中小企業診断士 泉台経営コンサルタント事務所 ブログ

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未然防止を考える その10

2016年12月28日 | ブログ
ヒューマンエラー

 新潟県糸魚川市で大規模な火災が発生した。強風に煽られ、30時間燃え続け150棟もの民家等が焼失した。火や煙に巻かれて亡くなった人が居なかったことがせめてもの救いだ。

 原因は小さな中華料理店での鍋の空焚きだという。火を使っている時はその場所を離れてはならないことは鉄則であるが、ちょっとした用があったのであろう。何も起こらねば見過ごされたであろうヒューマンエラーが原因である。

 このような事故を無くすため、この頃の家庭用のコンロでは空焚き防止装置があって、鍋底が異常に熱くなれば、火が消えるようになっているらしい。ポカヨケとかフールプルーフと呼ばれる対策が実施されているのだ。しかし、この店の業務用コンロにはそれがなかったのであろう。

 これほどの大火災はこの20年間国内では起こっていなかった。昔はこの時期、火の用心の夜回りがあったものだが、薪や炭などの燃料からガスコンロや電気コンロが普及し置き換わった。風呂焚きにしても煙突から火の粉が飛んでいるなんていうことは見なくなった。民家も木造ではあっても外壁はモルタルで、防火性が向上している。寝たばこなどの習慣も相当時代遅れのことになった。ポイ捨ても減った。喫煙者そのものが絶滅危惧種である。

 しかしここに来て、全国で火事のニュースが相次いでいる。喉元過ぎて、人々に油断が生じていたのかもしれない。火事は身近のちょっとした不注意が、大きな災害を呼ぶ代表例だ。

 高速バスや旅客機も安全運行を人に依存せざるを得ない代物だが、航空機には副機長を置き、長距離バスには交代運転手を同乗させるようになった。路線バスなどで自動運転の試みが始まったようだが、これは安全性向上というより、過疎地などのバス運行の経済性重視の対策のようだ。目的は兎も角、車においては昨今の高齢者事故をみても人に依存していては事故は絶えない。ハード面の対策が必要なのである。

 火事の対策としては、火を出さないことは当然だが、初期消火が重要で、スプリンクラーや消火器、警報器の設置などが義務付されるようになっているが、定番の雑居ビル火災などでは、法令が遵守されておらず、設置されてもメンテナンスが不十分だったりする。これらもルールを守らないというヒューマンエラーの範疇なのである。

 人は学校だけが学びの場ではない。仕事に付けば、関連の安全対策など、十分に履修しなくては業務に付かせてはならない。こうすれば、こうなる。こうしなければこうなる。ということを組織が社会が、機会を捉えて個人に周知させる必要がある。

 そのため、業務に応じて各種の資格制度がある。飲食店で調理して客に料理を提供できるのは、調理師に限る。ガソリンスタンドでガソリンや灯油を販売するためには、危険物取扱主任者の免状が必要だ、各種車両の運転も免許なしでは行えない。資格はこの国に一体何種類あるのか数えきらないけれど、これらの学習を通じて得られる安全への知識はヒューマンエラーを少なくする効果は大きい。

 人は間違いを起こす。しかし、その結果を受けて、対策を考える時には、原因を単に人の所為にしてはならない。とは言って、やらねばならないことを放っておいた。またはしてはいけないことをやった為に起こってしまった事故・事件では当事者の責任が問われることは仕方がないことだ。罰則も行動を律するためのひとつの未然防止策ではある。


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未然防止を考える その9

2016年12月25日 | ブログ
ハゲタカ

 「ハゲタカファンド」と呼ばれた、短期的な利益獲得のみを目的とした投資ファンドと、それを取り巻く人や金を描いている真山仁氏による経済小説(2004年)は、後に映画化されNHKでテレビドラマともなった。流行語になったかどうかは記憶にないが、当時は「ハゲタカ」という言葉をよく聞いたものだ。

