俺の明日はどっちだ

50歳を迎えてなお、クルマ、映画、小説、コンサート、酒、興味は尽きない。そんな日常をほぼ日替わりで描写

「あかね空」 山本一力

2007年08月08日 23時32分29秒 | 時系列でご覧ください
昨年、映画「蝉しぐれ」を観た際、
かつて「人間、年を重ねていくうちに、オジサンは司馬遼太郎を読み、オバサンは渡辺淳一を読む」と喝破したのは愛すべきおばはん田辺聖子だったけれど、年齢的にまさにそういわれる世代となったものにとって、藤沢周平の作品もまた、たまらなく読みたくなる、大いにそんな気にさせられた映画でした。
と感想を書いたことがあるけれど、雑誌「 TITLE 」の最新号でも時代小説の特集が組まれていたり、「料理通信」に山本一力のエッセイが載っているのを見かけたりと、何だか気持ちは時代小説。



とにかくその独特の人名や言い回しに「壬生義士伝」をはじめとする一連の浅田次郎もの以外ほとんど馴染みのなかったジャンルだったのだけど、たまたま先日新幹線の中で山本一力の「あかね空」を読んで、思わず落涙。

京都で修行を積み、貯めた資金で江戸は深川で店を開業し、京都ならではの豆腐を伝えようとする栄吉。そしてそんな彼の妻となるおふみと子供たち。
店の繁盛物語という大筋の背後に描かれる兄弟、親子、嫁姑それぞれのさまざまな思い。
親子って、兄弟って、家族って…。
本当は三人の子供それぞれに愛情を持っていたはずなのに、心に決めたことしかできなくなるおふみ。
そしてそんな女房に対して戸惑いつつ、やはり本当に好きだった栄吉。
決して器用ではないそんな彼らの思いが心を打つ。

そして後半、登場人物の思いの丈がそれぞれの視点から語られ、人への思いの伝わりの難しさ、家族の温かさが滲むように描かれてまったくもってお見事。

ちなみにサイドストーリーながら個人的には同業者でありながら、主人公たちを影で支える相州屋の老夫婦のエピソードにとにかく泣かされてしまった。

最初は取っ付きにくいかもしれないけれど、読み進むうちにどんどん引き込まれ、こういうのを人情時代小説というんだろうなと実感するおすすめ作であります。


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