去年の10月。数回目の入院。お決まりの受け入れ期間が切れて、また、他の病院に転院した。
3ヶ月前までは、話すことも出来た。
会いにいくと、オバヤンは
『もとどおりに、なるかのうや』と小さな声で 呟いた。
「大丈夫!もとどうりに元気になるよ」
『あとのことは、たのみます。菜菜子が頼りじゃわ』「元気になって、帰ろうな」肩をなでてあげた。
2ヶ月前から、容態が一気に悪くなった。
一人で 病院に会いに行き、病室で一時間余り、意識の曖昧なオバヤンの手を握り、ココロの中で 話をした。
ベッドに寝ているオバヤンは、痩せほそり、知らない老婆に見えた。
『オバヤンは、もう・いない…』
この世の果てで、少しずつ静かに枯れていく 人間のカタチをした、何かに見えた。
それでも、ただ手を握って、私とヴヴヴにしか わからない 永い月日を確かめあった。
ありがとうって、何度も何度もココロの中で呟いた。
4日前の朝方、 オバヤンが 夢に出てきた。
祖谷のオバヤンの家のサッシのカギを、二人で一枚づつ閉めていた。
閉め終わった頃 香川に住む孫が、一緒に立っていた。
その夢を見た時に
別れが近づいている予感がした。
13日の朝、6時前に、娘に見守られて、静かに息を引きとった。
風花にホッペタを叩かれたような 痛みがココロを突く。
胸の奥で 何かがスーと 抜けていく。
幸福な人生だったね。
ワタシも 楽しかったよ。
二人で食べた夕飯は、いつも 格別な味がしたよね。
あれは、二人で食べたから、きっと美味しかったんだね。
ありがとう。
ありがとう。
ありがとう。
空の上は 賑かになっているから、きっと また 退屈しないと思うよ。
私の父ちゃんや、母さんに会えたら、
『菜菜子は元気にしよる』
って 伝えてよ。
私の旦那に会ったら、
『菜菜子は、まだ迎えに来るな!って言よるぞ』
って 伝えてよ。
生きる 活きる
逝く為に 生ききる
夜明けの満開の桜の花に抱かれて 旅立ったヴヴヴ。 ありがとう・さようなら
合 掌