 もともと技術力があり、ということはそこそこの人材を抱えた企業が、諸般の状況の変化に追随できず死に体になった時に、死肉を漁る禿鷹のごとく、企業買収を仕掛け安価に手に入れ、転売する。昔から上場企業にとっては、好ましからぬ買収工作に巻き込まれるリスクが付き纏うのだ。

 そのような敵対的な買収からの抑止策の代表的なものには、①社債を大量発行するなど、意図的に財務体質を悪化させて買収側の意欲を削ぐ「ポインズンピル」、②自社の魅力的な事業部門を第三者に譲渡したり、分社化することで、買収対象として魅力のないものにする「クラウンジェル:王冠の宝石」、③解任された取締役には巨額の退職金が支払われるよう定めておく「ゴールデンパラシュート」、④友好的な企業や投資家に買収を求め、敵対的買収から逃れる「ホワイトナイト:白馬の騎士」などが知られる。洒落た名前を付けているけれど、現実的に、これらを実行するのは結果として敵対的買収から逃れたとしても相当の手傷を負うことになる。

 企業はやはり、好業績を維持し、株価を実際の企業価値よりも高めに維持できれば、死肉の臭いを嗅ぎつける「ハゲタカ」に狙われる懸念も少なかろう。自然界においても、肉食獣に狙われるのは、子供や傷ついたり老いたりで弱った草食動物が多い。シマウマでもましてや水牛などは草食動物といえど成獣は、逃げ足が速かったり、角でライオンさえも倒すほどの力があったりする。

 70年代、飛ぶ鳥を落とす勢いのあった日本の家電業界にあっても、昨今シャープが業績不振から多額の融資を台湾企業から受けることで、その傘下に入ったように、技術開発力があっても、生産技術力、販売力が噛み合わねば、弱肉強食のグローバル競争の中で餌食となってしまう。折角育てた人材も、技術開発力も、生産技術に優れる企業にもってゆかれたりする。

 業界ごとに、そのポイントは異なるであろうが、ある分野で突出した技術なりノウハウを持っていたとしても、経営者の奢り、従業員の大企業病などによって、見る間に凋落することがあるのだ。一般に欧米企業が、短期的な業績評価に血道を上げる中、日本企業は長期的な成長を期して、従業員教育に始まり、細やかな品質管理を重視するようなことが言われてきた。しかし、ブランドとは何かと考える時、やはり長年の積み上げによって、企業が信用を勝ち得た証左であり、一般にブランド力に優れるイメージのある欧米企業が、単に短期的な業績のみを追い求めて来たなどと切り捨てられはしない。

 地道な日常業務の積み重ねによって、企業価値を高め、ブランド力を定着させることで、ハゲタカなど寄り付かない強大な企業に成長させることこそ、身を守る最上の手段である。
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未然防止を考える その8

2016年12月22日 | ブログ
倒産

 『倒産。何とも生々しい言葉だ。「倒」の字の第一義は「さかさま」で、もともと「倒産」と言えば「さかさまに産まれる」すなわち「逆子」の意味であった。ところが、このごろではまったくちがう意味、すなわち「財産が倒れる」というふうに使われている。・・・

 かねてより「破産」という同義の言葉はあった。しかるに、産が破(や)れる壊れるというよりも、やはり「産が倒れる」ほうが怖い気がする。・・・「突然ドウと倒れる」ような迫力がある。』(文芸春秋連載「大名倒産」浅田次郎より)

 企業経営にとって「倒産」の二文字は禁句であろう。しかし、起業した新しい企業があれば、倒産に追い込まれ清算して消滅する企業もある。

 倒産を未然に防止するには、偏に利益を出し続けること、逆に言えば赤字を垂れ流し続けないことだ。しかし世の中には黒字倒産ということもあって、すなわち「勘定合って銭足らず」となる場合があるから厄介である。要は「キャッシュフロー経営を心掛けましょう」ということなのだけれど、それでも大口の取引先(製品納入先)が倒産して、売掛金が回収できなくなって突如倒産ということもある。与信管理は取引開始の時だけでなく、取引を止めるまで必要なのである。

