に夢中だから、そんなことはお構いなしで、もう彼女しか目に見えない深みに陥っている。
 
 出だしから、どうも一度観たことのある内容だと思った。しかし、アンジョリーナ・ジョリーの映画は初めてなので、この映画ではない。似たような映画をかつて見たはずだ。かつて観た映画での男の役はジャン・ポール・ベルモンドだとすぐに思い出した。だとすると、『カトマンズの男』かと思ったが、舞台はネパールではなくメキシコだし、どうも違うようだ。

 男と結婚した女は、すぐに金を引き出して男の前から消える。そこへ、その謎の女を探しているという探偵が現れる。二人は女を探し、やっと見つける。そこでも、女は金持ちの男を誘惑していた。女は生来の性悪女なのである。
 女の正体を見た男は、それでも女を許し、再びよりを戻した……かのように見えたが、実は、女と探偵は昔からの腐れ縁の恋人関係だった。すべてが、男から金を巻き上げるための、策略で芝居だったのだ。
 探偵と女は、密かに男を殺そうと策略する。それを知りながら、男は、女の意に任せて死から逃れようとしない。愛する女がそれを望むなら、と毒杯を飲み込む。
 物語は、これで終わる純愛映画ではない。
 
 この映画で、悪女の本質が表されている。もちろん、男を狂わせ虜にさせる魅力ある女という意味での悪女である。そして、男から見たファム・ファタール、運命の女の存在というものが、男の人生をどうにでも左右するということも。
 
 悪女とは、嘘をつける女である。そして、二人の男を同時に愛せる女である。
 男が、女の裏切りを知った時に、女に言う。「すべてが嘘だったのか?」
 すると、女は、「真実もあったわ」と答える。
 この会話には、男と女の関係(いわゆる悪女との関係)の恋のベクトル(力学)が表わされていると言っていい。男の真実のすべてに対して、女は真実の時もあったと言う。男の全体に対して、女は部分である。勝負は最初から決まっている。男は丸腰なのだ。
 しかし、この真実の断片が存在するから、男はのめり込んでしまうのだ。すべてが嘘で塗り固められていたなら、恋も一時の夢で冷めるだろう。そんな性悪女に覚めない男は単なる愚か者である。反対に、すべてが真実の女であれば、つまらない(単純な)純愛でしかない。
 嘘の中に真実を孕んでいるのが、真の悪女である。

 最後まで観てやっと思い出した。これと同じ映画は、フランソワ・トリュフォー監督の『暗くなるまでこの恋を』だと。主演の男は、やはりJ・P・ベルモンドだ。しかし、あのファム・ファタールの悪女が思い出せない。
 調べたら、何とカトリーヌ・ドヌーヴである。こちらは1970年作品で、当時のフランス映画を代表する男と女である。
 ドヌーヴを思い出せないぐらいだから、この役には向いていなかったのだろう。『昼顔』では妖艶さを出していたが、上品さは隠せず悪女の性悪さはない。それに、どろどろの底なし沼の女にはなりきれないものがある。

 それに比して、アンジェリーナ・ジョリーの悪女ははまり役である。あのふっくらとした熱い唇が品性を取り除いていて、何ともセクシーなのだ。彼女には、シャロン・ストーンのような冷たさがない。決して知的には見えないのは、あの唇のせいである。あの唇は、隠された性行為を想起させる。人が倫理(道徳)でしまっている性を無理やり顕在化させる猥褻性がある。彼女は、公衆の面前で舌なめずりなどをしてはいけない。
 性を顕在化させる現在の女優では、『マリーナ』のイタリアのモニカ・ベルッチがいるが、今のアンジェリーナにはかなわないと言っていい。モニカの全体の雰囲気に対して、アンジェリーナは、唇だけで勝負している。その猥褻的な一点豪華が、彼女を一級品にまで押し上げている。
 アンジェリーナと同質の唇の持ち主は、日本人の女優では高島礼子である。彼女も、猥褻な悪女役をやったら決まるに違いない。
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