マダムようの映画日記

毎日せっせと映画を見ているので、日記形式で記録していきたいと思います。ネタバレありです。コメントは事前承認が必要です。

沈まぬ太陽

2006-08-12 20:12:42 | 読書
新潮文庫全5巻 山崎豊子著
【解説】
日本を代表する航空会社の凄まじいまでの腐敗。85年の御巣鷹山事故の衝撃を出発点に、その内実を描いたノンフィクション・ノベル。全5巻の大作ながらベストセラーになった。労組活動を「アカ」呼ばわりされ、海外の僻地勤務を命じられた主人公・恩地に、リストラ社会を生きる人々の共感が寄せられたのが一因だろう。だが、もっと重要なのは、だれもが知るあの会社をモデルに実在人物をも特定できる形で汚点を紡いだ「蛮勇」ではないか。たとえ事実と創作の混線ぶりが気になるにしても。「白い巨塔」の財前や「不毛地帯」の壹岐でなく、企業内で黙々と働く恩地が英雄という閉塞時代に、私たちはいる。(藤谷浩二) Amazon.co.jpより

【感想】
この本が出版されてベストセラーになった時、読みたいなあ、と思っていたのですが、延び延びになっていました。
この春頃、ライブドアの堀江さんが拘置所で読んで感動して、保釈後御巣鷹山に慰霊登山をしたという記事を読んで、いよいよ読んでみようと思いました。
折しも今日は、日航機墜落21年目。
今日なら、私にも何か書けることがあるかもしれません。

1985年当時は、すごい事故が起きたと、ニュースを熱心に見ていましたが、幸い身近に被害者もなく、日々記憶が薄れていました。
日航機墜落を書いた本、と言う認識があったので、アフリカから始まる物語はちょっと奇異に感じましたが、そこは山崎さんの筆の力で物語に引き込まれていきました。

圧巻は第三巻も御巣鷹山編です。
ここには、遺族の方が実名で出て来るし、頭の中にあの救出のシーンが映像として浮かぶので、熱い涙があとからあとからこぼれ出て、読み止めることは不可能です。
大事故に遭われた遺族の方はみな同じでしょうが、亡くなった方と一緒に、生きている遺族も死んだと同じです。そこで時が止まってしまうのですから。
「とくダネ」でも特集していましたが、日航の元社員で山を守っている方も、人生が大きく変わった人たちです。
その気高い精神に胸を打たれます。

しかし、事故後も会社の体質は変わることがありません。
後半はさらに醜い陰謀、策略、裏切り、陥れなど卑劣な行為が闇の中で繰り返されて、暗澹たる思いになります。
しかも、主人公の恩地はまたもアフリカに追いやられてしまいます。
救われない結末です。

私は、社会や組織に疎いので、この小説がどこまでが事実で、どこからフィクションか、あるいは、誰をモデルにしたのか、詳しくはわかりません。
でも、この小説が名誉毀損などの告発を受けているとは聞いていないので、ある程度確信のある事実に基づいていると思われます。
そうだとすれば、すごいことがあの事故の裏に隠されていたんだと言うことになります。
何も知らずに、犠牲になられた方の悔しい気持ちはいかばかりでしょう。
残された遺族の思いはいかばかりでしょう。
21年も経ってしまいましたが、その思いは決して消えないと思います。

毎年、お盆を迎える日、せめて犠牲になられた方々のご冥福をお祈りしたいと思います。

そして、小説の冒頭に書かれてあるように、多数の関係者を取材して、事実に基づいて小説的に再構築するという、私からは考えもつかないような手法でこの本を著した、山崎豊子という才能に敬意を表します。