 これら倒産要因を未然に摘んでおくには、経営トップはまず、世の中の動向に目を光らせておくこと。広く国内外の政治経済に着目しながら、身近な課題としては、コトラーの5フォースモデルに照らして視てゆく。まず業界内の状況がどのように変化しているか、次に代替品や新規参入企業の動向、原料や部品の供給先、そして顧客企業の経営状況(与信管理)などに目配りが必要ということである。

 利益を出し続けるためには、それら5つの競争要因に対して、4P(マーケティングの4つの要素)で対処する。他社に優れる製品、新製品開発とコスト優位性を高め、業界内の競争を制し、代替品や新規参障壁を高くする。販売チャネルを強力にすることで、認知度と信用力を向上してブランド力を高めれば、自然とプロモーションも効果的となる。

 倒産がなぜ起きろか。それは借りたお金が期限までに返せないことで起きる。企業間信用をなくせば、あらゆる取引が停止され、企業活動は停止を余儀なくされる。手元流動性(月商(=毎月の売上高)の何倍のキャッシュを保有しているか)を高め(=一般には1か月以上が目安)、一定額の現金を常に確保しておくことが重要である。その為には、売上額だけでなく、その対価である現金がいつ入金され、購入した原材料費や地代家賃、従業員への給料の支払いに回すことができるかを常時見ておくことである。すなわち資金繰り管理である現金の「見える化」が必要なのである。

 投資のための借入金は自己資本比率を一定以上(最低10%は必要)に維持する範囲で行うこと。たとえ投資した新規事業がうまくゆかなくとも、倒産するかもしれないまでのリスクを抱え込まないことが必要である。
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未然防止を考える その7

2016年12月19日 | ブログ
不祥事

 残念ながら、企業の不祥事がなくならない。ブラックと呼ばれる企業もそうだが、脱税、粉飾など決算書の改ざん、横領、製品品質データのねつ造等々故意に行われるものから、異物混入など予期せぬ製品の不具合もある。また労働災害が頻発する場合や工場の火災・爆発、工事現場の足場の崩壊や道路の陥没事故など、一般市民を巻き込む場合は不祥事と言える。

 それら不祥事をなくすために、金融庁が示した「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準のあり方」に端を発して、「内部統制」が一時期大々的にアピールされていたが、その後に企業不祥事が激減したという話は聞かない。

 また、不祥事が露見した後の経営者の態度が問題な事例も相変わらず散見されるようだ。政治家にもあるけれど、開き直りや秘書や部下の所為にするなどもってのほかで、不適格者の烙印を押されてしまう。不祥事など起きないことがベストにしても、その対応によってはトップが却って評価されることもある、

 内部統制などの仕組みを作っても、外向けの内容に終始し、それを守るという企業風土が醸成されていなければ実効は上がらない。

 それでは、どうすれば良いのか。今や誰でも知っている理論を活用することに尽きる。その理論とはすなわち「割れ窓理論」(Broken Windows Theory)。この理論を活用したニューヨーク市の荒廃した地下鉄の改善はじめ、凶悪犯罪まで激減させた話はあまりにも有名である。

 すなわち、凶悪犯罪の取締まりを優先するあまり、軽微と思われる犯罪や不法な行為を見逃していると、却って凶悪な犯罪も増加するものである。住む人が居なくなり放置された家、ごみ屋敷。個人の所有権ばかりを尊重して、周辺住民の健康で文化的な生活を脅かしていないか。煙草のポイ捨ても、落書きもドライバーによる道路の中央分離帯へのゴミの投棄も、一人二人の不法行為が積み重なって景観を損ねる。街は段々と荒廃してゆく。

