カンボジアの食材 8 魚の漬け物

カンボジアから   金森正臣(2006.1.28.)

カンボジアの食材 8 魚の漬け物

写真:左手前の列の赤と緑のタライは、ダイコンの漬け物。右側手前の列の黒とピンクのタライは、プオー(プはほとんど聞き取れないので、オーと聞こえる)、中央のピンクのタライで緑のしゃもじの入っているのは、小海老の塩漬けのペースト、その奧の緑のタライにピンクのしゃもじが、小エビの塩漬け。奧の4つのタライに、魚の姿は見えないがペースト状になって山盛りされているのがプラホック。

 東南アジアの食の特徴は、調味料の魚醤にある。カンボジアでも、魚醤作りは盛んで、醤油であるトックトレイとその元の魚プラホックが沢山使われている。主に調味料として使われるが、プオーなどでは、魚主体の料理にもされる。この他にも魚の漬け物として、マントレイと呼ばれる発酵食品がある。

 日本での発酵食品は、植物が主体であり、一部で動物質の魚醤や塩辛などがある。アミの塩辛やイカの塩辛、カツオの塩辛類などは、自己の中の酵素によってタンパク分子の鎖が短くなり、旨味物質に変えられている。長時間を掛けている物には、琵琶湖のフナ寿司、越前から北陸へかけてのヒシコ(ヘシコ)、カブラ寿司など様々な物が発達している。スルメや鰹節も、作られている過程で自己分解が進み旨味成分が増加する。千葉県の九十九里浜のイワシの魚醤、秋田のハタハタの塩漬けショッツル、アミの塩辛などは昔から調味料として、重要な位置を占めていた。
 日本の発酵食品の主流は、味噌、醤油、酒、納豆、タクワンや野沢菜、タカナ等、京都の柴漬けなど植物質の発酵である。発酵食品の裾野は広く、まだ全体が理解できていないが、古代から旨いものを食いたいと思った人たちが居て、様々な工夫がなされてきたことは確かである。このために日本では漬け物専用種も幾つか作出された。例えば愛知県の守口ダイコン、長野のイネコキナ、京都の聖護院ダイコン(千枚漬け)などがそれに当たる。

 そもそも発酵させるためには、容器が必要で有り、容器の発達以降の物である。アフリカでは、容器の発達が遅く、発酵食品の種類が少ない。また生活の余裕も関係する。毎日の食をやっと得る時代には、発酵食品は発達しない。ポンベと呼ばれるバナナや蜂蜜の酒があるが、これらは竹の筒などを利用していたものと思われる。瓶が作れられる様になって、トウジンビエなどから作られる酒やトウモロコシの酒も造られる様になったのであろうと思われる。

