マダムようの映画日記

毎日せっせと映画を見ているので、日記形式で記録していきたいと思います。ネタバレありです。コメントは事前承認が必要です。

善き人

2012-02-07 10:17:08 | 映画ー劇場鑑賞

ー善き人ーGOOD

2008年 イギリス/ドイツ

ヴィセンテ・アモリン監督 ヴィゴ・モーテンセン(ジョン・ハルダー)ジェイソン・アイザックス(モーリス)ジョディ・ウィッテカー(アン)スティーヴン・マッキントッシュ(フレディ)マーク・ストロング(ボウラー)ジェマ・ジョーンズ(ハルダーの妻)アナスタシア・ヒル(ヘレン)

 

【解説】

『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズなどで人気を博すヴィゴ・モーテンセン主演のヒューマン・ドラマ。劇作家CP・テイラーの代表作を基に、ナチス政権下のドイツで葛藤(かっとう)する大学教授の日々を描く。監督は、『Oi ビシクレッタ』のヴィセンテ・アモリン。『ハリー・ポッター』シリーズのジェイソン・アイザックスや、『ヴィーナス』のジョディ・ウィッテカーらが脇を固める。特殊な国内情勢の中で、苦悩し続ける心優しい主人公の姿に、胸が熱くなる。

 

【あらすじ】

ヒトラーが独裁政権を築いた1930年代のドイツ。ベルリンの大学で学生を教えるジョン(ヴィゴ・モーテンセン)は、病に伏す母親を助け、自分の家庭では家事をこなす献身的な人間。そんなある日、自分が執筆した小説を読んだヒトラーが彼をナチス党に呼び入れることを決める。しかし、過去に戦争を戦い抜いた友人でユダヤ人のモーリス(ジェイソン・アイザックス)のことが頭をよぎり……(シネマトゥデイ)

 

【感想】

この作品は、「サラの鍵」に続けて見ました。

「サラの鍵」は1942年7月からの物語、この「善き人」は1937年から1942年4月までの物語です。

 

前者の舞台はフランスで、後者の舞台はドイツ。

ナチスが台頭して、ユダヤ人に対する迫害が激しくなっていく過程を描いて、フランスとドイツでの微妙な違いなどが感じられて、単独で見るよりも興味深かったと思いました。

 

タイトルの「善き人」(good)というのは、皮肉だと思いました。

主人公のジョン(ヴィゴ・モーテンセン)は、いたって小心者の、俗人です。

大学で文学を教え、家では、年老いた口うるさい母の面倒を見ながら、家事や育児をこなしていました。

妻は、ピアノばかりを弾いていて、夫にも家庭にも興味がないようでした。

 

妻の父親はナチス党の党員で、ジョンにも入党を薦めていましたが、ジョンは入党は拒んでいました。

 

ジョンは若い時に戦争に参加していて、戦友のモーリス(ジェイソン・アイザックス)がいました。

モーリスは精神分析医ですが、ユダヤ人でした。

 

モーリス(左)とジョン

 

ある日、党からジョンに出頭命令が出ました。

びくびくして出頭すると、ジョンの書いた小説をヒトラー総帥が気に入ったので、論文を書けという。

その小説とは、愛する人の安楽死を容認すると言う内容でした。

ヒトラーは、知的障害者の安楽死を容認する理論を欲しがっていたようです。

このことに関しては、あまり語られません。

ジョンが、知的障害者の施設を見学するシーンがありますが、その理論がどう使われたかと言うことには触れられませんでした。

 

それより、ジョンの論文はナチス上層部に認められ、ナチスに入党もして、ジョンは党の中で重い役職となっていきます。

ジョンの生活も一変します。

母は施設に入れ、妻とは別れて、教え子だったアン(ジョディ・ウィッテカー)と結婚します。

 

☆ネタバレ

ジョンの生活とはうらはらに、ユダヤ人迫害は激しくなり、モーリスから、国外脱出するための便宜を図って欲しいと言う申し出があった。

でも、ジョンはフランス行きの切符を買うことに失敗する。

 

そのうちに、俗に「水晶の夜」(私の推測です)と呼ばれる事件が起きる。

ユダヤ人の青年が、ドイツの書記官を撃ったのだ。

やっと、モーリスの身が危険だと思い知ったジョンは、フランス行きの切符を手に入れたが、自宅にモーリスの姿はなかった。

 