 企業においては、日常管理を徹底する必要がある。出退勤時間や会議の開始時間は守られているか。報連相は適切に実施され、指示命令系統は乱れていないか。パラハラは論外だが、現場の意向を汲むあまり、必要以上の権限委譲がされていないか。整理・整頓・清掃・清潔は維持されているか。ルール遵守への指導が成されているか。

 中国人観光客の中には、日本ではいろいろ気を使うことが多くてくたびれるとのコメントを残した人も居るようだが、良い生活習慣が根付き、風土となった国も企業も、そこで過ごす人々は快適であってもくたびれることはない。

 そして、上から下まで日常規範が守られる優れた企業では、企業の存続を揺るがすような大きな不祥事など起こりようがないのである。



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未然防止を考える その6

2016年12月16日 | ブログ
労働安全・衛生

 労働安全衛生マネジメントシステムを構築・運用するために定められた国際規格であるOHSAS18000(Occupational Health & Safety Assessment Series)は、大手企業を中心に普及しているようだが、これはまさに、各種労働災害の未然防止策である。

 導入企業は、より安全な職場環境の構築により、従業員のモラル向上、労働災害発生によって生じるコストを削減し、生産性向上に資すると共に、ステークホルダーからの信頼を高め、企業イメージの向上も期待しているのである。2017年にはISO45001としてISO規格化され、発効されるという。

 このようなシステム規格は、ISO9000シリーズがその端緒のように認識しているが、品質であれ、安全であれ、未然防止のためにしっかりしたルール決めをしておくことは重要である。交通ルールがあるから、ある程度には所与の安心感を得て、道路を歩き、また車を運転できる。

 ただ、このようなシステムを導入しても、結局従業員の意識が変わらねば、抜本的な職場改善には繋がらない。認証取得に多くの労力を使い、却って反感を買い、外向けのパフォーマンスに終わるということがないようにしなければならない。

 大きな組織で、従業員全体にこのようなシステムや規格を周知徹底させることは難しく、また中小企業においては、導入し維持するコストの負担感も拭えないであろう。現場の安全管理における未然防止策としての従業員教育には、やはり昔ながらの危険予知訓練(KYT)やヒヤリハット事例の周知などが現実的である。

 最近頓に問題になるのが、ブラック企業と呼ばれるような長時間労働、残業手当不払いにパラハラなどの問題。経営者の横暴がある。これは労働者の精神衛生に関わるものだ。

 われわれ団塊世代が社会に出たころは、また三井三池炭鉱などのすさまじい労働争議の余韻があり、経営者の労働組合活動への関心は高く、一般従業員への心遣いが垣間見えた。その後の大学紛争、赤軍派など武装革命集団の跋扈、成田闘争などを経て、国民の生活安定とも相まってこれらの活動が沈静化すると、喉元過ぎればで、雇用側の横暴が見られるようになったと考える。現在の経営者は戦後の労働争議など体験してはいない。一部の特権階級ばかりが高給を食む、米国の企業経営手法を手本にするところも大きい。

 電通など、あれだけ叩かれても、『社長は、労働基準法違反問題について公の場で説明していない』(日経ビジネス2016.12.12号)。これは現在の日本企業の氷山の一角であり、中小のIT関連企業、放送業界など、労働基準法などどこ吹く風でまかり通る労務管理が蔓延しているのではないか。見て見ぬふりの監督官庁、経営者、上級管理者。そんなことを続けていては、自身にもけっして幸せな老後はない。「天網恢恢疎にして漏らさず」。自身に直接災厄がなくとも、不幸は子や孫に及ぶものだ。

 自分の立場で出来るところから、ささやかでも改善の必要があるのだ。立ち上がる勇気が必要である。それは自身のためだけでなく、企業を凋落させることから守る必ずや未然防止になる筈である。




