昨年の秋、ときどき喉にちかちかっというか、ちょっとした痛みを感じることがあった。しばらく続いたので呼吸器科の病院へ行ってみたが、アレルギーのせいかなということでそのままにしておいた。
年が明けたが、何かの拍子にちくりとするその症状は時々あった。気にすれば気になるが、ほとんどの時間は何も感じないまま数カ月が過ぎ5月を迎えた。昨夕、またその痛みを感じた。そういえば、昨年はいろいろあって胃の検診を受けていないことが気になっていた。
「そうだ、1年半ぶりに胃の検診を受けに行こう。その際、のどの痛みと関係があるかもしれない食道もよく診てもらおう」。思い立って朝食をとらず、いつも診てもらっている病院へ朝一番に出かけた。問診票に症状を書きこみ順番を待った。
名前を呼ばれて診察室に入ると直ぐにベッドに寝かされ、看護師が鼻から胃カメラを入れる準備を始めた。まず鼻の中を広げるために両方の鼻に血管収縮剤をスプレーしながら「前回と同じように右の鼻から入れましょうね」と告げる。「前回は左の鼻だったと思いますが」「カルテでは右となっていますよ」と言いながら「これを飲んで3回転して下さい」といってコップ一杯の液体をくれた。胃の中の泡を消す消泡剤である。
しばらくしてカメラを入れる右の鼻に局所麻酔薬を注入し、3分後に直径4mm長さ10cmのプラスチックの管を入れる。しばらくおいて今度は直径6mm長さ10cmの管を入れる。いずれも直径が5.9mmのカメラを入れるために徐々に鼻の穴を大きくするための手段のようである。
ところが直径が6mmの管が鼻の奥壁に当たってどうしても貫通しない。無理に入れようとすると痛みを感じる。「入らないわね。じゃあ左でやってみましょうか」看護師はつぶやきながら左の鼻に入れる手順を最初から進めた。「ごめんなさいね」と言いながら4mmの管を終えた後、6mmの管を入れると今度は難なく貫通した。
「やっぱり左だったろう」、私は目をつむったまま頭の中で言ってみる。鼻の穴は誰でも左右若干大きさが異なるという。私の右の鼻はどうやら人並みの大きさではないらしい。そんなことは今までこの病院でやってみて分かっていることだが、カルテの記録が間違っていたようである。
右と左、医者のたった一字の書き間違いで、カメラを飲む前の準備時間が2倍を要したばかりか、狭い穴を何度もつつかれ痛い目にもあった。人体で右と左にあるものといえば、肺・腎臓・目や鼻・耳・手足などがあるが、間違えて健常な方を手術した事例を聞いたことがある。
このたびはまあ、手術などのように大げさなことではなかったが、右と左の間違いだったことには違いない。単なる穴違いといってアナどることなかれ。目的の検査結果は異状なし。あなかしこ、あなかしこ。