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日々是好日17

2010年12月19日 | Weblog
世界の名詩

 今年1月、本稿で日本の名詩をいくつか紹介した。その種本の姉妹本に「世界の名詩」がある。昭和42年に金園社から編者榊原正彦氏で出たもので、勿論出版社も編者も装丁も定価350円も「日本の名詩」と同じである。ただ、外国の詩には必ず訳者が必要で、訳者の巧拙でも作品の魅力は変わってくるであろうから、そこが日本の詩を味わうのとは趣が異なる。音楽における作曲者と演奏家の関係以上のものがあろう。

 その訳者群を見ていて凄いと思ったのは、訳者のおひとり上田敏氏*17)には、イギリスの詩は勿論、フランス、ドイツ、ロシア、ギリシャ、イタリア、インドの詩までの訳詩があることである。詩心があってあらゆる外国語に精通されていたのであろう。しかも本詩集に掲載された163篇の詩の、直訳で済む中国の漢詩を除く116篇のうち実に38作品が上田敏氏の訳によるものである。いかに優れた翻訳詩人であったかが分かる。しかし氏は大正5年41歳の若さで病死されている。まさに短期間での偉業であり、美人薄命ならぬ子規などにも通じる才子薄命であるけれど、彼もまた日本の明治という時代に、坂の上の雲を目指した一人であったのではないか。

 上田敏氏の代表作のひとつでもあり、私の高校の国語の教科書にも載っていたハイネの詩を掲載する。

 「花のをとめ」
 妙に清らの、あゝ、わが児よ、
 つくづくみれば、そぞろ、あはれ、
 かしらや撫でて、花の身の
 いつまでも、かくは清らなれと、
 いつまでも、かくは妙にあれと、
 いのらまし、花のわがめぐしご。
         -上田敏全訳詩集-

 この詩にはハイネの多くの詩がそうであるように、作曲家によって作曲された楽譜が付いて広く愛唱されている。-榊原正彦編「世界の名詩」-

 上田敏氏には、イタリアの女流詩人アダ・ネグリ*18)の「母」という訳詩もある。『この詩は作者が、おそらくは、自己の体験をとおして、人の子の「母」としての愛と喜びと苦しみと恐れと、そして、その希いとを美しい言葉でうたいあげたもの。・・・後半には、地上の男子すべてに、その切なる願いを訴えている。その願いとは、「地上のすべての男子たちよ。よくおききなさい。-あなたがたは、どうして、たがいに剣をとぎ、戦いあおうとするのですか。-よくおききなさい。おききなさい。人はみな兄弟なのです。・・・」』 -榊原正彦編「世界の名詩」-

 凶悪犯罪は絶えず、行き過ぎた折檻でわが子を死に至らしめる親、親を殺す子もいる。世界には未だ国家・地域間の紛争があり、いたずらな中国の軍拡もある。美しい文学は人の心を清新にする。「このような詩がもっと多くの人に読まれるようにすべきだ」と、編者の榊原氏も述べている。






*17)(1874-1916)東京生まれ、東京帝国大学英文科卒、欧州留学後京都帝国大学教授、慶応義塾大学顧問歴任。カール・ブッセ(独)の訳詩「山のあなた」は特に有名。
*18)(1870-1945)イタリアの女流作家、詩人。「母」は1904年に出版された作者の第三詩集「母ごころ」の中の1篇で、日本ではその5年後(明治42年)に訳詩が紹介された。ロンバルジア小都会に生まれ、小学校の教師をしながら詩を書いた。-榊原正彦編「世界の名詩」-
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