湖北に出かけた日、古戦場で知られる賎ヶ岳に登り、山頂の眺望を楽しんで余呉(よご)の湖畔に降りた。木漏れ日がちらちらと戯れているほかは、湖面に浮かぶ鴨たちを揺らす波さえない晩秋の昼下がり。完全な静寂が三橋節子という日本画家の作品を思い出させた。
湖北からは、遥かに遠い琵琶湖の対極にあたる大津市の長等公園に、彼女の美術館が建っている。35歳で没した画家は、生活の場でもあった長等の丘から、終生愛した . . . 本文を読む
雪のないスキー場は、いかにも間の抜けた空間である。急斜面が殺風景な肌を晒し、休業中のリフトは景観と釣り合わないまま所在なさそうである。しかし周囲を見晴らしたい者にとっては、すこぶる都合の良い展望台だ。眺望を遮るものがなく、何よりも人の気配の薄いことがよろしい。
ここは新潟県魚沼市の須原スキー場。私は標高555メートルの頂上に立ち、越後三山を望んでいる。その山塊は越後と会津・上州を隔てる越後山脈 . . . 本文を読む
黒潮の彼方から昇る太陽に見惚れていたら、どこから現れたか、お遍路さんが立っていた。「奇麗なものですなぁ」「ほんとに、素晴らしいですねぇ」。同年代と見定めて、互いに気楽な言葉を交わす。ここは四国の入野松原。今日の日の出は午前6時29分。遍路さんは足摺岬の38番・金剛福寺を目指し、夜明けとともに出立だという。88の札所の中で、37と38番の間が最も離れている。ややくたびれた遍路装束が、残月の懸かる西 . . . 本文を読む