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読書「1922Full Dark, No Stars」スティーヴン・キング

2013-05-27 16:30:04 | 読書

                
 映画や本の感想を聞かれるとき「よかった?」「面白かった?」という問いが多い。私の返事は「眠くならなかったし、集中できたよ」というのが、よかった、面白かったの部類に入る。「1922」と「公正な取引」の2編が収められている。

「1922」は、アメリカ中西部の農民ウィルフレッド・リーランド・ジェイムズが、1922年6月息子ヘンリー・フリーマン・ジェイムズ14歳とともに妻アルレット・クリスチーナ・ウィンターズ・ジェイムズを殺害、古井戸に投棄した。

 この行為が殺人者としての罪に問われることはなかったが、息子のヘンリーは、同じ農家の娘シャノン・コッタリーとの青い性で妊娠させた。コッタリー家の当主ハーラン・コッタリーは、オマハにある聖アウセビオス・カトリック養育院にシャノンを行かせ、四ヵ月後に子供が産まれればその子供を養子に出すという。

 ヘンリーとシャノンは引き離される運命となる。しかし、引き離されることはなかった。手に手をとって脱走した。収入のないこの二人、生きるために銀行強盗で食いつなぐ。しかし、長続きはしない。田舎の小さな銀行を襲ったときシャノンが撃たれて死んでしまう。絶望の中でヘンリーも頭を打ち抜く。

 一方父親のウィルフレッドは、古井戸に捨てた妻アルレットにとりついたネズミに襲われ始める。噛まれた左手手首は感染症で切断。納屋はくずれるし家畜も死んだ。結局土地を二束三文で売り払い色々な職業を転々とするが、1930年4月14日付け「オマハ・ワールド・ヘラルド」が、『図書館員 ホテルで自殺を図る』というニュースを伝えた。

 警備責任者の話として「自分の体を噛んでいたんです―――腕、脚、足首、つま先もですよ。紙までも齧っていたんです。結局、手首を噛み切ったようです。それが致命傷になったようです」

 妻殺しの暗い闇は息子を失い自身もネズミの幻影におびえ自らを齧って果てるというおぞましい結末でもあり、家族の崩壊でもあった。

 「公正な取引」は、末期がんに冒された銀行の副支店長デイヴィッド・ストリーターは車で帰宅途中、デリー郡空港とモーテルや倉庫に沿って伸びる広い四車線の道路の片側にある砂利敷きの場所に目を留めた。

 春には採れたてのゼンマイ、夏には新鮮なベリーや茹でた茎つきトウモロコシが、ほぼ一年を通じてロブスターが売られているのを長年見てきた場所だった。夏の太陽は空港の平らな地所の向こうに赤々と沈みつつあった。視線を砂利敷きに戻したとき「公正な延長を、公正な価格で」という看板が目に入った。ずんぐりとした男がテーブルを前にして座っていた。

 道路の反対側に停めた車から降りて、四車線道路を横切って男の前に立った。二言三言挨拶らしきものから自己紹介になった。男は「ジョージ・エルビッドです」と言って手を差し出した。テーブルに目をやると何も置かれていなかった。この男は一体何を売ろうとしているのだろう。 とストリーターは思った。

 エルビッド(ELVID)をデビル(DEVIL)と並べ替えることも出来る。やがて取引が終了した。ストリーターの寿命延長の代わりに、憎しみを抱いている人物友人のトム・グッドヒューを提供した。そして公正な価格として、ストリーターの収入の15%をケイマン諸島にある銀行に振り込むという条件がつけられた。

 やがて廃物処理業で財を成したトム・グッドヒューに思いもしない災難が降りかかってきた。家族に事故や突然の死と病気が起こり破産寸前まで追い込まれた。

 一方エルビッドが出していた砂利敷きの場所には今は誰もいない。ストリーターは、そこへ素敵なブルーのパスファインダーを停め妻の身体に腕を回した。太陽は真っ赤な玉となって沈みかけている。

 「君はデリー・ニューズ紙にフリーで記事を書き始めた。メイはボストン・グローブ紙で大成功しているし、うちのオタク息子は、25歳にしてマスコミの寵児だ。人生は全く公平なんだ」妻は微笑んだ。ガンも完治したしストリーターは嬉しかった。

 どこかで悪魔がにやりとしているかもしれない。ブラック・ユーモアの横溢したお話で、今も誰かが悪魔と取引をしているのだろう。
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