写真エッセイ&工房「木馬」

日々の身近な出来事や想いを短いエッセイにのせて、 瀬戸内の岩国から…… 
  茅野 友

おやすみなさい

2011年10月11日 | 生活・ニュース

 10年間飼っていたハートリーが逝って、間もなく4カ月が経とうとしている。いなくなった直後は、ハートリーが家の中に残したドアの傷跡や壁紙の汚れにやたら目が行き、楽しかった日々を思い出すことが多かった。この頃になっても、時にまだそんなこともある。ハートリー離れをするには、もう少し時間がかかりそうだ。

 先日、車を走らせているとき、ある年配者がラジオでいい話をしているのを聞いた。眠たくなって先に寝室に行くときは、必ず奥さんに「おやすみなさい」と挨拶をして行く。ひとりで外出する時にも、きちんと「行ってきます」と元気な声で言ったり、何がしかの会話をして出かけるようにしている。

 人間年をとると、いつ何時、何が起きるか分からない。外出時はおろか、家の中にいようが、就寝中でさえも同じことである。そうであるなら、日々の小さな別れが奥さんとの最後の別れになってもいいように、気持ちよく元気に挨拶をして、寝たり出かけたりする。そうすれば万一の場合でも、残された方に大きな悔いは残らないように思うと話していた。

 ハートリーが逝った日の朝、私はハートリーに声をかけずに出かけた。最後の瞳は見ていない。犬との別れでさえ、若干の悔いが今も残っている。そんなことを思っているとき、古い歌を思い出した。 

 ♪ 化粧の後の かがみの前で いつも貴方の 手を借りた 
   
背中のボタンが とめにくい 一人ぼっちの部屋で 
   
今は居ない貴方に そっとそっと おやすみなさい  ♪
 
 昭和45年に布施明が歌った「そっとおやすみ」という歌である。こちらは未練を残して別れた男に、そっとそっと「おやすみなさい」と挨拶をするお話。目の前にいない相手にさえおやすみの挨拶をしている女もいる。いわんや、四六時中顔を合わせて暮らしている我ら2人、出かけるときは明るく挨拶だけでなく、そっとハグくらいはしてみたいが、奥さんがな~
   (写真は、紅葉が始まった我が家の「花水木」)