今日は、この街にいます。

昨日の街は、懐かしい記憶になった。そして・・

667 ホーチミン②【ベトナム】

2016-01-13 08:51:40 | 海外
ホーチミン市の中央郵便局を訪ねたら、観光客らでにぎわう中央のカウンターに、綺麗な切手シートが展示されていた。私は海外に行くと、その国の郵便切手を買うことがある。人類が発明したシステムで、極めて平和的な宝物の一つが郵便制度だ。しかも切手は、地球規模で通用するのにデザインは地域色が濃い。その面白さでつい購入し、結局はしまい忘れてしまうのだが、ホーチミンでもベトナムの800ドン切手シートを買った。



民族衣装を纏う人物像の図柄だとは承知していたが、よく観て買ったわけではない。夜、ホテルに帰ってハタと思い当たった。ひょっとして切手は54枚あるのではないか、と。案の定、シートは54枚綴りだった。この数字は政府公認の、ベトナムの民族数なのだ。ベトナム社会主義国憲法は第5条で「ベトナムの地に共に生活する各民族の統一国家である」と自らを規定している。切手は全て異なった衣装を纏う男女の図なのだった。



民族とは「人種的・地域的起源が同一であり(または同一であると信じ)、言語・宗教などの文化的伝統と、歴史的な運命を共有する人間の集団」(岩波国語辞典)を指す。多民族国家とは、これらの要件がいくつ異なっても、同胞だと認め合う国家を言うのだろう。最もベトナムの場合、最大民族のキン族が全体の90%近くを占めている。それだけにベトナムの政治の肝要は、北中南の地域バランスと少数民族への配慮にあるらしい。



多民族を統一するには言語が重要だろう。公用語はキン族の母語「ベトナム語」が用いられている。言語学的にはカンボジア語と同じ系統に分類されるそうだから、民族数は多くても通じ合うところがあるのかもしれない。問題は表記だろう。ベトナムでは19世紀まで漢字・漢文が公式表記だった。その末期と重なるようにして「クオックグー」と呼ばれるローマ字表記が広まった。漢字より簡便で、識字率向上に大いに役立ったらしい。



クオックグーのローマ字表記はアルファベットを基本に、幾つかの符号を加えたベトナム独自の変形アルファベットで構成される。われわれが見て意味は全く分からなくても、音は近いところまで連想可能だ。ベトナム語は音節が一つの「単音節言語」で、音節の高低や変化で区別をつける「声調言語」だ。ベトナムの人は中国人ほど声高に会話しないからだろう、街ではさほど気にならないものの、時にはカンカンと響く声が耳につく言語だ。



漢字漢文時代に漢字では書き表せないベトナム語を表記するために、漢字を基にした「チューノム」が考案された。この漢字・チューノム文化を棄てたことが民族にとって有益だったかどうか、今なお議論があるようだが、ハノイやホーチミンの街角に立って、視界に入るクオックグーの看板や標識を漢字に置き換えたら、ここは中国そのものだ。赤地に黄色の星の国旗にしろ警察官の緑色の制服にしろ、まるで長沙か深圳にいる錯覚を起こす。



ベトナムの物価は安い。水道水は飲んではいけないと言われるからスーパーでボトルを買うのだけれど、さほど負担にならない。ホテル代も、ヨーロッパの半額程度ではないか。それにしても通貨ドンの単位は何とかならないものか。切手シートの1枚が800ドンということは、およそ4円切手だ。2人で食事をして200万ドンと言われても、びっくりするよりもまず見当がつかない。政府にデノミの計画はないのだろうか。(2015.12.25-28)













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