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読書「無罪INNOCENT」スコット・トゥロー

2012-12-04 11:02:19 | 読書
                

 朝起きてみれば、妻が横で死んでいた。頚動脈に指を当ててみると拍動がない、完全に死んでいる。州上訴裁判所首席判事ラスティ・サビッチは、救急車や警察への通報を24時間後に息子ナットにせかされて行った。検死の結果、自然死と判定された。

 しかし、この行為によって多くの疑惑を招くことになる。小説も映画と同様に、オープニングで読者や観客を引き付けないとならない。その常套手段であることに間違いない。「えっ、どうしたんだろう?」そう思ってくれれば半ば成功したも同然。

 そして前半は興味深い展開が待っていた。最高裁判事を目指そうという60歳のサビッチも男だった。
“私は彼女を見下ろす。唇と唇が、舌と舌が触れ合う。私はうめき声を漏らし、「ラスティ、ああ、ラスティ」と、彼女が囁く。私の手は夢想の中で何千回となく触れた彼女の胸へ伸びる。そこはたとえようもなく柔らかい。彼女は上体を反らせて私を見つめる。私も見返す。彼女は美しい。表情はおだやかで、迷いの色はない。彼女はそこで口を開き、私を高みへと一気に押しあげる一言を口にする。この奔放で、艶麗な娘が、「もう一度キスして」と、言ったのだ”

 娘の名前は、アンナ37歳。ラスティつきの上席調査官で職場内不倫といったところ。ラスティの内なる声は、「こんなことはやめるべきだ」と囁く。しかし、ラスティはアンナの求めを拒否できない。これからの生涯、もうこういうことにめぐり合えることはない。この恋情は捨てることが出来ない。したがって、彼女からのメールは、捨てられずにパソコンに保存したままだった。これがとんでもない結末へと流れる元になる。

 後半は、ラスティの妻殺しの容疑で公判にかけられる法廷劇が繰り広げられる。見事な比ゆとユーモアに翻弄されながら、一気に読了した。
 
 検事局のトップ、トミー・モルトの容姿についてこんな記述がある。“人が変わったようだ。すっかり老け、もう老人の顔に近い。わずかに残る髪の毛はすべて白くなり、目の下には使ったあとのティーバッグのような肉のたるみがある”

 そしてこんなこともアンナに言う。「若者より老人のほうが見た目が良くないのにはわけがある。生殖能力のある若い女に、つがう相手を識別させるためだ。私みたいな助平な年寄りがきみたち相手に年齢を二十も偽ってうまくやることが出来ないようにするためさ」

 それに今まで思いつかなかったものに、すみれ色のネクタイがある。ラスティのお気に入りで、頭の中で想像すると真っ白いワイシャツ、明るい紺のスーツに紫がかったすみれ色は、なかなかお洒落な気がする。助平な年寄りでも気品のある男に見えるかもしれない。

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