旅行者に人気のある街といえばどこだろう。パリ、ローマなどのヨーロッパの都市がすぐに浮かぶが、やはり特別な個性のある街としてはヴェネツィアをあげなくてはいけないだろう。
ヴェネツィアは、古い中世の街がそのまま残っているというだけではない。道には、どこにも車が走っていない。今どき車が走っていない都市なんて、秘境以外どこにあるだろう。それだけで、「現代」はおろか「近代」という時代を置き去りにしてきたような、他にない街だと言える。
ヴェネツィアは水の上に建てられた街なので、水路が幾重にも張り巡らされていて、船が車の代わりをしている。バスもタクシーも船なのだ。
ヴェネツィア本島には、鉄道でわたることができる。列車がヴェネツィア・メストレ駅を過ぎると、茫洋と海が広がる。次のサンタ・ルチア駅がヴェネツィアへ行くのには終着駅となる。
「サンタ・ルチア…」、何と素敵な駅の名前だ。つい、イタリア(ナポリ)民謡を口ずさみたくなるではないか。
そのサンタ・ルチア駅の改札口を出ると、もう目の前は絵に描いたようなヴェネツィアの街だ。緩やかな石段の先には、海につながる運河が広がり、ヴァポレットと呼ばれる水上バスである船が待っている。石段には、旅人だろうか何人かが黙って海の方を見ながら座っている。
街の細い路地を歩くと、すぐに海に繋がる運河に出る。海には、いつも船が浮かんでいる。
ヴェネツィアは、どこでも絵になる街なのだ。(写真:2001年撮影)
*
ヴェネツィアを舞台とした映画は数多い。
まず浮かんでくるのは、古典ともいえる「旅情」(Summertime、監督:デヴィッド・リーン、1955年、英米)であろう。こちらは、ツーリストのキャサリン・ヘプバーンが観光先のヴェネツィアで儚い恋に陥るというもの。ヴェネツィアの街が十分楽しめる。
そして、トーマス・マン原作の「ベニスに死す」(Morte a Venezia 、監督:ルキノ・ヴィスコンティ、1971年、伊仏)。ヴェネツィアの高級リゾート地リド島が舞台で、老作曲家であるダーク・ボガードが魅惑された、美少年ビョルン・アンドレセンが評判となった。
ショーン・コネリー主演「007」シリーズ第2作、「 ロシアより愛をこめて」(監督:テレンス・ヤング、1963年、英)での、ラスト・シーンはヴェネツィアだ。危機を脱したボンドは水の上で、例のごとく優しく美女を抱く。
そのショーン・コネリーとハリソン・フォードが親子として共演した、「インディ・ジョーンズ/最後の聖戦」(監督:スティーヴン・スピルバーグ、1989年、米)でも、ヴェネツィアが舞台となる。ここでは、カーチェイスさながらボートチェイスが繰り広げられる。
*
映画「ツーリスト」(The Tourist、監督:フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク、2010年、米)は、アンジェリーナ・ジョリーとジョニー・デップが共演するラブ・サスペンスである。
舞台はパリ。主人公である妖艶な一人の女(アンジェリーナ・ジョリー)は、見張られ尾行されている。どうも厄介な事件に絡んでいるようである。
女は謎の男から指示を受けて、尾行の男を撒(ま)いて、パリ・リヨン駅からヴェネツィア行きの列車に乗る。男からの指示には、自分に似た男を自分と思わせるように、つまり囮(おとり)の男を見つけるようにとある。
ヴェネツィア行きの列車ユーロスターの中で、女は一人の男(ジョニー・デップ)の前に座る。
男は、アメリカから観光旅行に来たまじめな数学教師のツーリストで、前に座った妖艶でゴージャスな女に戸惑う。しかし、目の前の美女に誘われ、それに逆らうことができない。
ヴェネツィアのサンタ・ルチア駅に着いた後も、男は女の誘いのままついていく。
舞台は水の都ヴェネツィアに移り、そこでも女の周りでは様々な事件が起こり、男も巻き込まれていく。いやそれだけでなく、美女のために自ら渦中に入っていく。
旅先で迷い込んできた、絶品の女とのラブ・アフェアー。誰も逆らうことなどできない。しかし、危険はつきものだ。美しい薔薇には棘がある。甘い酒には毒がある。それでもかまわない、と思う男はいる。
幸か不幸かは問うべきではない。幸に決まっているのだ。だが…、だ。
この映画の質は問うまい。人気のアンジェリーナ・ジョリーとジョニー・デップが共演するだけでいいとすべき映画である。しかも、舞台がパリからヴェネツィアである。
しかし、なぜかジョニー・デップに恋い焦がれる男の精気が感じられなく、映画のトーンを低くしているのが気になった。それで、ヴェネツィアの良さも生かしきれなかったのが惜しい。
