中小企業診断士 泉台経営コンサルタント事務所 ブログ

経営のこと、政治のこと、社会のこと、趣味のこと、人生のこと

経営を診る第20回

2015年10月28日 | ブログ
経営がおかしくなる原因20

 経営がうまくゆかなくなる要因はいくつも考えられるが、SWOT分析に倣い内部要因と外部要因に分けて整理してみる。まず、外部要因。

 ①景気の悪化による市場の縮小(販売量の低下)が考えられる。「不景気でどうにもなりません。」というもの。仕方ないで諦めるか、手立てはないかと考えるかで結果はだいぶん違ってくる。しかしながら麻雀ではないが、悪あがきをした挙句、大きく振り込むことになっては大変ではある。ツキが無い時はひたすら我慢の手もないわけではない。

 ②規制緩和、規制強化。これは政府の施策の影響が吉と出るか凶と出るか。凶と出た場合に危ない。関連して③業界内競争の激化(規制緩和による新規参入企業の増加、価格競争激化など)、④人件費の高騰も外部要因のひとつではある。

 ⑤取引先の倒産、⑥取引先の業務縮小、⑦取引先からの契約解消なども経営悪化の大きな原因に成り得ることだ。

 また、⑧取扱い製品や商品の陳腐化も考えられる。これは朝起きたらこうなっていた的現象ではなく、兆候はだいぶん前からある筈で、早目の対策が必要である。自動車など今後ガソリンエンジンの需要は激減するように思うのだけれど、関連部品メーカーの備えは大丈夫だろうか。もっとも高度な技術は必ず応用分野や転用先がある筈で、その準備が必要である。

 ⑨自然災害、⑩風評被害なども外部要因。福島県の農作物や水産物、水産加工業はじめ大きな被害を受けたことは誰の目にも明らかである。

 次に内部要因では、まず⑪経営上の問題を上げたい。確かな経営目標がない(行きあたりばったりの経営)、承継の失敗、人材の確保ができない、経営システムの陳腐化、逆に、分不相応の経営システムの導入、人事制度(労務管理)の不備で従業員の不満の増大などが考えられる。

 これも経営上の問題の範疇ではあるが、⑫投資の失敗もその投資額によっては企業経営へのダメージが大きい。こちらも投資関連だが、⑬関連会社の業績低下での穴埋め費用の増大もある。本体企業を揺るがす子会社や事業からの撤退も大切な企業戦略である。整理すべきは切り捨てる必要がある。⑭業務上のトラブル。取引上の金銭の貸し借りや、知的財産権の抗争、クレーム対応の失敗なども経営を破綻に追い込む恐れがある。関連して⑮銀行との関係悪化によって融資を止められること。⑯経営層の内部抗争などもある。

 社員の士気や能力の問題も経営の浮沈に影響が大きい。⑰営業力の低下、⑱技術・技能継承の失敗による品質確保ができていない。⑲従業員の無気力からくるサービス低下による信用の失墜など。

 最後に⑳経営者の問題。過分な報酬、公私混同、私生活の乱れ、従業員とのコミュニケーション不足、社外利害関係者とのコミュニケーション不足、経営センスの欠如、熱意の不足、病弱、老害(時代に適応できない)などがあるように思う。企業は公的な要素が大きい。すべての株式を保有する町の経営者であろうが、大きな利益を計上し続け、大会社に君臨する大社長であっても、公私混同ほどみっともないものはない。


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経営を診る第19回

2015年10月25日 | ブログ
セールス

 昔、当時の池田勇人首相がヨーロッパを歴訪し、フランスのドゴール大統領と対談したが、会談後、ドゴール大統領が「日本からトランジスタラジオのセールスマンが来た」というようなコメントを発したと聞き覚えている。池田首相は外遊後、わが国が戦後武装解除され、原子爆弾はおろか軍事力を持たないため、国際社会で相手にされないと悔しがっておられたという話も聞いたと記憶する。

