万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

全戸布マスク配布の謎

2020年04月26日 13時43分09秒 | 日本政治

 政府が新型コロナウイルスの感染防止策として打ち出した466億円をかけた全戸布マスク配布策。当初よりウイルス対策効果の面から疑問視する向きがあったものの、配布済みのマスクから非衛生的な欠陥品や中古品?が見つかったり、子供用と考えられる小さなサイズであったり、また、一時的であれ、政府が発注先の企業名の公表を拒んだことなどから、多くの国民の失望を買っています。それにいたしましても、この全戸布配布、何故、かくも常識では考えられないような惨憺たる顛末となったのか、むしろ、その方が余程謎ともいえましょう。

 配布マスクに欠陥が多数混じっていた理由は、製造国が中国、並びに、ミャンマーであったからなそうです。中国’という国名を見て唖然とした国民も少なくなかったはずです。何故ならば、新型コロナウイルス禍の震源地であった中国が同ウイルスの猛威に苦しむとき、日本国政府を含め全国各地から中国支援のために高品質のマスクが寄贈されていたからです。その後、同ウイルス禍に見舞われた日本国に対して中国の各界からお返しのマスクが寄贈され、‘マスク外交’の名の下で日中友好がアピールされもしたのですが、今般、日本国民への配布用に中国から輸入されたマスクは、何十年も前の製品かと疑うぐらいの旧式、低品質、かつ、不衛生な製品であったのです。

中国から調達したのは日本企業であったとはいえ、一体、誰が、どのようなプロセスで、マスクの配布を発案し、配布マスクの品質やデザイン等の仕様を決めたのか、全く以って謎なのです。一方、日本国政府からの発注品である以上、中国側もある程度の気は遣うはずなのですが、粗悪品を以って提供したともなりますと、日本国、並びに、日本国民を侮辱したとも受け取られかねません。反中感情を高める可能性もあるのですから、政府の判断は理解に苦しみます。

 第2の謎は、何故、日本国政府が、日本国内のマスク製造業者、あるいは、縫製事業者ではなく、海外からの輸入が想定される事業者を選んだのか、という疑問です。受注事業者として社名の挙がった3社を見ますと、まず、伊藤忠商事は商社ですし、マツオカコーポレーションは、日本国内の福山に本社こそあれ、縫製拠点は中国やミャンマーなどにあり、グローバルなネットワークを構築しています。このことから、マスクの多くが輸入品となることを、政府は当初より予定したことになります。そして、残る一社の興和はマスク製造会社ではありますが、国内で生産販売しているのは「三次元マスク」のみのようなのです。

マスクの発注に際して日本国政府が公開入札を実施したとする形跡は見られませんし、当初の政府の説明では4社としておりましたので、公開された3社以外に‘謎の一社’が存在している可能性もあります。何れにせよ、今日、非常事態宣言の発令により、多くの人々が働きたくとも働けない状態にもあります。アパレル企業などの中にはコロナウイルス禍による売り上げ減少に対応すべく、布製のマスク製造に乗り出す事業者も現れているそうですので、むしろ、こうした国内における民間の努力を支援すべきではないでしょうか。当初、予算は466億円と説明されていましたが、その大半は中国にも流れたのでしょうから、一体、どこの国のための政策なのか疑問を抱かざるを得ないのです。

 第3の謎は、政府のマスクに対する認識が、国民意識とは著しく異なっている点です。民主主義国家における政治家というものは、選挙を経て公職に就くため、国民世論を読もうとするものです。ところが、国内におけるマスク不足が深刻化したとはいえ、国民の多くが政府からのマスク配給を強く求めていたとは思えなないのです。高性能の不織布を用いたマスクの配布であるならば国民が入手することは困難ですが、布製であれば、誰もが本気で作ろうと思えば作れるものです(メディアやネット上には簡単な作り方が紹介されてもいる…)。つまり、466憶円もの予算を計上するほどの事業であるとも思えず、何らかの利権さえ疑われるのです。

 そして第4の謎は、事業予算のいい加減さです。先述したように、当初予算は466億円と見積もられていましたが、実際には、90億円で収まったとされています。あるいは、‘謎の一社’が残りの376億円分を受注している可能性もあるのですが、かくも予算と実際の事業費との間に開きがありますと、政府は、厳密に見積もせずに所謂‘どんぶり勘定’で予算を付けた疑いが濃くなります。仮に、90億円であったといたしましても、マスク配布にこれ程の予算をかける余裕があるのであれば、医療体制の充実や検査・治療法の開発の支援、そして、事業継続が危ぶまれている人々への支援に振り向ける方が、余程、国民も納得するはずです。

 以上に幾つかの謎を述べてきましたが、常識に照らして多くの国民が‘何かおかしい’と感じるような政策には、表向きの説明とは違う‘何か’が潜んでいるものです。政府は同事業を中止するつもりはないようなのですが、このまま同事業を続けるとしますと、国民の政府に対する視線はいよいよ冷ややかなっていくように思えるのです。

コメント (4)
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