産業技術総合研究所(産総研)ナノ材料研究部門電子顕微鏡グループ 千賀 亮典 主任研究員と同研究部門 末永 和知 首席研究員、ウィーン大学、ローマ・ラ・サピエンツァ大学、日本電子の森下 茂幸 博士は、新しく開発した電子顕微鏡を用いて、従来よりも2桁以上向上した空間分解能で、物質の最も基本的な性質の一つである原子の振動(格子振動)を波として計測する手法を開発した。
その結果、1原子の厚みしかないグラフェン1枚の格子振動を初めて計測できた。
格子振動は、熱伝導、電気伝導、光学的特性といった材料の性質に深く関わっているため、ナノ材料のデバイス応用を考えるうえで詳細な理解が必要不可欠である。しかしながら、従来手法ではバルクの試料から平均的な信号を得ることしかできず、測定できる試料にも限りがあった。
今回開発した技術は、原子を構成する原子核と電子の位置が原子の振動によってわずかにずれることを利用して、格子振動のエネルギーと運動量を計測する方法である。この手法を用いることで、原理的にはすべての材料の格子振動を10 nmの局所領域から計測できる。
これにより、これまで理論計算が先行していたさまざまなナノ材料の格子振動を直接計測することができるため、材料科学の発展に大きく貢献できる。また、工学的には格子振動が直接性能に影響を与える熱電素子や光電子デバイス、超電導体などの研究開発への貢献が期待される。
今回開発した手法を用いて、超電導など格子振動が影響するとされるさまざまな未解決の物理現象のメカニズム解明を目指す。また、格子振動によるエネルギー損失を最小限に抑えた高効率な熱電素子や光電子デバイス用材料の開発に貢献できるように、空間分解能やエネルギー分解能をさらに向上させ、幅広い材料の格子振動と物性の関係を明らかにしてゆく。