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未然防止を考える その5

2016年12月13日 | ブログ
知識の構造化

 設計や計画におけるトラブルの未然防止のためには、予測や対策のため、案件によっては高度な専門知識を要する。知識の差は予測の差を生むのである。

 予測には一種の想像力を必要とするが、想像できるということは、そこに何らかの核となる知が存在する。創造力は想像力に発して何かを生み出す想像力の一部であると思うが、学校で学ぶ体系化された知だけではなく、実体験や人の話、本やテレビからの気づきなど断片的な知であっても創造には有効である。学校での詰め込みなどと批判される知の習得もことさら重要である。知識の総和が想像力を逞しくするからである。創造のためには想像する能力が重要なのである。学校教育に問題があるとすれば、その使い方が、答のある試験問題対応型に偏す場合であろう。

 しかし、未然防止のための知も、前稿に述べたトラブル事例の活用が、ともすれば不十分なように、知識は体系化され、また構造化されて普遍的に活用が可能となる。日常の業務においては、一部の天才的なひらめきを持つ人に依存出来はしない。凡人でもトラブル予測のための知の活用が可能なように、そのための知識を構造化させておく必要があるのだ。

 それでは、そもそも「構造化」とは何か。『知識の構造化とは、東京大学の総長を務められた小宮山宏氏が提唱している概念で、著書「知識の構造化」においては、“知識の関連づけ、人、IT、及びこれらの相乗効果によって、膨大な知識にも適用可能な、優れた知識環境を構築すること”と定義されている。』

 ものごとの構造化とは、対象案件の全体を把握した上で、その構成要素を明らかにし、それら構成要素の関係を分かりやすく整理・整頓することである。全体を把握することで、漏れやダブリを回避し、要素間の関係性を把握することで、その活用がスムーズとなるし、必要な関係者への情報の共有化も容易になるのである。

 『トラブルに関する知識を構造化すれば、トラブル情報から、トラブル予測・未然防止の教訓となるトラブル発生メカニズムを、トラブルに関係する設計アイテムや仕様に基づいて教訓をいくつかに分解された知識として整理することができる。自分の設計・計画アイテムに必要な知識を得たいときに、その知識の構造性を活かして、設計者にとって必要な知識の部分だけを切り出して提供することができるのである。』

 具体的には、様々なトラブル情報を領域別、または類型分けして整理・整頓し、トラブルの事象(何が起こったか)とその原因、取られた対策など(構造要素)をデータベースに登録する。機密保持の問題は残るが、クラウドなどを利用して、業界、学会毎にでも参加企業や個人で共有できれば、少ない経費で多くの有益な情報を得られるのではないか。

 コンピュータによるデータベース化まで出来なくても、構造化したトラブル事例から得られる知識をトラブルシューティング的な資料に残し、伝承してゆく方法も有効である。



本稿は、財団法人日本規格協会発行、日本品質管理学会監修、田村泰彦 著「トラブル未然防止のための知識の構造化」2008年9月刊 を参考にし、『 』内は直接の引用です。
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未然防止を考える その4

2016年12月10日 | ブログ
トラブル事例を活かす

 この世には数限りないトラブル(失敗)事例があり、原因究明がされ再発防止策が施されたものも多い。航空機事故など、その最たるもので、都度ハード、ソフト両面から対策を積み上げてきたと思われる。しかし、空を飛ぶものは必ず落ち、水に浮かぶものは必ず沈む恐れが拭えない。便利なものほどリスクは高い。インターネットはサイバー攻撃に晒され、ATM(自動現金預け払い機)では偽造カードで現金を詐取されたりする。

 自動車事故は数限りなく繰り返され、プロのタクシードライバーでさえ、病院に突っ込んだり、貰い事故と言えばそうかも知れないが、歩道に乗り上げて死亡事故に到るなどさせている昨今の現実がある。病院に突っ込んだ事故では、ハイブリッド車のブレーキの不具合が疑われたりする。新しい便利な技術には新たなリスクの懸念が拭えないのだ。