撃たれた書記官が亡くなると、反ユダヤの暴動が起きた。

ジョンも鎮圧のためにかり出される。

モーリスの身を案じつつ現場に出かけていく。

妻に、「モーリスがきたら、これを渡せ」と言いおいて。

 

現場にモーリスの姿はなかった。

自宅に戻って妻に聞いても、モーリスは来なかったと言った。

 

ナチスの情報部に、ユダヤ人の記録がすぐに取り出せるシステムがあった。

それで、モーリスの行方を調べると、妻が密告したこともわかった。

ジョンは、すぐに収容所に行き、モーリスを探そうとするが、ジョン自身も音楽が聞こえると言う幻聴がひどくなっていた。

 

この幻聴が聞こえるのはいつも決まってマーラーの音楽なのですが、私はこれが、ジョンの良心のなせることなんだと思いました。

そして、このラストシーンは、自分がモーリスに何をしたかを理解したとき、ジョンの精神も普通ではなくなっていたということではないかと考えています。

 

平時には母や妻に押さえ込まれていたジョンが、ナチス党で地位を得たら、母は施設に、妻とは離婚、若い妻を迎えるという変わりっぷりです。

 

しかし、母は孤独で惨めな暮らし、妻は、反対にピアノ教師として自立して生き生きとしている。

戦友であるモーリスは、助けられない。

若い妻からは裏切られる。

という結末でした。

 

ジョンにとって、ナチスとは何だったのか。

「虎の威を借る狐」という言葉が浮かんできました。

自分を見失ってしまったジョンの悲劇の作品だと思いました。

 


サンザシの樹の下で

2012-02-07 08:54:53 | 映画ーDVD

ーサンザシの樹の下でー山[木査]樹之恋/THE LOVE OF THE HAWTHORN TREE

2010年 中国

チャン・イーモウ監督 チョウ・ドンユイ(ジンチュウ)ショーン・ドウ(スン)シー・メイチュアン(ジンチュウの母)リー・シュエチェン(村長)チェン・タイシェン(ルオ先生)スン・ハイイン(スンの父)

 

【解説】

HERO』『初恋のきた道』などで知られる世界の名匠チャン・イーモウが監督を務めた、美しくも切ない純愛ストーリー。中国で300万部を売り上げた華僑作家エイ・ミーのベストセラー小説を基に、文化大革命下の中国に生きる男女の実話をつづる。運命に翻弄(ほんろう)されるヒロインを演じるのは、チャン・イーモウが国内の芸術学校を探し回り、2,500人の中から抜てきした新星チョウ・ドンユィ。本作をきっかけにスター街道を進むドンユイの熱演が見どころだ。

 

【あらすじ】

文化大革命下の中国。都会育ちの女子高生ジンチュウ(チョウ・ドンユイ)は、再教育のために送られた農村でスン(ショーン・ドウ)という青年に出会う。エリートでありながら明るく誠実な彼に惹(ひ)かれるジンチュウだったが、それは身分違いの許されない愛だった。その後、2人は愛を交わし合う関係にまで至るが……(シネマトゥデイ)

 

【感想】

名匠チャン・イーモウと言えば、「初恋のきた道」でチャン・ツイィーに魅了された人は多いのではないでしょうか?

この作品は、「初恋のきた道」を彷彿とさせる純愛物語。

ハンカチを用意しなくっちゃ。

 

1970年代の中国、文化大革命の真っ最中。

都市部で暮す女子高生ジンチュウ(チョウ・ドンユイ)は、農村体験のためにはるばるバスで小さな村にやってきた。

村の入り口にあるサンザシの木。

この木は、抗日戦争のとき、日本兵が中国兵を処刑した場所で、サンザシは普通白い花をつけるが、この木に咲くのは兵士の血を吸った真っ赤な花だと言う。

 

ジンチュウは、村長の家にホームステイすることになり、この家に食事に来る地質調査員スン(ショーン・ドウ)と出会う。

 

二人は淡い恋心を通わせるが、スンに婚約者がいるという噂を聞いて、ジンチュウはスンをさけ、自宅に戻った。

 

☆ネタバレ

ジンチュウの家は母と幼い妹と弟の4人暮らし。

父は思想犯として獄中にいた。

母も、思想教育を受ける身で、一家はとても貧しく、ジンチュウが高校を卒業後、学校に残って働くというのが家族の願いだった。

そのためには、ジンチュウも女学生でありながら、男たちに混じって肉体労働も厭わず働いていた。

 

