秘境という名の山村から(東祖谷)

にちにちこれこうにち 秘境奥祖谷(東祖谷山)

小説   斜陽 6  SA-NE著

2017年12月17日 | Weblog


琴平駅を過ぎた辺りから、空の色は少しずつ変わって、厚いグレーの雲が広がっていた。
車窓から見える風景に、僕の住む町と少しだけ似ていた。
一瞬一瞬切る取る様に広がっていく、知らない誰かの時間。

踏み切りで停車させられた軽トラックのおじさんの大あくび、並走するダンプカーの運転手の横顔、
パチンコ店に今入って行った人、校舎の窓、校庭の子供達。線路の枕木の音をBGMにして
無声映画のスクリーンみたいに、映像が無言で瞬時に変わっていく、不思議な空間。

僕はこちら側で、僕は誰かのあちら側でもあり、その時間を一本にして繋がり、出逢う者達。一秒、二秒で変わる運命。
下手くそな哲学を、悶々と考えていると、窓の外は小高い山々に変わっていき、次は池田、阿波池田とアナウンスが流れてきた。

祖谷が近くなる。背中が少し震えて、膝がゾワッとして、ボストンバックを強く握りしめて
僕はデッキに向かった。デッキの窓に広がる見知らぬ町は、空から途切れ途切れに舞い降ちる雪の中にいた。

駅前のバスターミナルに向かうと、チケット売場のカウンター前に貼り紙が貼られていた。
『東祖谷積雪にて、運行未定』

僕は積雪の意味が解らなかった。雪はチラチラ舞い降りているのに、運行未定って何かの間違いみたいで、窓口で尋ねた。
「すみません、東祖谷に行きたいのですが?」
受付にいた中年の女性が、すぐに前に出てきた。

「貼り紙に書いてるように、東祖谷は今日は酷く降っとって、バスは西祖谷までしか入れません」
「西祖谷って、東祖谷とは別の場所なんですか?」
僕は思わず、口に出した。

女性はちょっと呆れた様な顔で僕を見て言った。
「西祖谷は、東祖谷の手前のかずら橋で有名な所です。西祖谷までなら、もうすぐバスが出ますよ」
強い口調に押されるみたいな流れで、乗車券を購入した。
東祖谷の旅館にキャンセルの電話をして、僕は西祖谷までのバスに乗った。

沈みかけた太陽は、厚い雲に阻まれて、わずかに顔を出していた。渓谷に沿う様にバスは、走って行く。
大歩危峡と言う名所の標識を過ぎた辺りから、雪の粒は飛沫の様な激しさに変わり、
曇りガラスの外は一気に銀世界に変わって行った。

偶然尋ねた一軒の民宿で、僕は仙人の様な民宿のおやじさんに出逢った。














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