 その後もわが国は冷戦下日米同盟で軍事を米国に依存しながら経済発展に努め、世界有数の経済大国になったことで、軍事力は低いものの、世界の中で一定の評価を得るようになった。最近ではわが国の食文化が大いに評価され、5月から食をテーマにイタリアのミラノで開催されているという世界万博では、日本館が大人気で行列が絶えないそうだ。並ぶことをいやがるイタリア人が長い時は8時間も入館の列に並んだという。

 2020年に2000万人を目標とした観光大国化構想は、近隣諸国民の所得向上、アニメやゲームの人気、インターネットの普及、ビザの緩和や円安等の諸条件も整い、9月末時点で昨年の実績数(1,341万人)を上回り、今年2015年で達成しそうな勢いである。

 その中でも中国の人たちの爆買が話題になるけれど、これなどは日本製品に対する高品質と安心安全への信頼感の賜物で、戦後一貫して日本企業が続けてきた品質経営の成果でもある。

 60年代池田首相が行ったトップセールスは今では常識で、安倍首相なども「バイ・マイ・アベノミクス」と日本製品を買って下さいどころか、わが国への投資を大々的に呼びかけているのだ。

 現代の首脳会談では、経済人を同行させることも多い。中国など、当面軍事力で適わない米国のその議会を籠絡するための方策として、米国製品(特に航空機300機の購入)の購入を手土産にする外交を展開した。英国訪問でも大型投資を持ちかける経済外交の一方、70年前の戦争を持ち出し、わが国を誹謗するイメージ戦略で、今後の人民解放軍の日本の領土領海への侵攻を正当化させようとしているかのごとくである。

 企業のトップセールスも重要である。小規模企業においては、元々日頃から社長が営業で飛び歩いてことは珍しくないであろうが、闇雲な売り込みだけでは成果は薄かろう。特にB to B(企業間取引)では売り込み先企業の状況を調査し、Win-Winの関係が構築できるような提案を持ちかけることが重要である。そのためには自社の技術力を磨き、取引先企業の要望を品質・価格両面で実現しなくてはならない。

 B to Cにあっては常に消費者が何を求めているのかという、消費者マインドの把握に努め、冷え込んでいる(不況)時にさえ、購買意欲を駆り立てる方策を自身で編み出してゆく必要がある。「どうすれば売れるか」的な話を聴くことも必要なのだけれど、所詮過去の成功話の類型に留まる。勿論成功モデルの真似から始まるところもあるけれど、製品開発と同様自社のセールスポイントにも独自性こそが成功の鍵なのである。


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経営を診る第18回

2015年10月22日 | ブログ
下町ロケット

 TBSの日曜劇場に「下町ロケット」が登場した。池井戸潤氏の第145回直木賞受賞作品のテレビドラマ化である。

 ここではまず、元々研究開発技術者であった経営者の夢と、資金繰りなど企業経営の現実との葛藤が描かれる。そして、知的財産権の問題。開発力を持った中小企業であってもその知的財産の管理は弱点であることが多いようだ。もっとも大企業にあっても、海外企業との知的財産に関する紛争において後れを取ることは多い。中国、韓国、米国など、ドラマの中のセリフではないが、「人間の行動は倫理観と法律によって規制されるが、企業に倫理観は不要だ。法律にさえ適合すれば何でも出来る。」的な処世訓を多く持った国家、企業とのグローバル競争においては、日本人のナイーブさは裏目に出る。

 知的財産管理はさておき、少しデータが古いが、2009年の中小企業白書による研究開発と企業業績の関係を診ると、中小企業においても研究開発費が売上高に占める割合が高い企業ほど、営業利益率も高い傾向にある。また当該白書には、『97年から06年の間の景気後退局面においては中小企業の売上高経常利益率は低下し、それと連動して設備投資額の売上高に占める割合も低下している。しかし、中小企業における研究開発費の売上高に占める割合は、その景気循環の中でも、一定水準(0.6-0.7%)で推移しているのである。すなわち「景気後退局面で厳しい経済環境にあるものの、中小企業は研究開発活動を重視し、研究開発活動に継続的に取り組んでいる可能性を示唆している」』と述べている。