ヴェネツィアは、古い中世の街がそのまま残っているというだけではない。道には、どこにも車が走っていない。今どき車が走っていない都市なんて、秘境以外どこにあるだろう。それだけで、「現代」はおろか「近代」という時代を置き去りにしてきたような、他にない街だと言える。
ヴェネツィアは水の上に建てられた街なので、水路が幾重にも張り巡らされていて、船が車の代わりをしている。バスもタクシーも船なのだ。
ヴェネツィア本島には、鉄道でわたることができる。列車がヴェネツィア・メストレ駅を過ぎると、茫洋と海が広がる。次のサンタ・ルチア駅がヴェネツィアへ行くのには終着駅となる。
「サンタ・ルチア…」、何と素敵な駅の名前だ。つい、イタリア(ナポリ)民謡を口ずさみたくなるではないか。
そのサンタ・ルチア駅の改札口を出ると、もう目の前は絵に描いたようなヴェネツィアの街だ。緩やかな石段の先には、海につながる運河が広がり、ヴァポレットと呼ばれる水上バスである船が待っている。石段には、旅人だろうか何人かが黙って海の方を見ながら座っている。
街の細い路地を歩くと、すぐに海に繋がる運河に出る。海には、いつも船が浮かんでいる。
ヴェネツィアは、どこでも絵になる街なのだ。(写真:2001年撮影)
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ヴェネツィアを舞台とした映画は数多い。
まず浮かんでくるのは、古典ともいえる「旅情」(Summertime、監督:デヴィッド・リーン、1955年、英米)であろう。こちらは、ツーリストのキャサリン・ヘプバーンが観光先のヴェネツィアで儚い恋に陥るというもの。ヴェネツィアの街が十分楽しめる。
そして、トーマス・マン原作の「ベニスに死す」(Morte a Venezia 、監督:ルキノ・ヴィスコンティ、1971年、伊仏)。ヴェネツィアの高級リゾート地リド島が舞台で、老作曲家であるダーク・ボガードが魅惑された、美少年ビョルン・アンドレセンが評判となった。
ショーン・コネリー主演「007」シリーズ第2作、「 ロシアより愛をこめて」(監督:テレンス・ヤング、1963年、英)での、ラスト・シーンはヴェネツィアだ。危機を脱したボンドは水の上で、例のごとく優しく美女を抱く。
そのショーン・コネリーとハリソン・フォードが親子として共演した、「インディ・ジョーンズ/最後の聖戦」(監督:スティーヴン・スピルバーグ、1989年、米)でも、ヴェネツィアが舞台となる。ここでは、カーチェイスさながらボートチェイスが繰り広げられる。
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映画「ツーリスト」(The Tourist、監督:フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク、2010年、米)は、アンジェリーナ・ジョリーとジョニー・デップが共演するラブ・サスペンスである。
舞台はパリ。主人公である妖艶な一人の女(アンジェリーナ・ジョリー)は、見張られ尾行されている。どうも厄介な事件に絡んでいるようである。
女は謎の男から指示を受けて、尾行の男を撒(ま)いて、パリ・リヨン駅からヴェネツィア行きの列車に乗る。男からの指示には、自分に似た男を自分と思わせるように、つまり囮(おとり)の男を見つけるようにとある。
ヴェネツィア行きの列車ユーロスターの中で、女は一人の男(ジョニー・デップ)の前に座る。
男は、アメリカから観光旅行に来たまじめな数学教師のツーリストで、前に座った妖艶でゴージャスな女に戸惑う。しかし、目の前の美女に誘われ、それに逆らうことができない。
ヴェネツィアのサンタ・ルチア駅に着いた後も、男は女の誘いのままついていく。
舞台は水の都ヴェネツィアに移り、そこでも女の周りでは様々な事件が起こり、男も巻き込まれていく。いやそれだけでなく、美女のために自ら渦中に入っていく。
旅先で迷い込んできた、絶品の女とのラブ・アフェアー。誰も逆らうことなどできない。しかし、危険はつきものだ。美しい薔薇には棘がある。甘い酒には毒がある。それでもかまわない、と思う男はいる。
幸か不幸かは問うべきではない。幸に決まっているのだ。だが…、だ。
この映画の質は問うまい。人気のアンジェリーナ・ジョリーとジョニー・デップが共演するだけでいいとすべき映画である。しかも、舞台がパリからヴェネツィアである。
しかし、なぜかジョニー・デップに恋い焦がれる男の精気が感じられなく、映画のトーンを低くしているのが気になった。それで、ヴェネツィアの良さも生かしきれなかったのが惜しい。