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漆黒の闇に紛れ愛する人はそばにいる。永遠のラブ・ストーリー2015年制作「追憶の森」

2016-10-08 16:47:52 | 映画

              
 映画を観ていてびっくりするのはあまりないこと。ホラーやSFは観ないし、アクションや戦争ものもびっくりすることって滅多にない。ところがこの映画にはびっくりさせられた。あっ、と声を上げたくらいだ。

 妻ジョーン(ナオミ・ワッツ)が脳腫瘍の手術を受け、医師から良性だったと告げられ、術後の観察に別の病院に移ることになった。救急車に乗せられ夫アーサー(マシュー・マコノヒー)が自分の車で追尾する。走行中携帯電話で話をしながら笑い転げ、今までの不和が嘘のようだ。グッド・ニュースは気分を高揚させる。

 ところがわき道からものすごいスピードで救急車の脇腹に激突したトラック。救急車は、道路の反対側まで飛ばされた。アーサーは必死で駆け寄ったがジョーンはこと切れていた。

 アーサーは、富士山麓にある青木が原樹海の立ち入り禁止のプレートが張ってあるロープをまたいだ。はるばるアメリカからやってきたのは、妻ジョーンの手術12時間前に「病院で死ぬのはいや、愛する人に見守られて死にたい。あなたも死に場所を選んでね」と言ったのを心に刻まれたからだった。ネットで検索して選んだのがここだった。

 樹林に囲まれた岩の上で睡眠薬を1錠のみ、次いでまた1錠ペットボトルの水で流し込んだ。そして周囲を見渡すと一人の男ナカムラ・タクミ(渡辺謙)がよろよろとさ迷っている。近づいて声をかけると「道に迷った。出口はどこだ?」

 自殺をしに来たアーサーが人助けをする皮肉な展開。嵐に見舞われたり、崖から転げ落ちたりしながら出口を求めてさ迷い歩く二人の男。結論から言うとこの映画は大人の童話だ。

 アーサーが立ち入り禁止のロープをまたいでしばらく歩くと女性の死体が転がっている。テントを見つけて中を覗くと死体が並んでいる。その死体から衣服を剥ぎ取り身につける。もう冥界をうろついているのは確かだ。

 夜の焚き火を前にしてタクミが言う「ここはただの森ではない。漆黒の闇に紛れ愛する人はそばにいる。たとえ死んでいても。霊があの世へ行くとき花が咲くと言われている。彼女は君といる。この森が呼び寄せた」そして家族は妻がキイロという名前、娘がフユだという。

 フラッシュバックで妻ジェーンの葬儀場。棺の前でうなだれながらアーサーが言う「妻を知らなかった。よく知らない。彼女の自動車保険の更新日なんかは知っていた。社会保障番号も、大事そうなことはね。でも、好きな色を知らなかった。好きな季節も、好きな本も」

 現実に戻ると病院のカウンセラーの女性から「テント付近からは誰も発見していない」と言われる。アーサーは樹海に戻った。今度は慎重に白いビニールテープを張って進む。テープが終わるとメモ帳を引きちぎり帰路の目印にする。灌木の向こうにテントが見えた。

 「戻ってくる」と約束をしてタクミにかけたレインコート持ち上げた。タクミがいない。白い花弁の花が岩の上に咲いていた。

 アーサーはそれを持ち帰った。アーサーは科学者で学生に教える立場。一人の学生との対話のとき、その学生が本に挟んだメモを見て「キイロは色のこと。フユは季節のこと」と言った。

 アーサーはやっと気づいた。妻の好きだった色は「黄色」、好きだった季節は「冬」、好きな本も童話の「ヘンゼルとグレーテル」というのも。科学者のアーサーでも世の中の不思議に魅了されたのかもしれない。タクミは魔女だったのかもしれない。あるいはジョーンの魂だったのかもしれない。

 そして湖畔に建つ家の庭にその花を植えた。ジョーンが好きだった風景を見られるように。彼女とはいつまでも一緒なんだ。ようやく心の安らぎを得たアーサー。

 ウィキペディアによると、撮影は主にマサチューセッツ州フォックスボロで行われたという。よく似た景観があるらしいが、そういえば木道を歩いていたし、森の中をさ迷う場面では溶岩が見あたらなかったし、普通の岩の景観だった。

 青木が原には歩道が整備してあって歩いたことがある。溶岩の上に土を敷き詰めたように感じた。その歩道以外は草に埋もれた溶岩が目についた。

 また、2015年5月16日、本作は第68回カンヌ国際映画祭で初めて上映されたが、多くの観客からブーイングを浴びたとも言われる。ブーイングを浴びせるほどワルい映画とは思えない。宗教や文化の違いなのか霊の云々は受け入れられないようだ。劇場公開2016年4月
 

 

 

 

 

監督
ガス・ヴァン・サント1952年7月ケンタッキー州ルイビル生まれ。1997年「グッドウィル・ハンティング/旅立ち」、2008年「ミルク」がアカデミー賞監督賞にノミネート。本作はカンヌ国際映画祭でパルム・ドール賞にノミネート。

キャスト
マシュー・マコノヒー1969年11月テキサス州ウバルテ生まれ。2013年「ダラス・バイヤーズ・クラブ」でアカデミー主演男優賞受賞。

渡辺謙1959年10月新潟県小出町生まれ。2003年「ラスト・サムライ」でアカデミー賞助演男優賞にノミネート。

ナオミ・ワッツ1968年9月イギリス、ショアヘム生まれ。2003年「21グラム」2012年「インポッシブル」でアカデミー賞主演女優賞にノミネート。

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