 もう半世紀も前のことだけれど、工業高校を卒業して石油化学専業企業に就職し、最初の三交代の製造現場での話し。地元採用の先輩の中に、工場と同じ地区にあった総合研究所を指して、「あんなものは要らない。我々の稼ぎを食いつぶすだけだ」。また他地方から就職していたわれわれに対しても、「寮や社宅は経費が掛る。地元採用者だけで十分工場は運営できる」。と本気度は兎も角言っていた人が居た。ドラマ「下町ロケット」でも会社が傾きかけると営業担当者などを筆頭に研究開発に否定的な発言が大きくなる。

 ドラマに描かれた企業のように、倒産の危機に瀕した状態での内部軋轢は仕方がないけれど、先を見ていないと言うか、常に近視眼的な人間には経営は分からない。

 国家経営でも同じだ。安保法制反対とラップに乗って「戦争反対」を訴える輩は仕方がないが、それに呼応して喜んでいる大きな政党の幹部連中には、二度とこの国の経営を任せてはならない。原発反対もそうだ。辺野古反対、大阪都構想反対。何でも反対は前進・変化、建設を否定し、単なる無責任で楽でいいかもしれないが、本気で国民がそれに乗れば22世紀を待たずにこの国は消滅するであろう。

 池井戸氏のドラマには常に痛烈な銀行批判がある。驕る者は久しからず。野党も銀行も変わらねば、時代の変化の中でその中に巣くう人々と共にいずれ淘汰されるでああろう。

 継続企業の条件として研究開発は必須のものであろう。それが時代の変化を作り時代を超えて生き延びていける条件となるのである。



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経営を診る第17回

2015年10月19日 | ブログ
コストダウン

 「コストダウン活動には2類型あって、両者を混同してはいけません」。と、ものの本に書いてあるけれど、なぜ混同するといけないのか。分けて考えることは問題解決などでは必須のことだけれど、「何のために」「どうように分ける」のかなど基準をはっきりしておかないと、実際の改善行動に繋がり難い。

 コストダウンの2類型の一つ目はコストダウン(コスト低減)とコストカッティング(コスト切り詰め)の違い。何でもかんでもコストを落すことに囚われると、肝心の製品品質を悪くしたり、従業員の賃金カットなどで現場の不満を増幅させることになったりする。これらは悪いコストダウン。納入業者への買いたたき(適正価格までの引き下げ要求は買いたたきとは言わない)などもこの類で、「力」を背景にしたコストダウンは良い結果を生まないことが多いと心得る必要がある。

 2つ目は、コストリダクション(原価低減)とコストキーピングまたはコストコントロール(原価維持)と呼ばれる2類型。これらはIE(Industrial Engineering経営工学、生産工学)からの改善手法であり、コストリダクションは一般にやり方の改善であり、コストキーピングは無駄の撲滅ともいえる。

 しかし、原価維持の「維持」と聞くと、ダウンさせていないではないかという疑問が湧く。ここら辺りが、テーラーの科学的管理法に始まるIEの考え方で、設計段階で目論んだ標準コストをベースとしており、通常現場では、直ぐには標準コストにできないため、その差異を埋める活動(無駄取り)がすなわち原価維持であり、コストダウン活動となると解釈できる。

 その考え方からして、コストキーピングやコストコントロールは現場(工場)の役割であり、原価低減は経営者サイドで考えるものとなる。だからまず、原価の標準コストを現場に達成させ、次にその設計そのものの見直しや仕事のやり方を変えることでコストを低減しゆくという、あくまでトップダウンの考え方。ボトムアップを長らく中心に考えてきた日本的品質管理の考え方とは微妙に異なるのだけれど、そのことに考慮せず書かれたコストダウン啓発書があるとすれば、その混同にも疑問が残る。

 私見を述べれば、コストダウンの類型を次のように、別の角度から切り取って考える方が実践向きであるように思う。①作業の効率化(作業工数と工程毎の作業時間、労働時間の短縮)。②エネルギー(含、用役)コストの低減。③消耗品の管理。④購入管理(含、外注管理)。⑤歩留まり向上。⑥在庫削減。中小、特に小規模企業の場合、これらのひとつひとつを経営者は現場任せだけにせず、自らが指示してデータを取り、しっかりとした現状把握から始めることで、正しく、効果の大きいコストダウンが達成できるのである。

