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読書「七人目の刺客」早乙女貢

2013-04-03 12:59:27 | 読書

                 
 これは8編からなる短編集である。著者のあとがきに「ここに収めた短編は幕末維新に材を採ったものだけに、作者としても何れも愛着があり、それぞれに思い出がある。
 一口に幕末というが、黒船が来て、極端な勤皇攘夷思想の盛り上がりとなり、封建体制が揺れ動いてから幕府の倒壊までは、せいぜい15年間である。
 この15年間に江戸も地方も、二世紀半に及ぶ平安の時代にない激震に翻弄され血風にさらされねばならなかった。そこに多くの悲劇が生じている」とある。

 その悲劇が8編となって読む者の心にグサリと突き刺さる。なかでも私の心を捉えたのは、「虎の尾」「世良斬殺」「竹子の首」である。

 「虎の尾」は、幕末の上総飯野藩の精武流(しょうぶりゅう)指南森要蔵親子の悲劇を描いてある。
 上総飯野藩は、現在の千葉県富津市に存在した藩で、日本三大陣屋の一つといわれる。その要蔵に一人息子の虎尾がいた。虎尾は父が女を囲っているのを知っていた。それが原因で母が亡くなったと思っている。父と子は犬猿の仲だった。

 そして虎尾は、夜半女を殺すために忍び込んだ。行灯に照らし出された女は、虎尾が憎しみで想像していた女とは違った。
 想像の女は、酒臭い息を吐き、安物のびん付け油の濃い髪をふり乱したあばずれ女のおぞましい寝乱れた姿だったが、その女は余りにも静かで美しくもあった。

 16歳の虎尾に変化が起きた。ここから強姦の場面になるが、その行為が自然に行われる描写は、ここで事細かに言えることではない。
 ことが終わって「入ったところから出て行って。そして、もう来ないで」と女は言った。虎尾の顔が引きつった。
「お前、そんなことを言って、父上をだます気だろう」
「えっ!」
「父上は何も知らないで、こんな女に こんな女に」
「あ、待って、お前さまは……」女の声は途切れた。虎尾の手は頚にかかっていた。女はだますつもりはなかった。しかし、虎尾には分かるはずがなかった。

 父要蔵と虎尾は、薩長その他の大軍との白河城の攻防戦で討死している。この話を読むと何か虚脱感に襲われる。

 「世良斬殺」については、世良修蔵という男。戦続きで残虐性を帯びる性格に変わっていく悲しみを描く。

 「竹子の首」は、江戸屋敷から国入りした竹子さま。その容姿のあでやかさと気品が、若者に人気となっている。

 上野吉三郎と小野徳兵衛の二人も一目みたいと熱を上げている若者だった。当時銭湯は混浴だった。この二人も銭湯に張り込んで、竹子さまの裸を見たいという気持ちが抑えられない。

 その竹子さまは、生半可な男では薙刀や抜刀術ではかなわないという噂も流れていた。時代が流れ薩長が官軍として好き放題の世に中。会津にもその大群が押し寄せてきた。

 竹子さまは、髪を短く切って鉢巻をしめて、青みががった縮緬(ちりめん)を着て、白羽二重のたすきで袖をからげ細い兵児帯に裾をくくる義経袴という模様の入った短い袴をはき、脚絆にわらじは紐で締め大小刀を手挟みに薙刀を小脇に抱えてすっくと立つ姿はお色気と共に胸がドキドキとするほどの美しさ。

 この辺は早乙女貢、もっとうまく書いているんだよね。さすがだよ。読んでいても、竹子さまに惚れてしまいそうだった。

 その戦で竹子さまは銃弾に斃れる。竹子さまの首級は、絶対に薩長には渡さない。吉三郎も敵弾に斃れ、徳兵衛が必死で法界寺へ走る。いつの世も女のために命をかける男がいる。すがすがしい印象を残した。
コメント
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