ときどき村から氷砂糖やサンザシの実などが届くようになった。

スンがジンチュウのことを思って届けてくれていたのだった。

婚約者は実は妹だったということもわかり、二人はときどき会うようになった。

誰も知らない、二人だけの幸せのとき。

ジンチュウの学校への試験採用も決まり、ようやく未来に光が射したかと思われたそのとき、二人のデート中にジンチュウの母親に会ってしまった。

 

母親は「恋愛に反対しているのではない。まだ早すぎるのだ」と二人を説得した。

スンは、理解を示し「いつまでも待つ」といって、二人は無言で別れた。

 

しばらくして、スンが病院に入院したという知らせが届き、ジンチュウは母にも職場にも嘘をついてスンの元へ。

「白血病」と聞いていたのだが、スンは「ただの定期検診」だという。

二人は、看護婦宿舎を借りて一夜を共にする。

そのあとの二人の別れがあまりにせつない。

 

その後スンからの連絡が途絶え、ジンチュウは不安から、スンの愛情まで疑い始める。

ジンチュウは自分が余りにも幼く、恋愛に付いても何も知らないということを、友達の妊娠騒動によって知り、ソンの深い愛情を思い知った。

そして、スンの行方を探し始める。

地質調査の仲間に聞くと「白血病にかかった人はいたが、スンは健康だった」といい、行方は知らなかった。

 

ジンチュウが授業をしていると軍から1台の車が迎えにきた。

連れて行かれたところは病院で、そこには痩せて内出血した痕が全身にあるスンの変わり果てた姿があった。

スンの父が出迎え、「もう長くはない、名前を呼んでやってほしい」と言った。

スンのうつろな目は、天井に貼付けた二人の写真を見ていた。

ジンチュウが呼びかけると、スンの目から一筋の涙がー。

 

文革が終わって、ジンチュウは外国へ留学し、二人の思い出のサンザシの木は、ダムの下に沈んだ。

 

まさに、純愛ストーリーで、とても切ない物語なんだけど、ソンが難病で死んでしまうなんて、チャン・イーモウ作品にしては、単純だなあと言う気持ちがしていました。

 

それで、こんな解釈をしてみました。

 

スンは仕事がら、定期検診を義務づけられていました。

ジンチュウがお見舞いに行ったときは、本当に定期検診だったようです。

でも、「地質調査」ってなんでしょう。

怪しいですよね。

作業員たちも「白血病で亡くなった人もいた」と言っていました。

 

スンは仕事中の事故で、瀕死の重傷になったのには間違いがありません。

かなり急性のものだったと思われます。

身分を回復したスンの父親が、軍を通じてジンチュウを呼びました。

 

ということは、国家の仕事のしていての事故なのでしょう。

死に目に恋人を会わせるという温情も認められたのでしょう。

 

では、スンが謎の死を迎えなければならなかった仕事とは、一体なんなのでしょう。

作品の中ではまったく語られませんでした。

地質調査の装置も布で覆って隠されたままでした。

 

スンの最後の姿も悲惨でした。

あの明眸皓歯の青年が、痩せて横たわっている姿には、観る者もショックを受けました。

でも、スン自身は、こういう結果がいつくるかわからないと、予想していたようでした。

二人が別れるたびに、これで会えないという危機感が漂っていました。

 

以上のことから、私は放射性物質に関係するもの、たとえばウラン鉱の調査かなあ?と思いました。

まったく語られなかった所が、ヒントではないかなあ。

国家機密で、働いている人にもその危険性を教えられてなかったような調査。

そう考えると、二人を引き裂いたのは、まさに国家だったんだと思い、さらに、この作品が奥深いものに思えてきました。

 

貧しさ故に幼くて、あまりにもピュアなジンチュウに惹かれて、自分の人生を全部捧げてもいいと思うほどの愛を示したスンは、自分の短い生涯を予感していたに違いありません。

だからこそ、ジンチュウといる時間を美しいものにしたいと、命を賭けて大切にしたのではないでしょうか。

 

かわいいジンチュウに気持ちを入れて見てしまいましたが、スンの気持ちを考えながら見ると、また違った純愛が見えてくるのかもしれません。

二人の恋愛を通じて垣間見える革命の矛盾や問題点。

監督の意図も、ここにあるような気がしました。