 もっとも、ものづくり製品のコストは設計によって決まる。品質を前提とした、材料削減、共通部品、部品点数の削減やその購入単価の引き下げなどなど、(販売価格-利益)でコストを考える許容原価主義の徹底が望まれるのは前提である。
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経営を診る第16回

2015年10月16日 | ブログ
組織風土

 風土と聞くと風土病を連想する。アフリカなどの熱帯地方には多くの風土病があり、産業も無く貧しい国の人々を苦しめてきた。シュバイツアー博士は赤道直下の国で、当地の住民への医療などに生涯を捧げたことで知られるけれど、日本人でも野口英世博士、北里柴三郎博士などが風土病の研究者として世界的に著名である。そしてこの度大村智先生のノーベル生理学・医学賞の受賞は、多くの人々に感動と改めて日本人である誇りを与えた。

 『受賞業績であるオンコセルカ症(河川盲目症)は、ブユが媒介する寄生虫病であり、網膜に入り込んでしまうと多くが失明してしまう。大村先生は、この抗生物質の元になる化学物質を、静岡県川奈のゴルフ場近くの土壌から発見したバクテリアから抽出した。

 細菌が身を守るために産生する化学物質の中には、人間に有用なものが少なくない。こうした化学物質を薬剤として開発したものが抗生物質であり、大村先生が発見して開発した薬剤も抗生物質である。開発する際には、アメリカのメジャーな製薬企業のメルク社と共同で行った。』とYOMIURI ONLINE(10月9日)にある。

 風土病は細菌によって起こるが、人類にとって有益な細菌によって駆逐することができるのだ。組織風土はそこに集う人によって醸しだされる。どのような風土であるかを表現することは難しいけれど、企業にあってもその風土がどうも良くないと言う場合は、風土病のように企業組織の中に悪い細菌(バイ菌)のような者が居るからである。これを良い細菌で潰さねばならない。間違っても人材の多様化などと混同しないことである。

 得てして大して能力のない人に限って上に立ちたがることがある。特に報酬があるわけではないので、やりたがらない役職であれば、手を上げてくれたことを幸いにお任せすることになる場合が多いが、組織風土は一遍に悪くなったりする。

 これが企業の中でさえ変に権限を持って幅を利かすことがある。トップリーダーに力が無い場合、人事担当重役とかにこのような人材がへばり付くとやっかいだ。人事制度などその好悪の結果にタイムラグがあるから問題が大きいのである。採用や昇進昇格に適性を欠き、じわじわと組織を蝕んでゆく。

 現場にあってもなまじ仕事が出来ることで、重宝がられているうちバイ菌であることが顕在化する輩が居る。職場の雰囲気がどうもおかしいと普通の人は感じるけれど、悪い雰囲気を好む人もいる。そのことで楽に稼げる。能力がなくても権限を持ったバイ菌マンに同調しておれば立ち位置が確保される。

 事なかれ主義の人の多い職場では、中々除菌は困難で、世間に不祥事となって問題視されるまで続くことさえ大企業にはあるではないか。

 組織風土はそのトップの価値観によって決まる。トップが何を好み、何に価値を感じるか。どのような人間を好ましいと感じ、誰を登用するか。登用される人物を周囲は見ている。羨望も嫉妬もあるかもしれないが、そのような人物に自分を変えて行こうとする無意識の行動がある。だからこそ人事は重要なのである。そこに良い風土も悪い風土も醸成される。


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経営を診る第15回

2015年10月13日 | ブログ
選択と集中

 資源の少ない中小企業の場合、当然に得意分野に資金や人材を集中して投入する必要がある。しかし最初は狭い領域で地道に業績を上げていたものが、上手くいったことで能力以上に事業を拡大し、挙句行き詰まって企業再生となった場合に、再びこの選択と集中が必要になる。残せる事業だけを残し(選択)、他は切り捨てて当面残した事業に集中する。すなわち結局基本というか元に返って出直しという形になる。

