Fish On The Boat

書評中心のブログです。記事、それはまるで、釣り上げた魚たち ------Fish On The Boat。

『ゴールデンスランバー』

2020-12-28 21:33:54 | 読書。
読書。
『ゴールデンスランバー』 伊坂幸太郎
を読んだ。

第5回本屋大賞と山本周五郎賞受賞作。伊坂幸太郎さんのキャリアのなかでもひとつの転換点ともなった傑作長編です。

仙台を舞台に、パレードの最中に爆殺された首相の殺人犯として追われる身となった青柳雅春。巨大な陰謀を実行した強大な力を相手に、青柳雅春は悲喜交々のまじりあった彼の人生のたくさんの断片とそれらで繋がっていた人々との絆を力に変えるようにして逃げ続ける、よき旧友である森田森吾が人生で最大の武器だと言う「習慣と信頼」、その言葉をたびたび反芻しながら。笑いがあり、涙があり、ドラマがあり、アクションがある。「全部入り」の感すらあります。

無理なく張られている数多の伏線とその回収の仕方がちゃんとストーリーの大切な一部を成していて見事だなあ、と思いました。本筋のおまけとして伏線が張られその回収を楽しむような余興的なものではないのです。効果的に読者を刺激し、しっかりとした快楽をもたらしもする。ギミックって、あなどれません。伊坂幸太郎という作家はその技巧に長けています。

解説を読むと、構造を特に意識して作るような知性的な操作に重きを置いてこの作品以前の作品は作られていたようなところがあるようです。それを、たとえば伏線の回収ばかりに終始しない試みを今作品では試したそうです。本来それが作家の好みでもあったそうなのですが、自分の書き方でもそうしてみることによって、作品に深みというか味わいというかが増したようなのです。

僕も小説を書きますから、こういう部分を参考にしたいなあと思いもするのですが、自分の場合はたぶん、今よりもっと技術全般を磨くほうが自分のためなのだし、新人賞の選考を考えてみてもそっちなんじゃないかななんて思うところです。

それはそれとして。『ゴールデンスランバー』は一大スペクタクルとしてとても楽しめました。息を飲み、続きが気になってどんどん読んでしまいました。おもしろかったです。


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