写真エッセイ&工房「木馬」

日々の身近な出来事や想いを短いエッセイにのせて、 瀬戸内の岩国から…… 
  茅野 友

八重山神社

2021年03月03日 | 旅・スポット・行事

 日曜日の夜、今人気のある「ポツンと一軒家」というテレビ番組を見ていた。今回は島根県の出雲の山奥に住む老夫婦の物語であった。場所は 雲南市の掛合町入間で、冬は雪深いが江戸時代から住んでいる。昔は、たたら製鉄や炭焼きで随分と賑わったようであるが、今はたった一軒でひっそりと暮らしている。

 近くに、巨大な岸壁に張り付くように八重山神社という立派な神社が建っている。テレビ局のスタッフをこの神社に案内した。昔から、氏子のいない神社であり、牛馬の守護神として崇敬されてきた。岩窟の中に建つ八重山神社への苔むした長い石段は、さながら幽玄の世界へ誘われるようである。

 神社に登る石段の下に、一瞬、テレビの画面に神社の案内板が映った。書かれている文字の中に「宇野千代」という文字が目に入った。「あっ、宇野千代と何か関係がある神社なのか」と思い、番組が終了した後、ネットで調べてみた。

 宇野千代が書いた『八重山の雪』という小説がある。文藝春秋から昭和50年に発行された『薄墨の桜』に収録されている。主人公は「はる子」という女である。大平洋戦争終結後、松江市の古志原にあった63連隊の跡地に駐屯していたイギリスの兵隊ジョージと知り合う。はる子は或る男と結婚することになっていたが、それを振り切ってジョージと岡山に逃げた。しかし直ぐに連れ戻されるが、ジョージは軍隊を脱走し、はる子と暮らし始める。父が、2人を飯石郡(現 雲南市)掛合町入間にある八重山の遠縁の家に住まわせる。ジョージは炭焼きを始めた、という小説のようである。

 「最初の仕事場は、あの、牛の神さまと言うて諸国のお人に知られています、八重山神社の裏手を廻った奥山でございました」と書き出しているという。この作品は実話であると言われている。

 宇野千代は、まさにこの場所を舞台にした小説を書いていたことを、ひょんなことから知った。調べてみると雲南市には、温泉宿もあり見どころもあるところのようである。いつか機会を見て是非この八重山神社を尋ねてみたいと思わせるような佇まいである。テレビ番組を見ていて、「ひょうたんから駒」ならぬ「ポツンと一軒家」から「宇野千代ゆかりの地」を見つけたという、たわいないお話である。