 中小企業の創業者が何を生業にしようかと考える場合、一般的には自分の持っている固有技術・技能を活かせる業種か好きな業種を考える。好きなことであれば技能は後からついて来る。すなわち生息領域(ドメイン)を自分中心に考える。一方現在市場で一番求められているものは何かを考えて起業することも考えられる。前者は一般的に余り資金力に自信がない場合で、後者は結構資金力がある場合と考えられる。資金さえあれば、その業種に必要な人材や技術を集めてくることも可能だからである。これなど典型的なオポチュニティ-企業(本稿「経営を診る第13回SWOT」)である。

 もっとも起業の動機はどちらでもいいのだけれど、前者の場合、自分でいくらいいものを提供していると考えても、市場がそれを受け入れてくれるかどうかは全くの未知数である。一方現在の市場から出発した企業であれば、その品質に問題がなければ、売れる可能性はある。

 オポチュニティ-企業、クオリティー企業の話しと同じく、これも一橋大学の楠木教授だったと思うけれど、その戦略本に、巨人軍や大リーグのヤンキースなどで活躍した松井秀樹選手の成功要因として、彼が数あるスポーツの中で「野球」を選んだことを上げ、もし彼が卓球を選んでいたら、(世界的な選手となったとしても)野球で得たほどの名声や富は得られなかったであろうと書いていた。

 ただ、富や名声がついてまわる競技や職業は競争が激しく、母数が大きいだけに成功確率は小さくなる。事業として何を選ぶのかがまず重要であり、そこに経営資源を集中的に投入して長期的な利益を生み出せる仕組みを確固なものにしてゆく。しかし、「何屋である」かに集中し徹底するあまり、時代の流れを見忘れてはならない。米国でのモータリゼーションの到来で時代遅れとなった鉄道事業やテレビの普及で一時期衰退した映画産業の例をあげるまでもなく、事業を単なる「何屋」としてみるのではなく、そのドメインと捉えることも必要である。

 ラジオやテレビ、特にテレビの普及でニュースソースとしての新聞の需要は低迷するだろうとか、ITの発達で紙は使われなくなるのではないかとか言われた時期もあったけれど、杞憂に過ぎた。変わるものと変わらぬもの。時代が変わってもいいものは残る。残さねばならない自社技術を使った研究開発、製品(商品)開発力が経営には重要であり、そこに経営資源を集中する必要がある。
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経営を診る第14回

2015年10月10日 | ブログ
3Cと7S

 前回、SWOT分析について述べた。実はSWOT分析の精度を上げるために周辺外部環境分析としての3C分析と、同様に自社の内部資源分析として7S分析がある。

 3C分析とは、市場・顧客(Customer)、競合(Competitor)及び自社(Company)の3つのCの視点から、事業環境を読みとり、戦略立案につなげてゆく方法である。一方7S(McKinsey 7S framework)分析とは、戦略(Strategy)、組織構造(Structure)、社内システム(System)、スキル(Skill)、人材(Staff)、スタイル・社風(Style)及び価値観・共有価値(Shared Value)の7つ要素をバランスよく備えることで企業の競争優位を確立しようというものである。

 3C分析は、事業環境の全体像を3つの視点からバランスよく診ないと戦略に重大な欠陥を生む懸念があるために必要とされる。競合を意識するあまり、顧客の変化を見逃したり、市場と自社の経営資源だけに囚われると競合が見えなくなる。また自社の体質というものを考えずに新しい事業に乗り出すのも危険なのである。

 しかし、ただ「3C」という言葉だけを知って分かったつもりでいても仕方がない。「自社」をどう診るのか。「市場・顧客」は、「競合」をどのように診るのかが問われる。さらに、ただ診ただけでは企業経営にはならない。それに対応する方策が生まれてこその分析なのである。

 まず自社を診る。経営資源には、販売力・生産力、その源である設備などの資産もある。加えて技術力・開発力、ブランド力(企業イメージ)、シェアなどの評価がある。そして経営資源はその市場からの調達の難易度によって分けて考える。土地や建物や機械設備などはお金があれば買える。未熟練労働者の雇用も可能であろう。しかし、独自の技術力やノウハウ、熟練技能、顧客ロイヤルティや従業員のやる気やモラル、良好な組織風土はどうか。簡単にお金では手に入らない。これらこそ当該企業の中核能力(コアコンピタンス)であり、SWOTでいう「強み」なのである。

