朝、新聞を読んでいるとき、奥さんが何やら菜園で採ってきたものをテーブルの上にどさりと置いた。緑色をした図体で小さな無数の気泡を散りばめたような模様をしている。直径は7,8cmもあり、巨大なナメクジのように見える。もうひとつは、明るいまっ黄色をしていて、ちょっと見たところではバナナかと見まがうほどで、曲がり具合といい、大きさといいバナナそっくりである。
菜園に植えていたズッキーニの初めての収穫であった。長い茎の先に大きな葉をつけ、寝転がって駄々をこねている子供のように、太い茎を四方八方に伸ばしている。その真中に花をつけていたものがこの時季果実となって収穫できた。黄色と緑の2種類が育っている。
ズッキーニといえばキュウリのようにも見えるが、カボチャの仲間だという。メキシコの巨大カボチャが祖先種であると考えられているが、1950年代からイギリスで料理として普及し始めた。今ではフランス料理やイタリア料理の食材として知られている。油との相性が良く、薄くスライスして鉄板焼きやフライなどで食べると種もなくおいしい。
「今年はバラの手入れが忙しくて、受粉をしてやらなかったのに実がなったわ」と奥さんが不思議そうな顔をする。ズッキーニは雌雄異花のため、受粉には昆虫や人の花粉媒介を必要とするそうだ。「そういえば、ハチやチョウがよく飛んできていたので、受粉してくれたのかしら」といいながら納得顔だ。
それにしてもズッキーニの栽培には広い面積がいる。成長した茎は人が横たわったくらいの長さにもなる。その上、茎や葉にトゲがあり収穫などの作業には長袖と手袋が必要なくらいである。庭を眺めていると、うちの奥さんの性向が少し読めてきた。バラが大好き、ズッキーニが好き。いずれもトゲの持ち主である。「モッコウバラは好きではない」といっていた。そうか、あのバラにはトゲがない。
何かといえばトゲのある言い方をする私に対抗するために、さては奥さん秘策を練ったのかもしれない。「目には目を、トゲにはトゲを」か。時にはズッキーニが好きな奥さんに「あなたをズット スキデシタ」くらい言ってみるか。今日のダジャレは大変クルシイ……。