山里は新緑が濃くなり、花々も初夏の初々しさから逞しい木の花と
移り変わりて、ことごとく夏の姿になりつつあるこのごろだが
東祖谷もなにかと、流行り廃りの物珍しい風物もある
このところ、久保集落から菅生にかけて流行っているものがあって
幹線道路や林道を走っていると目に入る風物、ありゃあ、なんだこりゃあ!
1m近くあるオレンジ色に黒の縞模様の動物らしきものが畑に居るのである
よくよく見ると獰猛な虎が居るのである、どうも、東祖谷ではお年寄りが
動物の虎を飼うのが流行っているらしいのである
また、どうしてなのだろうと訝りながら、久保林道を最上部に上がり
T老婦のところへ何時もの挨拶に訪ねると、なんと、畑に2匹も虎が
座っているではないか
「おばちゃん、虎が2匹もいるで、飼ったんかいな
また、なんで、虎、飼ったんや?餌代がようけいるだろ」
「まあ、よう来たのうや、ああ、畑の虎かえ、、ありゃあ鹿除けじゃわ
畑に虎を走らせときゃあ、鹿も寄り付かんで、鹿除けにちょうどええわな
餌代はいらんぞえ、ビニールを膨らましたやつじゃけんのうえ」
「だけんど、また2匹とはぎょうさんじゃわな」
「そうも思うたけんど、1っぴきじゃあ、ようけな鹿に負けるでな
それで2匹にしたわな、下の毘沙門天さんとこのTさんとこなんか
4匹飼うとるでのうや、たいしたもんよ」
「まあ、しかし、おばちゃんも物好きやなあ、だけんど、誰が鹿除けに
虎の風船が利くいうたんよ」
「わたしゃ、よう知らんけど、毘沙門天さんに用があっての、その時に
Tさんから聞いたんじゃわ、そんなもんかいなと思うてTさんに
頼んだんよ、そしたら、間なしに飼ってきてくれたわ」
「で、これ、なんぼしたん、高かったろ」
「隣のにいちゃんは、あれは高いぞ、1万円はするわなと云っていたがの
なんのことない、一匹600円あまりよ、隣のにいちゃんも何云うやら」
「来たけんの、畑にどう、取り付けようかと思いよったところに
ちょうど、娘婿がやってきたの、ほな、ぼくが取り付けようわいと
云って、竹ざおに虎を吊るしての、道の横に立てて、帰ったんじゃわ
そしたら、4,5日後に徳島の息子が帰ってきて云うにはのう
「おかあちゃん、こりゃあ、いかん、鹿除けにはならんわ、虎登りじゃあ
あかんわ、虎は畑を走らせにゃあ、鹿除けにならん」
云うて、畑に10mほどのロープを張って、虎の張子にわっかをつけて
風が吹くとロープの間を首を振りながら走るようにしてくれたんよ
まっこと、風が吹くとよう走るわ、
息子も虎登りとはよう云うた、鯉のぼりじゃあないけんのう、たしかに
虎は下を走る動物じゃけんのう、天に登ったんでは鹿を追っかけられんでの、虎登りではのうえ」
なるほど、居るあいだにも風が吹くと首をふりふりして走って威嚇して
いたのには、驚くやら、あきれるやらであった
しかし、東祖谷でこの虎の張子で鹿除けを思いつき流行らせたのは誰なのか
まだ、調査の途中で判らない、また、実際利くものかも不明である