 市場を診る目も重要である。品質保証体系図などでは、スタートラインに市場調査がくる。そこから製品や商品開発が始まり、生産・販売につながってゆくのである。市場規模はどの程度で、成長性はあるのか。顧客のニーズ、購買目的などにも目を向けていなければならない。グローバル競争において、新興国などへの売り込みには、その国の歴史・文化・風習なども考慮しながら適応を図らねばならないことを考えれば理解は容易であろう。

 競合をどう診るのか。すでにどの程度のシェアを競合が占め、参入障壁はどうか。価格設定はどうなっているか。競合企業の強みや弱みはどうか。競合製品を購入して分解しビス一本まで調べるなどは当然で、インスタントラーメンなどでさえ、徹底した競合製品の身体検査を行うことは知られている。

 7Sでは、「組織構造は戦略に従う」(チャンドラー)とか「戦略は組織に従う」(アンゾフ)と聞くように、戦略と組織構造は一体のものと考える。要はその戦略を実行するにその組織は適したものかが問われるのである。社内システムという仕事のやり方進め方も戦略に即したものである必要があろう。ではあるが、戦略を抜きにしても社内システムはシンプルなものが好ましい。「一度御社の業務フローを図にしてみて下さい」とは企業訪問でよく口にする言葉だけれど、「品質保証体系図を作ってください」。ということ。

 残り4つの「S」は先の3つの「S」が「ハードのS」であるのに対して「ソフトのS」。戦略を上手く運ぶために、自社の持つスキルのうち何を重視すべきかである。人材は常に最も大切であろうが、折角の人材も使われ方によっては死んでしまう。プロジェクトリーダーなどは、プロジェクトの内容や期間によって相応しい人材は変わってくるであろう。そして、戦略はやはり自社の伝統や企業風土に沿ったものであることが望ましい。

 などなど、これらはSWOT分析と共に企業を内部から診る場合も、コンサルタントが外部から診る場合にもその視点のあり方として企業経営の定石と言えるものなのである。



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経営を診る第13回

2015年10月07日 | ブログ
SWOT

 本来企業経営を診る最初の分析はこの「SWOT分析」から始まることが多い。ただ、何のための分析かということをしっかり認識して取り組まないと、手段が目的化する。試験の解答を作るわけではないので、SWOT分析を行うことが目的ではなく、その結果から、当該企業の今後の方向性を探ることが重要である。

 自社が他の企業よりも誇れる独自の経営資源や能力(中核能力:コアコンピタンス)を確認し、自社にとって好都合の環境、すなわちチャンスに活かすことができる方針を打ち出すのである。

 また、自社の弱みと考えていたことが、実は強みに変わることもある。悲観ばかりする必要はないのだ。あるセミナーで聞いた話ではあるが、あるレトルト食品製造会社は設備が旧式で、顧客の大量供給の要求に応えられないことを弱みと考えていた。しかし、そのことを逆手に取って、レトルト製品の試作供給に特化した。名付けて「試作特急サービス」。100個程度から作って貰えて、しかも納期が早いとあって、中小の食品会社から重宝されるようになった。農業者からも農産品をレトルトする試み、レトルトクリエーションのために引き合いがあるという。

 外部環境分析による、脅威などというものも、その脅威の実態をしっかりと把握すること。どんなに強力に見える敵にも案外弱みはある。脅威と思えたものの中に機会があるかもしれない。「幽霊の正体見たり枯尾花」で、恐怖が先に立つと兎角何でもないことを恐れてしまう。疑心暗鬼となる。所詮自社は小規模企業だと開き直れば、活路は見えてくることもあるのではなかろうか。先の事例ではないが小規模ゆえの長所もある。

 時代の波に押し流されて、消えてゆきそうな製品を作ったり販売している所は深刻で、製品にはプロダクトライフサイクルというものがあるのだから、もうダメだと廃業を考えることも仕方がない。しかし、これも聞いた話なのだけれど、「神棚」なんて最近はほとんど飾る家は無くなって、当然売り上げは落ちる。これを「モダン神棚」と銘打って、神社参拝時に購入したお札やお守り、破魔矢などを収納するケースに仕立てた会社があったという。確かに初詣の人出は現代においても低下していないようだ。いいことなのだけれど、現代日本の不思議のひとつかも知れないなどと思う。若い男女もお正月に神社参りはする。