 これらの事故・トラブル・犯罪事例は、当然に今後の当該機器のセキュリティ、航空機や自動車の設計に活かされるであろうが、乗用車にあっては、運転を人間の注意力に依存している以上事故は繰り返されると、自動運転車の開発が急ピッチで進められているようだ。

 それでは、過去のトラブル事例が、すんなりとその後の設計に活かされているかといえばそうでもないそうだ。『実際の設計現場でトラブル情報が設計・計画仕様の立案時に使われていないのである。その理由は、例えば次のようなものが挙げられる。

1.トラブル情報の記載内容が不十分で、設計で使えるほどのものではない。
2.設計に再利用できそうなトラブル情報があちこちに点在しており、その総体を発掘、把握できていない。
3.一般化して類似設計に再利用できるトラブル情報が、特定アイテムのトラブル情報として整理され、狭い範囲にしか活用されない。
4.トラブル情報データベースは整備したが、設計業務へ活用方法が分からず、誰も使わない。
5.トラブル情報データベースの登録件数が膨大で、必要な知識の検索・収集が困難である。

 さらに、自部署内のトラブル事例はそれなりに有効活用しているが、他部署への水平展開ができていない。』というのもある。水平展開は未然防止(予防処置)の最も初歩的な活動で、実際に起こった事例をそのまま参考にできるのだから、予測のレベルとして想像力を要しない分、初期段階と言える。

 各種データベースも手段が目的化して、データベースを作ったことに満足して、誰もアクセスしないデータベースでは仕方がない。「見える化」活動と連動して、使用者側に立ったデータベースの整備と、設計マニュアルにデータベースへのアクセスを加えるなど、アクセスを誘導する仕掛けも必要であり、トラブル事例は悲惨な目にあった人々に報いるためにも有効活用が必要である。



本稿は、財団法人日本規格協会発行、日本品質管理学会監修、田村泰彦 著「トラブル未然防止のための知識の構造化」2008年9月刊 を参考にし、『 』内はほぼ直接の引用です。
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未然防止を考える その3

2016年12月07日 | ブログ
未然防止のための知識

 設計者がトラブルを未然防止するためには、トラブルに関する知識が必要であり、その知識には、予測のための知識と対策のための知識がある。予測のためには気づきのための知識と詳細解析のための知識、対策のための知識には設計仕様の立案のための知識と設計仕様の評価のための知識が必要となる、とある。

 いずれにせよ、無から有を創出し、世の中に提供して所期の目的に沿った使用に耐えうる製品を作り出すためには、それなりの専門知識が必要なことは改めて言うまでもない。新しい材料を使用するなら当該材料の材質に関する網羅的な知識が必要となる。

 携帯用電子機器ではそれに使用する(充)電池の性能が、補助部品として重要な役割を担うが、最近これの発火事故が国内外で発生している。飛行機内や電車内で発生して周辺に重大な迷惑を及ぼした。電池にとってその寿命が命で、1回の充電で何時間使用できるかが当該製品のセールスポイントとなるため、長寿命の電池が開発されてきた。そこに落とし穴はなかったか。

 リチウム電池は、圧力を掛けると発火することは知られているが、通常の使用において発火するほどの圧力が掛かるとは考えにくい。しかし、設計時のトラブル予測が不十分であり、使用する材料の品質に問題があったか、製造工程での検査を掻い潜る程度の不具合などが絡み合って、繰り返し充電によるストレスに耐えうる限度を低くさせたものであろう。

 新たな製品が、顧客をモニターにしてはならない。どこかで事故が起これば、その原因を潰してゆくことで、設計変更を重ね高品質に仕上げてゆくことが当初からの手筈であってはなるまい。

 新薬の副作用なども、特異的な体質に対する副作用までを事前に十分検証することは至難であるにしても、薬学の専門家、新薬の開発者は、それに対処する経験と知識を持つ必要がある。

