万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

世襲リスクへの対応が先では

2009年03月29日 13時22分43秒 | 社会
英王室、男女問わない「長子継承」への変更検討を開始(読売新聞) - goo ニュース
 イギリスのみならず、日本国でもつい数年前に皇室典範の改正が検討されたことがありました。王室や皇室というと、すぐに継承順位が問題として挙げられるのですが、現代という時代における世襲には、以下のような問題点があるようです。

(1)君主の資質・能力
 世襲となりますと、必ずしも君主としての資質や能力を備えた人がその位に就くとは限りません。そこで、君主には資質や能力が必要か否かの議論と、もし、資質や能力が必要でありながらそれを欠く場合、継承順位を変える仕組みを設けるか否かの問題が提起されることになります。

(2)君主の婚姻
 世襲制であっても、継承者の婚姻によって、半分は別の家の血統が加わることになります。現在では、継承者の自由結婚が認められるようになりましたが、古来、婚姻は、国家権力の乗っ取りや、内乱の原因ともなってきました。現在にあっても、東宮家では婚姻による混乱が起きており、この問題が過去のものではないことを物語っています。このことから、継承者の婚姻の自由は、どこまで許されるのか、外戚には権利があるのか、あるいは、配偶者の義務不履行を認めるべきか、という問題が提起されます。もし、何の制約もかけないとしますと、君主は数代で一般国民と同列になり、存在意義が薄れてしまうことになりましょう。

(3)継承権の放棄の自由
 君主の家に生まれた場合、自動的に将来の地位が定まるわけですが、これには、本人の意思が介在していません。もし、君主に婚姻ほどの自由を認めるならば、自発的な継承権の放棄もゆるすべきとなります。ここにも、君主の継承権放棄の自由を許すか、否かという自由の問題が見えます。

(4)国民の拒否権
 世襲制と民主主義との関係で問題となるのは、国民が、君主を選べないことです。厳格に継承法を規定すればするほど、国民の選ぶ余地は失われてゆくことになります。身勝手で、特権ばかりを主張する君主が登場した場合、国民に拒否権を認めるか否かも議論の課題となりましょう。

 問題点はこれだけではありませんが、現代という時代は、君主と国民とのそれぞれに、世襲にまつわる重大問題を投げかけています。こうした基本的な議論を経ずして継承法を改正しても、混乱要因はそのまま残ることになりましょう。まずは、制度の根本問題から議論を始めるべきではないか、と思うのです。

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