 要は、しっかりした技術があれば、製品そのものは時代とともに廃れても技術は残るということ。それがコアコンピタンスで、これを持つことが継続企業の条件でもある。

 発展途上国のような成長期の国にあっては、戦後のわが国がそうであったように、機会(オポチュニテー)が溢れている。しかし、成熟期に入った環境では機会は限られてくる。強みを活かしたクオリティー企業と成れるように、企業内部で価値創造してゆく必要がある。

 これは一橋大学の楠木教授が提唱されている、オポチュニティ-企業とクオリティー企業。事業レベルの利益の源泉は、事業をとりまく環境がもたらすオポチュニティー(機会)とその事業が自ら内部で作る価値のクオリティー(質)である。企業は長期利益こそ重要で、成長期から成熟期という環境変化では、オポチュニティ-企業からクオリティーへシフトしてゆく必要があるという。

 改めて自社のSWOT分析を行い、自社の強みを再確認し、この環境の中で存在感のある企業へ磨きを掛けてもらいたいものである。


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経営を診る第12回

2015年10月04日 | ブログ
品質管理の視点

 経営コンサルは大きく2つに分けられると思う。すなわち投資を伴うような企業の改革・変革に関するような案件を支援するコンサルと、現業の日常業務における売上向上とか、コストダウンに関するようなコンサルである。品質管理の世界では、企業経営を日常管理業務と方針管理業務に分けていることに相当する。

 医療の世界で、名医などと呼ばれる先生は大抵、大掛かりな手術を伴う医術を得意とする。心臓バイパス手術、脳外科手術とか生体肝移植などなど。食中たりで腹が痛い、風邪を引いた程度の症状に処方する医師では良い先生とは呼ばれても、全国版で名医とまではゆかない。

 コンサルの世界でも同様である。関連の法律に詳しく、事業再生であれば、第二会社方式*15)とか、デット・エクイティ・スワップ(DES:債務株式化)などを成功させ、よろよろの企業を再生するようなコンサルタントと、日常の企業運営の相談に乗る程度のコンサルタントでは、評価も報酬も違う。しかし、企業の外科的な改革を行い名のあるコンサルタントが日常の企業運営コンサルにも長けているかどうかは分からない。両者ではコンサルスキルが異なるのである。

 事業再生に関わらずリストラには、財務リストラ、事業リストラそして業務リストラと3種類ある。このうち、主に財務リストラや事業リストラは外科的改革で、これをを専門に行うコンサルタント。一方現業の日常業務における改善、すなわち業務リストラ行うコンサルタント。経営コンサルタントには大別してこの2種類あると考える。

 人体だってそうだけれど、命の危険が迫っている時に、稀に末期がんの患者さんが食事療法で良くなったなどという話を聞くこともあるけれど、体質改善の漢方的治療では手遅れで、西洋医学の外科的手術が必要なのだけれど、日常の健康を維持するためには、体質改善や良い生活習慣などの支援・指導が重要になってくる。企業に云えば、従業員全員参加によるTQM的活動が必要なのである。

 わが国ではバブル崩壊後、ISO9000が入って来たこともあってか、70年代80年代に盛んだったTQC(現在はTQM)活動は下火になり、20年かけて企業の現場力の低下が嘆かれる事態となっている。実はTQMのような管理手法は企業経営の基本であり、流行り廃りする類のものであってはならない。

 京セラの稲盛さんが提唱されているアメーバ経営も、ご本人が意識されたかどうかは分からないけれど、元を辿ればTQMの考え方を管理会計にまで応用したものと診る。最近は市場起点PDCAなども有力なコンサルタント氏によって提唱されている。計画は「挑戦」、実施では「きちっとやる」、チェックは「学習」、アクト(アクション)は「進化」と読み替える*16)。企業はこのPDCAが回らなくなり、市場とかい離して低迷してゆくという。

