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読書「密謀」藤沢周平

2012-07-04 11:40:13 | 読書

                     

 上杉景勝と幼少から一緒に育った直江兼続(なおえかねつぐ)の知将ぶりを戦乱の世を背景に描いてある。  密謀というのは徳川家康を石田三成と共に討つ密約のことで、不首尾に終わり三成は京都四条河原で打ち首の上、さらし首にされた。    

 直江兼続は史実に基づく必要もあっていま一つ作家の想像力の入る隙間がないようなのだが、むしろ周囲の景色とか兼続の使う忍びの者の草たちが生き生きとしている。草たちの村の記述は、“山の村を新緑が包んでいる。四方を取り巻く山の傾斜には、椎(しい)、楢(なら)、えごの木などが、色とりどりに新葉をつけ、柔毛(にこげ)を光らせていて、わずかな風が山肌を走ると、木々はいっせいに葉をひるがえして、日をはじいていた。西の山ぎわを走る谷川には水が溢れ、川ぞいの田にも、また東の山畑の斜面にも鍬をふるう村人の姿が見える。山の村は、今一年の中で一番美しい季節をむかえていた”    

 このサイド・ストーリーともいえる草たちの物語のほうが私にとって印象深いものだった。狡猾と度胸と女好きの乱世にあって、“上杉謙信の戦は、 名分のあきらかなすがすがしいものだったが、反面実りの薄い争闘だったことも事実である。義にこだわった分だけ、天下の掌握という大事から遠ざかり、大勢に遅れたことを認めざるを得ないのだ”  これを景勝も踏襲して兼続の進言を退け、絶好のチャンスを逸してしまう。しかし、野望がなく上杉家の武将でいいという欲のない景勝にしてみれば、そんなことはどうでもいいということになる。    

 ここで思ったのは、サラリーマンも上司との巡り会わせで自分のポジションが決まってくるということ。兼続も無念な気持ちを抱えながら生涯を送ったことだろう。ウィキペディアで「直江兼続」を引いてみると、なんと一穴主義を貫いている。側室を何人持とうと正妻から文句が言えない時代において、ほかの女に目もくれなかった。  秀才で真面目。こういう男が会社にいることを想像すると、ちょっといじめたくなる気がしないでもない。    

 さて、こういう戦国物に似合う音楽は? と考えてみたが、ポピュラーなものはダメだろうなあ。ここは一つバッハの「G線上のアリア」でもいかがでござる?


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