これは、4月に教師になったばかりの初任者の先生の授業である。まだ、多くの課題が残る授業だが、言葉の一つ一つに着目させた授業であり、子どもたちは集中し、よく考えていた。今までどちらかというと感覚とイメージで読解がなされてきた授業とは、相反するものと言えよう。
授業の様子を一部紹介する。教材は4年国語「白いぼうし」である。この時間にあつかった文章は次の部分である。数字は文番号である。
①「もぎたてなのです。きのう、いなかのおふくろが、速達で送ってくれました。においまでわたしにとどけたかったのでしょう。」
②「ほうほう。」
③「あまりうれしかったので、いちばん大きいのをこの車にのせてきたのですよ。」
授業の様子
○「速達」が問題になる
T1 登場人物の気持ちがわかるところに線を引いてくれましたか。
C1 速達で送ってくれましたというところに線を引いた。
T2 速達で送ってくれました。ここですか。
T3 どんな気持ちがわかりますか。
C2 松井さんのお母さんは松井さんに夏みかんを早く届けたかったので速達で送ってくれた。
T4 なるほど速達で送ったというのは、松井さんのお母さんは、においも早く送ってやりたかったのですね。
T5 速達ってどういう意味
C3 調べたよね。
T6 普通よりも早く届けてもらう郵便、それが速達ですね。
C4 料金も
T7 料金も多く払ってでも普通よりも早く相手に届けたいときにつかう、それが速達です。松井さんのお母さんは、その速達を使って夏みかんを届けたのですね。
C5 そこからお母さんのやさしさがわかる。
T8 おお、いいねー。
T9 お母さんのやさしさがわかる。
○ 「あまりうれしかったので」が問題になる
C6 私はあまりうれしかったのでのうれしかったに線を引きました。
T10 うれしかったので、ここのうれしかったに線を引いたのですね。
C7 うれしかったので、一番大きいのをのせてた。※「ので」を強調して発言する。
T11 うれしかったので、一番大きいのを車にのせてきた。板書の教材文の「ので」を○で囲む。後の学習につかうために、
T12 詩希さんの意見より、長くなるね。
C8 ぼくは、あまりうれしかったのでのところに線を引きました。
T13 「うれしかった」に線を引いた人・・・1人
「うれしかったので」に線を引いた人・・・なし
「あまりうれしかったので」まで線を引いた人 ・・・多数
T14 このあまりをいれたのと入れないのでは何がちがいがありますか。
C9 5~6人の児童が挙手する
T15 ちょっと待って、まだ考えていない人がいる、考えていない人がいるときどうしたらいい。
C10 辞書を引く
T16 では、辞書を引いてください。
C11 子どもたち辞書を引く
C12 あまり・・・算数
C13 2つ意味がある。
C14 28ページにある
C15 割り算のあまり。
C17 32ページ
C18 あまりうれしくない。
C19 この場合はどれ
C20 先生わからへん。
T17 教えてあげて、となりの人。
T18 はい、前を向きましょう、そのページは開けておいてください。
T20 先生もみんなと同じ辞書で調べてみた。5こありました。
1つは、残り
2つめは、算数の割り算の割り切れないときの残りの数
3つめは、程度を越える様子、あまりひどく
4つめは、これほど、たいしてこの中でここで使っている(教科書の文章)あまりというのは、1~4のうちどれだと思いますか。
T21 選ぶ、当番さん
C21 用意はいいですか。
C22 はい
C23 せいのー
C24 多数の子どもが指を立て挙手する。
T22 数える(1人を除いて全員3を選ぶ)3以外の人(1人が挙手する)
T25 すごいね、みんな、そんなことがわかったんだ。
T26 ここでわかったのは
C25 あまりうれしかったので
T27 すごい、すごい。
C26 わかった、うれしかったは少しで、あまりはすごかった。
C27 あまりがあるとないで、けっこう差がつく。
C28 うれしかったはふつうで、あまりがつくとすごくうれしい。
C29 うれしかったがこのぐらいで、あまりがつくとこのぐらい。(両手でその量を表す)
T28 そうか、これが、こんなになるのか(子どもの発言を両手で繰り返す)
C30 うんとね、あまりうれしかったのでこの車にのせてきた。うれしくなかったら車にのせてこなかった。・・・・・・。
※私はこの授業を1時間見ていたのだが、授業者がやや引っ張りぎみであり、もう少し子どもの考えを出させ、子どもの考えを使って授業をすればよいと思った。しかし、それでも多くの子どもが授業に進んで参加し、集中して考え、意見を積極的に発言したことはよかった。では、それはなぜかと考えてみると
①課題の提示が具体的であったこと
②その課題解決のために、
イ、子どもが文章をよく読まなくてはならないこと
ロ、辞書を引かなくてはならないこと
ハ、自分の考えを持たなくてはならないこと
二、どれかの考えを選択しなければならないこと
ホ、対立的な問題で話し合わなければならないこと
などの学習があったからだろうと考える。
授業は、授業者の
①教材を読み取る力
②追求過程の中での学ばせ方の技術
③授業を組織する力
の3つが必要になるが、この初任者の教師は、①や③はこれから身に付けるとしても、②だけでもこのように工夫してやれば、だれでもかなりよい授業になることを実証しているように思う。
たった3つの文から、これだけ話し合いが活発にでき、先生と友だちと楽しいひとときを過ごすことができるなんてうらやましいです。毎日子ども一人一人と会話したいと思いますが、なかなかそんな時間はとれません。こうして授業中に教材を介して会話できるっていいことですね。
記録文を読んでいて気になったことがあります。①の文の読み取りです。ここで事実として分かるのは、お母さんはもぎたてを、もぎたてのまま速く送りたかったということです。「においまで~でしょう。」は松井さんの考えです。お母さんの気持ちと松井さんの気持ちが混ざっているので、それを混同しないように整理したいように感じます。
③のあまりうれしかった。を中心に話し合ったのは、とても良いことだと思います。そこで問題です、松井さんは何がそんなに嬉しかったの?
あまり嬉しくないとか、あまり美味しくないとか、否定的なときに使う言葉だと思っていましたが。