 東南アジアでの発酵食品は、動物質に特徴がある。ベトナムでは、海の魚を使った魚醤が発達しているが、カンボジアでは、淡水の魚を使っている。

プラホック:かなり長い間塩漬けされていて新鮮ではない。材料は小さい魚と塩。これから魚醤トックトレイが搾られる。まあ秋田のショッツルの様なものだが、発酵の程度はかなり進んでいる。これは原液が沢山タイに輸出されていて、タイではナンプラーと呼ばれている。日本でも最近見かけるが、臭いを取ってあり、かなり別物に近い。ベトナムでは、ニョクマムと言われる魚醤があるが、主体は海産の魚である。もともと魚醤は、塩と魚が多量に手に入った、ベトナム当たりで発達したニョクマムが起源ではないかと私は考えている。現在でも、カンボジアの川や湖で漁労に携わっている人々には、ベトナム人が多い。主に船上生活者で、陸上には生活しない人達の村が各所にある。
 カンボジアには、大きな湖トンレサップ湖がある。この湖は、メコン川が増水すると流れが逆流して、3倍にも面積が拡大する。乾期の通常(年によって著しく異なる)3000㎢から雨期の通常は10000㎢以上になる。まるでお盆の様に浅い湖で、湖の出口であるメコンの合流点から200km以上上流で、底の高低差は僅かに1m程度である。従ってメコンの水が20倍にも増水すると、逆流が起こる。5月の終わり頃から逆流が始まり、10月の始めまで続く。その後は、次第にメコンの水位が下がり、トンレサップから水が流れ出す様になる。因みに、琵琶湖は約670㎢で、トンレサップは小さい時でも5倍程度の大きさがある。
 この水位の変動と湖の拡大縮小は、丁度日本の溜め池で毎年池干しをして、生産性を高めるがごとき効果があり、魚類の増殖と成長を助けている。このため、トンレサップ湖の漁獲量は大きく、10万トン以上も有ると言われている。これが魚醤の源である。
 愛知県辺りの溜め池では、毎年秋祭りの前に「池揉み」と言われる、魚取り行事が存在した。これは単に祭りのご馳走を得るためだけではなく、底のヘドロを乾かし、酸欠を防ぐための方法でもあった。次ぎに水を入れた時に、ヘドロの養分が分解されやすく、植物プランクトンの発生、動物プランクトンとエネルギーが転送され、魚類の生産性が高まる仕組みであった。現在では、ほとんど池揉みが行われないため、溜め池の底にはヘドロが溜まり、酸欠が起きて魚は住みにくくなっている。
 プラホックの調理法としては、直接生で食べることは少なく、ペースト状にした物を卵焼きにする。或いは、豚肉のミンチと混ぜて卵を入れて蒸す。これらを生野菜に載せて食べる。かなり一般的な食べ物で、クメール飯屋であれば、ほとんどのところで食べられる。
 プラホックを作っているのは、貧しい漁師達である。彼らの日常の食事では、ご飯の上に、魚醤の絞りかすの魚を、調理もしないまま載せて食べていると聞いたことがある。先日の「カンボジアの子ども達4小さな時から働く(2006.1.13.)」もこの様な一家である。

プオー:写真でお分かりの様に、大きな魚を2枚おろしにして漬ける。塩とイーストを使って漬け、数日から1週間程度で食べられる様になる。新鮮な魚の漬け物で、調味料と言うよりも魚自身が主体になる。薄切りにして野菜と混ぜ、サラダの様に食べたりする。

マン:マントレイとも呼ばれる。プオーと同じように大きな魚の2枚おろしを漬ける。砂糖・ある種のジンジャー・ご飯の潰したもの・酵母菌・塩を使う。こちらの方が発酵が進んでいる。酵母菌を使うせいか、漬ける時間が長いかは不明である。ご飯の潰した物と酵母菌であるから、甘酒に漬ける様な物であろう。ある種のジンジャーと説明されたが、ウコンかも知れない。調理の時には、この魚を薄くした後細切れにして、ニンニクやショウガ、タマネギなどと混ぜる。これを生のまま、生野菜に付けて食べる。青バナナの薄切り、ニンジン、キャベツ、青トマト、長いササゲマメ、セリ、それにカンボジアの数種の香草が添えられる。かなり癖があり塩辛いが、ビールや酒の摘みには最適である。

 プオーやマンには、通常レストランではあまりお目にかかれない。家庭に招待されると、お目にかかれることがある。以前に、「クメールの食事1塩辛い惣菜(2005.12.16)」に書いたものは、このプオーの端を焼いたものだった様であることが最近判明した。思い出しても塩辛い。
 これらの魚の漬け物は、全て作るたびに味が違う様であるし、家庭によっても異なる。漬け物は思う様にはコントロールできない物だ。

 魚の漬け物ではないが、小エビの漬け物をペースト状にした物も、調味料として良く使われる。スープにちょっと入れたり、野菜と魚、或いは野菜と牛肉のサラダ、青マンゴーサラダ、青パパイヤーサラダなどには、隠し味として入っている。味が複雑になりぐんと深まる感じで、なかなか工夫されている。
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