苅り飛ばした青草の匂い。規則正しい蝉の声。
開け放された障子戸。
縁側から真っ直ぐに吹き抜ける風が叔母の横顔を撫でていく。
「ええ風じゃのうや~」
そう言うと、湯飲みに残った冷めたお茶を、飲み干す。
「カヨさんも何しよるかのうや~電話してみようか」
そう言うと、子機の受話器のボタンを押して、姉が出るまで鳴らし続ける。
「カヨさん出んわ~くたびれて寝よんだろうか」
諦めて、電話を置く。
風が 冷蔵庫に張った数枚の写真をパラパラと床に落としていく。四人のひ孫達の写真だ。
「ありゃりゃ、みな飛びよるわ~」
そう言って笑いながら、座卓の上のお菓子の袋を開ける。
「秋のお彼岸には、みな戻るかのうや~何作って食わすかのう~」
「何か美味しいものを作るわな」
私がそう言うと
「たのんます。頼りにしよるわ~スマン、スマン」
そう言いながら、思い出したように、再び子機を握る。
「もしもし、○○のネエサンかえ~、イモも掘って食うたかえ~
○○のネエサンくのイモは、今年はみょうげになって、わやになったと~
明日は雨っていよるけん、集まるかえ~」
友人数名に素早く連絡をして、明日の遊ぶ手筈を整える。
「帰るわな、帰ってゴンの散歩するわ~」
「ようえ、いぬんか」
そう言うと、必ず庭先まで、見送ってくれた。
あの日、庭に咲いていた幾つもの百日紅の紅色は、今は咲き方さえ、忘れたみたいです。
何気なく過ごした時間が、
こんなにも 愛しく思う。
魂の温もりが、パラパラ漫画のスピードで、
私の心をツツイテ
無性に切なくて 愛しくて
よさこい祭りの山車から激しく響く、重低音の音楽。
まるで空のスピーカーから流れるみたいに、鼓動する。
夕刻になると、山車は其々にライトアップされ、色彩が小さな商店街に溢れていく。
ボーカルが、逝く夏を惜しむように、更に声を張り上げていく。
かき氷の屋台に並ぶ
見知らぬ親子の笑い声。どこからか流れてくる、屋台の揚げ物の匂い。
振り向けば そこに居た。
振り向けば、そこに居た人達の
今は気配さえ無い。
真っ直ぐに手を翳して、深呼吸して探してみる。
8月
よさこいの夏。
貴方は どこに いますか。
そちらに
夏は ありますか。
みんな
元気ですか…
合 掌