晴天の初冬。日曜日。
スダチ以来の、祖谷八景への訪問だ。
訃報続きの東祖谷。この3年間、特に仏様が増えたように感じる。
祖谷八景のオーナー様のお母様も仏様になられた。
生前に元気でおられた頃、度々お話をした記憶がある。
夫唱婦随を地で行っているような、ご夫婦に思えた。
綺麗に祀られた祭壇。着物姿の遺影の笑顔は昔と変わらない。
お線香を一本立てて、りんをならす。
大往生ですね。と言葉をかけたが、遺族として、病院に対する幾つもの不信感が拭えないまま、
堪えて病室を後にしたとの事。長寿とか大往生とか、関係ない。
親は永遠に愛しく、大切な存在だ。その最期の時間に際して、
悔しい思いをして連れて帰った家族の胸中を想うと、かける言葉は、途絶えた。
オーナー夫婦とお茶を飲みながら、直接伺いたかった大事な話があった。
祖谷八景無期限休業。
リピーターを始め、多くのお客様に愛されている祖谷八景。
コロナ禍も、必死で乗り切った。
自腹で東奔西走し、いやしの温泉郷を黒字経営にした手腕を活かし、祖谷八景をオープンさせた。
臆することなく、行政に対して意見し、一部の方からの攻撃も受けながら、
それでも怯まず、独立不羈の精神を貫いた。
14年の間に、この場所で、6000人以上の宿泊者が、其々の想い出をつくれた。
一人で宿泊された方は、自分を静かに見つめ直す時間だったり、
仲間と共に宿泊された方々は、愉快な想い出を共に共有できた。
誰もがかけがえのない時間の宝物を、この場所で頂いた。
無期限休業を、決意するまでの、夫婦の葛藤は、どれほど辛かっただろう。
守るべきは、お客様ではない。
守るべきは、夫婦のこれからの健康である為の平穏な時間。
私はこの場所を何回も利用させて頂いて、想い出を沢山つくれた。
感謝しても、感謝しきれない。
ありがとう。祖谷八景。
ありがとう。祖谷八景のご先祖様。
で、リピーターさん達は、オーナー様の独演会を、これからどこに行けば、聞けるんでしょう?
TA KA TA KA劇場は、誰が餌食になるんでしょう?
『カフェ・祖谷八景』
『貸し会議室・祖谷八景』
それを再オープンさせて、独演会の場所にしたらいいのに。などと、無責任に提案したくなる。
お茶を頂いている間に、予約の電話がかかってきた。
民宿を閉めたことを伝え、東祖谷の民宿や、ホテルを勧められていたオーナー。
『民宿は辞めましたが、いつでも此方においでた際は、コーヒーでも飲みに寄って下さいよ』
と言って電話を切っていた。
『辞めたらわし、老け込まんか?心配しよんよー』と笑うが、多分その心配は無い。
集落を維持する活動力がある限り、ココロが健康である限り、老化現象はおまけのようなものだ。
ご夫婦がいつまでも、長く健康で、あの縁側に座り、落合重伝建の夕刻の灯りを見ながら、
のんびりと過ごして欲しい。
私やC子ちゃんには、果たせなかったささやかな幸福を、守っていって欲しい。
ありがとう祖谷八景。
お疲れ様祖谷八景。
春を待ち、記憶のままに咲く、あの福寿草のように、
祖谷の春夏秋冬を私達の記憶と共に、いつまでも、発信して下さい。
敬具