秘境という名の山村から(東祖谷)

にちにちこれこうにち 秘境奥祖谷(東祖谷山)

小説  斜陽 2  SA-NE著

2017年12月10日 | Weblog


母が亡くなってから、不思議な夢を見るようになった。
四十九日を過ぎても、納骨出来ないことの暗澹とした思いが僕の中で燻っているせいなのか、兎に角不思議な夢。
視界の前には二つの重なる様な山があって、手前に田畑が一面に広がっている。

田畑の間に一本の小道が、刷毛で掃いたようになだらかに続いている。僕は手前側の小高い石垣の上に、立っている。
振り返ると、知らない小柄な老夫婦が昼間の幽霊みたいに立っていて、僕は背中がゾクッとして、慌てて逃げようとして
石垣から真っ逆さまに落ちる。

一瞬手をバタバタ広げると、僕の体は宙に浮いて、小道を眺めながら、空を飛んでいる。どこかで母の声がする。
「さとしっ!さとしっ!」
アパートのドアを鈍く叩く音で目が醒めた。

「智志っ、いるのか?」
ドアの前には、佐藤裕基がスーツ姿で青竹みたいに立っていた。
大学時代からの友人で、彼に感化されるみたいに、同じシステムエンジニアの仕事に就いた。
裕基は長身でまさに、眉目秀麗とは彼の為にある言葉なんだと、僕は思っていた。裕基は裕福な家庭で、育った。

僕とは対照的な境遇だ。でも、何故か僕達は気があった。
価値観も人生観も一致していた。
僕が私生子だって話も、裕基にだけは、打ち明けていた。
でも、一つだけ打ち明けてない事実がある。

もう過去の話だけど、打ち明けてしまえば、僕達の友人関係は永遠に断ち切られてしまう。
「智志、携帯の電源切ったままだろう?みんな心配してたんだぞっ」
台所が玄関みたいな部屋に入りながら、裕基が靴を揃えて脱ぐ。

裕基のいつもの柑橘系の柔軟剤の香りが、部屋に立ち込める。僕はバサバサの髪を手で軽く直す。
裕基は、台所の隣の母の部屋に真っ直ぐに入っていくと、仏壇の前に正座をした。

「智志、納骨どうすんの。菩提寺とかないの?」
「今は、何も考えたくないんだよ」
僕はドリップコーヒーをたてながら、裕基の横顔を見ていた。

裕基は悲壮感漂う僕の顔を見て、確かめる様に、一本の線香に火を点けた。
そして、手を合わせ、独り言の様に母の小さな遺影に話しかけている。

「おばちゃん、貴方のご子息様のさとしくんは、35歳にもなって、毎日毎日、泣いて暮らしております。
化けてでてやって、一喝して下さい。このままでは、ダメ男になってしまいます」
手を合わせながら、裕基は自分の言葉に苦笑していた。
台所の隅の洗面所の曇った小さな鏡の中に、中肉中背童顔のボサボサ髪の僕が、じっと此方を見ていた。














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