読書。
『ピアニストの脳を科学する 超絶技巧のメカニズム』 古谷晋一
を読んだ。
クラシックのプロのピアニストは、どのように演奏をしているのか。指の動き、身体の動き、楽譜の理解とそれに沿った進行、ミスへの対応、演奏表現の仕方などなど、その脳の仕組みは素人やアマチュアとどう違いどう優れているのか、また、身体に差はあるのかなどを、MRIやPETといった近年に発達した科学技術装置での観察や各種実験での結果から解き明かしていく内容です。一言でいうと、これらは「音楽演奏科学」という学問分野にあたるのですが、この分野からの一般に向けた研究報告でもあるでしょう。
たとえば「音楽教育は幼少時からしたほうが伸びる」と俗に言われますよね。それは本当なのだろうか? という問いへの解答や(これは本当なのですが、大人になってからの音楽教育によっても音楽の能力は発達します)、「モーツァルトを聴くと頭がよくなる」のは本当か? への解答(モーツァルトに限らずクラシック音楽によって一時的にIQが上がるらしい)といったような世間でささやかれているような話題への言及もあるのです。しかし、本書で扱われるトピックはもうちょっと硬派です。そのなかでも、僕には脳の部位の発達の話よりも、身体的な部分での違いの話のほうがおもしろかった。
ピアニストの個性によって違いはするんです。ですが、たとえばトレモロ(親指と小指で二つの音を交互に打鍵する)を奏でるとき、アマチュアでは手首や指などに力が入りがちなのに対して、上級者は肘をより回転させているという傾向の違いが出る。こういうような例が他にもいろいろ出ているのですが(たとえば、手首や指よりも肩の力を使うというように)、きびしい練習を重ねることで、身体の使い方が変わってくる。より省エネで演奏できるようになることもそうですが、効果的に音を出したり、速弾きしたりするとき、身体の使い方に要領があって、それを為すための工夫を身につけられるかどうかが大きいようです。人によっては意識的にはっきりと自覚して身につけるのか、無意識に身体が覚えていくのか、どうも後者の傾向のほうがどちらかといえば強いように感じました。そして、そんな無意識的な力の加減やテクニックを、現代の科学は解き明かせるようになってきたのです。昔ならば経験論で語られ伝えられた演奏技術が、こうして証左が得られるというか、科学の客観性で捉えられることで、理解が進むことになっていきます。そればかりか、今後はこの研究結果からさらにピアニストの現場へのフィードバックが起こるかもしれない。そうすると、より効率的に技術を習得できる人、つまり従来よりも短時間かつ習得レベルも高いピアニストが出てくるのではないでしょうか。
また、ピアニストに多い故障や病気について書かれた章もあります。どこかが特化すると、別のどこかに無理がかかりもするでしょう。腱鞘炎、手根幹症候群、フォーカル・ジストニア(スポーツ選手のイップスに近い)の三つをとくに取り上げていました。これらについては、まだ発症のメカニズムや克服の処方箋がわからなかったりするところがあるようです。しかし、やはり「音楽演奏科学」の発達などで、こういった病気にあてる光が多角的になるぶん、解決への糸口へは近づいていっている、と言えると思うのです。
そのように考えていくと、未来って明るいです。ピアニストになるためのノウハウが充実し、病気にならないための姿勢やケアの仕方などが明らかになり、さらに万が一病気になっても克服するすべが見つかる。そういった方向をはっきりと向いているなぁと思えた学問分野でした。
僕もこどもの頃にちょっとだけピアノをやりましたが、本書で書かれている「肩で弾く」というのはなんとなくわかるところでした。でもまあ、僕の場合は不真面目すぎて、それでもなぜか音感だけは鍛えられて残ったタイプでした。……とかなんとか、僕についてはこれくらいで。
『ピアニストの脳を科学する 超絶技巧のメカニズム』 古谷晋一
を読んだ。
クラシックのプロのピアニストは、どのように演奏をしているのか。指の動き、身体の動き、楽譜の理解とそれに沿った進行、ミスへの対応、演奏表現の仕方などなど、その脳の仕組みは素人やアマチュアとどう違いどう優れているのか、また、身体に差はあるのかなどを、MRIやPETといった近年に発達した科学技術装置での観察や各種実験での結果から解き明かしていく内容です。一言でいうと、これらは「音楽演奏科学」という学問分野にあたるのですが、この分野からの一般に向けた研究報告でもあるでしょう。
たとえば「音楽教育は幼少時からしたほうが伸びる」と俗に言われますよね。それは本当なのだろうか? という問いへの解答や(これは本当なのですが、大人になってからの音楽教育によっても音楽の能力は発達します)、「モーツァルトを聴くと頭がよくなる」のは本当か? への解答(モーツァルトに限らずクラシック音楽によって一時的にIQが上がるらしい)といったような世間でささやかれているような話題への言及もあるのです。しかし、本書で扱われるトピックはもうちょっと硬派です。そのなかでも、僕には脳の部位の発達の話よりも、身体的な部分での違いの話のほうがおもしろかった。
ピアニストの個性によって違いはするんです。ですが、たとえばトレモロ(親指と小指で二つの音を交互に打鍵する)を奏でるとき、アマチュアでは手首や指などに力が入りがちなのに対して、上級者は肘をより回転させているという傾向の違いが出る。こういうような例が他にもいろいろ出ているのですが(たとえば、手首や指よりも肩の力を使うというように)、きびしい練習を重ねることで、身体の使い方が変わってくる。より省エネで演奏できるようになることもそうですが、効果的に音を出したり、速弾きしたりするとき、身体の使い方に要領があって、それを為すための工夫を身につけられるかどうかが大きいようです。人によっては意識的にはっきりと自覚して身につけるのか、無意識に身体が覚えていくのか、どうも後者の傾向のほうがどちらかといえば強いように感じました。そして、そんな無意識的な力の加減やテクニックを、現代の科学は解き明かせるようになってきたのです。昔ならば経験論で語られ伝えられた演奏技術が、こうして証左が得られるというか、科学の客観性で捉えられることで、理解が進むことになっていきます。そればかりか、今後はこの研究結果からさらにピアニストの現場へのフィードバックが起こるかもしれない。そうすると、より効率的に技術を習得できる人、つまり従来よりも短時間かつ習得レベルも高いピアニストが出てくるのではないでしょうか。
また、ピアニストに多い故障や病気について書かれた章もあります。どこかが特化すると、別のどこかに無理がかかりもするでしょう。腱鞘炎、手根幹症候群、フォーカル・ジストニア(スポーツ選手のイップスに近い)の三つをとくに取り上げていました。これらについては、まだ発症のメカニズムや克服の処方箋がわからなかったりするところがあるようです。しかし、やはり「音楽演奏科学」の発達などで、こういった病気にあてる光が多角的になるぶん、解決への糸口へは近づいていっている、と言えると思うのです。
そのように考えていくと、未来って明るいです。ピアニストになるためのノウハウが充実し、病気にならないための姿勢やケアの仕方などが明らかになり、さらに万が一病気になっても克服するすべが見つかる。そういった方向をはっきりと向いているなぁと思えた学問分野でした。
僕もこどもの頃にちょっとだけピアノをやりましたが、本書で書かれている「肩で弾く」というのはなんとなくわかるところでした。でもまあ、僕の場合は不真面目すぎて、それでもなぜか音感だけは鍛えられて残ったタイプでした。……とかなんとか、僕についてはこれくらいで。
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