昨日4月8日、新型コロナウイルスの感染拡大を抑えるべく、日本国では安倍首相により緊急事態宣言が発令されました。強制力には乏しいものの、対象となる地方自治体の知事は、「3密」の条件を満たす飲食店等への営業停止や学校の休校措置の延期等も要請できるようになりました。その一方で、公共サービス等を除く経済活動の一斉停止や都市封鎖といった踏み込んだ措置は見送られたのです。
日本国政府の対コロナ戦略は、経済活動を維持しつつ感染拡大を抑えるという二正面作戦を特徴としています。敢えて困難な道を選択しているのですが、同戦略が成功するには、民間における幅広い協力と創意工夫は欠かせません。そこで、考えてみたのですが、民間の企業が24時間オープン制を導入してはどうかと思うのです。
ここ数日にわたり、東京都では、感染経路の不明なケースが急増しているそうです。その原因として推測されている有力な説は、通勤時における満員電車内での感染です。報じられるところによりますと、新型コロナウイルスの感染力は通常のインフルエンザより強く、アメリカの研究機関によれば、飛沫が飛散しやすいくしゃみ、咳、会話のみならず、無言のままで呼吸をするだけでも周囲の人々を感染さるそうです。仮にこの説が事実であれば、乗車している人々は、手すり、つり革、シート等による接触感染や飛沫感染のみならず、事実上の‘空気感染’のリスクにも晒されていることとなりましょう。
新型コロナウイルスの感染拡大が報じられた当初から、満員電車での感染については警鐘が鳴らされており、通勤時の混雑や接触を避けるために、民間企業の多くも在宅勤務、テレワーク、並びに、時差通勤に取り組んできました。今般の宣言でも、政府は強く導入を奨励しています。こうした取り組みが功を奏し、JR東日本では2割がた混雑が緩和され、特に朝の出勤ラッシュ時では人と人との間に距離ができる程までに改善されたそうです。その一方で、帰宅時にあっては以前の状況と大きな変化はなく、依然として狭い空間に大勢の乗客が押し込まれた状態が続いていると言います。今般の緊急事態宣言の発令により、帰宅時における混雑緩和も期待できるのですが(報道によれば、本日の朝の通勤時間帯では大幅に緩和とのこと…)、先に提案した24時間オープン制の導入の目的は、まさにこの満員電車問題の解決にあります。
そもそも、満員電車というものが出現する原因は、企業組織の始業時間と就業時間が凡そ午前9時と午後5時までと同一時間に集中するところにあります。短い同一時間帯に大勢の人々が通勤するのですから、公共交通機関の混雑は避けられません。そこで、この問題を解決するための手段として、先に挙げた在宅勤務、テレワーク、並びに、時差通勤が試みられたのでしょう。もちろん、上述したように実際に朝の出勤時間帯の混雑が緩和されており、こうした方法の有効性は既に実績として証明されています。しかしながら、これらの方法を採用しても、満員電車が完全に姿を消し、感染リスクが消滅したわけではありません。おそらくその理由は、職種や職務内容によってはオフィスや現場にいなければできない仕事があり、否が応でも通勤しなければならない人々が多数存在するからなのでしょう。また、自宅で端末を扱うテレワークは、情報管理の面からしますと、機密漏洩やサイバー攻撃を受ける危険を伴うとする指摘もあり、全ての社員への適用は難しいようです。
一定数の人々が公共交通機関を利用して通勤しているのが現状であるとしますと、リスクに直面している人々の安全を確保するためには、上乗せ的な対策も必要なように思えます。24時間オープン制とは、一律に設定されてきた始業時間と終労時間を一先ずはなくし、夜間を含めて一日のうちの8時間を勤務時間とする制度です。時差通勤と近い発想なのですが、この制度では、個々人の通勤・帰宅時間をより広い時間帯に分散することができます。例えば、一日の24時間を8時間で分割すれば3交代制となりますし、勤務時間を16時間とすれば2交代制、あるいは、部署ごとに勤務時間帯を変えたり、各自が8時間を自由に設定するという完全オープン方式もありましょう。また、企業ごとにローテーションの始まりと終わりの時間を変えれば、通勤時間の分散度が更に高まります。
感染病の拡散防止には、兎角に閉鎖的措置に傾斜しがちですが、換気が有効なのと同じく、逆に開放性を高めることでリスクを低減させる方法もあります(リスク濃度の希釈…)。もっともこの方法は、人の自然な体内時計とは合わないために健康を害する可能性もあり、長期化は避けるべきかもしれません(日頃より夜勤をされている方々には頭が下がります…)。また、今般の宣言により、朝夕ともに満員電車問題が解消される可能性もありましょう。短絡的な発想でお叱りを受けるかもしれないのですが、少なくとも致死率の比較的高い感染病が拡大フェーズにある場合には、臨時の措置であれ、通勤時間帯をより分散化できる制度の導入を検討してみる価値はあるように思えるのですが、いかがでしょうか。