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読書 ドン・リー「出生地」

2007-07-06 15:39:31 | 読書

              
 1980年代の東京が舞台で、アメリカ大使館員トム・ハーリー、麻布警察警部補太田健蔵、カリフォルニア大学大学院生リサ・カントリーマンが主要登場人物。 まずトムは、三十一歳、独身、男盛り。健康と理想体重と小麦色の肌を維持している。身長百八十センチ、容貌は女心をくすぐる白人とハワイ人の混血を思わせる。ウェーブの掛かった濃い黒髪、真っ直ぐ通った鼻筋、高いほほ骨と細くとがった顎、少女を思わせる長いまつげ、両親は白人と韓国人だが、民族的背景を尋ねられたときは、ハワイ出身と答える。そうやって人種的中立を宣言しておけば、たいがいそれ以上の詮索を受けずにすむ。

 太田健蔵は、突然妻から追い出された三十八歳の窓際刑事で、少し英語が解るというだけでつまらない外国人の犯罪案件を押し付けられる。

 リサ・カントリーマンは、児童養護施設の玄関に置き去りにされ、その施設から黒人の夫婦に引き取られてアメリカに渡る。ハーフ、親のない子、在日コリアン、黒人を背負っているが、いまのリサは肌の色は薄く髪は真っ直ぐになり鼻すじも通りイタリア系やイスラエル系、ハワイ系、フランス系、ネイティヴ・アメリカン、ロシア系、レバノン系――色素の濃い、但し決して黒人ほど濃くはない人種の、エキゾチックな混血と間違われることが増えた。そして、博士論文のリサーチのために来日していたリサが失踪したことによって、この三者が交錯する。
 それぞれが捜し求めていた自分の居場所を手に入れるが、リサだけは諦めざるを得なかった。

 読みやすく読者をぐいぐいと引っ張っていき、文体にエネルギーを感じる。二○○五年本書でアメリカ探偵作家クラブ賞最優秀新人賞、アメリカ図書賞などを受賞している著者は、在米コリアン三世で、父が外交官のため、子供時代の大半を東京とソウルで過ごした。
 カリフォルニア大学ロサンゼルス校で文学を専攻し、エマーソン・カレッジで創作の修士号を取得。1988年から非営利の文芸誌Ploughsharesの主幹として活躍し、91年からはフリーの文芸出版コンサルタントも行なっている。90年ごろから短編を発表し始め、2001年に出版した処女短編集Yellowは高い評価を得て多くの賞を受賞した。

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