 品質管理に云う、日常管理の視点による企業支援の重要性が再認識されはじめたものと期待している。企業経営の特に業務リストラにおいては品質管理の視点で診ることが有効なのである。




*15) 事業譲渡手続や会社分割手続を利用して収益性のある事業部門を別法人(第二会社)に譲渡・移転することで事業の維持・再建を図る方法。不採算事業、債務超過の旧会社は特別清算させる。
*16) 稲田将人氏「市場起点PDCAとIT戦略」、日本経済新聞社主催「日経MJフォーラム」2015年9月29日



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経営を診る第11回

2015年10月01日 | ブログ
リスク管理

 金融商品取引法や会社法に定められた内部統制整備の義務は、上場企業や会社法にいう大会社(資本金5億円以上または負債総額200億円以上)を対象としたもので、中小企業が直接そのルール遵守を義務付けられることはないが、「整備しておいた方がいい」というのが、内部統制セミナー華やかし頃の講師の常套句であったと思うが、どれくらいの中小企業の経営者が自社に明確な内部統制システムを整備したであろうかと思う。

 しかし、「内部統制」という言葉は使わなくとも、そのことを実効している暗黙のルールはどんな組織にも存在するものである。しかし、組織が段々大きくなり、従業員の入れ換わりも行われるようになると、一定のルールを成文化しておく必要がある。人事制度、勤休管理、実務上のルールは仕事のやり方と一体化した形で従業員に徹底する筈で、それらもすべて内部統制の一部ではある。一般に標準化と言われる社内規則、作業標準などという名称で成文化して運用する。

 問題は、通常常識と考えていることや、そんなことはやらないだろうなどと考える性善説的発想だけで組織は運営できるものではないということ。また人間はわざとではなくとも過ちを犯すこと。例えば、電話での顧客や取引先からの要望を担当者や上司に連絡・報告をし忘れることは有り得る。大切な仕入れ伝票や納入伝票を失くしたり、パソコンへのデータ入力を忘れる、間違うことは絶対ないとはいえない。そこから品質管理の領分に入る。否、経営自体が品質管理なのである。

 お金を扱う部署や企業では横領は憑物だし、一般企業においても業者からの接待で自社に不利な取引を行う担当者もないとはいえない。このような事象には適切な管理・監督システムが必要なことは云うまでもない。企業の規模に関わらず内部統制の仕組みはリスク管理に必須のものである。

 阪神淡路大震災や東日本大震災を契機として、事業継続計画(BCP)が注目された。阪神淡路大震災を教訓にBCPを確立していた企業では、東日本大震災後の復興にBCPが威力を発揮したことなどが報告されている。昔からコンビナートなどでは防災面での協力関係が確立されているが、商店街や工業団地などでも個々のお店や企業毎だけでなく、全体としての防災面や災害復興に協力関係を強固にしておくことは心強いと思われる。

 小売業では、特に書店やスーパーマーケットなどで万引き被害が大きなリスクである。またコンビニエンスストアなど24時間営業店は防災時の灯台やオアシスの役割さえ果たすけれど、反面強盗などの犯罪を誘発する。人気の少ない深夜や早朝に売上金を狙って手っ取り早く現金が入手できると犯罪者に思わせるからである。先日の深夜営業のラーメン店での売上金を狙った強盗殺人事件は、結局元の従業員が検挙されたが、従業員、元従業員など企業内部を知る者の犯罪も油断ならない。企業は、従業員による犯罪のリスクを軽くは見積もれない。特にトラブルを抱えたための退職者など注意が必要である。逆に言えば、恨みを買うような仕打ちで馘首するべきではなかろう。また従業員による備品などの持ち出しや製品、商品の横領も防止策を考えておく必要はあろう。

 企業の倒産に直接つながるリスクは、主要取引先の倒産などがあるけれど、クレーム対策、情報漏洩、労災、火災・爆発から知的財産の侵害、不当広告など知らずに冒す企業犯罪もあろう。このようにリスク管理は多岐に亘るが、経営者がまっすぐに襟を正して常に経営の見える化に心がけておれば、ある程度防げるものでもある。まさかに備えることは継続企業の必須条件である。
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