 その意味では、携帯電子機器の充電池はじめ各種電子機器・部品の安全性は、実験によって把握し得るから、新薬を世に出す苦労からすれば、容易いと思われる。常識はずれの使い方による危険性は、取扱い説明書に警告する。

 それでも事故が起こるのは、設計段階における知識の構造化が不十分なため、コストを優先させるため使用する材料の品質を落とすようなことがあったり、検査基準を甘くしていた懸念もある。設計から出荷検査まで、トラブルを未然に防ぐためにはそのため十分な知識と加えて強い責任感が必要である。



本稿は、財団法人日本規格協会発行、日本品質管理学会監修、田村泰彦 著「トラブル未然防止のための知識の構造化」2008年9月刊 を一部参考にしています。

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未然防止を考える その2

2016年12月04日 | ブログ
設計・計画

 物事を進める前には、通常計画を立てる。モノづくりの前には設計が必要である。段取り八分とはよく言ったもので、物事を成すには準備段階の周到さが成功のカギとなる。製品のコストは概ね設計によって決まると言われる。

 製品の出来栄えを評価し、問題を生じた場合に、設計段階の不手際による場合と、設計や指図通りに作らなかった、または作れなかった製造段階の不手際に分けることができるが、製造段階の不手際もその原因を辿れば無理な仕様ということもある。種々のトラブルの未然防止には設計、計画がまず重要との認識が必要である。

 そのため、昔からモノづくりの設計ではDR(デザインレビュー)が実施されるのが普通であろう。企画から設計、試作、量産試作等の各段階における問題点を関係者であらかじめ議論し、チェックリスト的に網羅的な管理表を作成して、一つ一つトラブル懸念項目を潰してゆく。これには当然に、コスト、時間(納期)、技術、人材等々制約条件が加わるからやっかいではある。

 部品数3~4万点と聞く自動車にしても、さらに航空機となれば小型ジェットで70万、旅客機なら300万点といわれる部品数の一個一個の高度な信頼性が問われることになる。

 設計段階では、これらの部品を何処から調達するのかも問題となる。すべての部品を自社生産はできない。供給先への確かな設計仕様書の提供と生産時の品質管理が重要となる。

 どれだけ綿密に設計管理して生産しても、自動車などではリコールが絶えない現状がある。車種を跨ぐ共通部品は多くなっており、一車種に見つかった不具合は多くの車種に及び、従ってリコール台数は膨れ上がる。IT化の進展も拍車をかける。便利なものほどリスクも増大するのだ。

 これら設計段階のリスクを最小にするためにFMEA(Failure Mode and Effect Analysis:故障モード影響解析)が知られている。これは起こりうる不具合(故障モード)を予測し、考えられる原因や影響を事前に解析・評価することで設計・計画上の問題点を洗い出し、事前に対策を講じることでトラブルを未然に防止しようという手法である。設計段階だけでなく、工程管理にも作業管理、設備管理にも応用できる。

 安全管理にもこの手法は応用されている。OHSAS18000では、現場でのあらゆる作業項目を上げ、作業頻度、事故時の災害の大きさ(ハザード)の程度からリスクを定量的に評価し、点数の大きいものから順次対策を徹底してゆくやり方が取られる。すなわちリスクとは発生確率とハザード(被害の重大性)の掛け算であるとする考え方を取る。

 6シグマ手法にもFMEAは取り入れられており、業務の効率化におけるリスクを事前評価するために活用したことがある。三交代勤務のプラント支援の分析業務のため、一部分析チームにおいても三交代要員を準備していたが、三交代分析要員をなくすことが可能か検討したのである。

 このような分析手法では、どこまでリスクを客観的に評価できるかが重要となる。

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未然防止を考える その1

2016年12月01日 | ブログ
各種トラブルを防ぐ

 トラブルの最大級のものは国家間の戦争であろう。平和な日本にあっては、戦争は70年も前の団塊世代が生まれる前の出来事だから、ほとんどの国民は現実的な出来事には思わないかも知れないが、第二次世界大戦後の70年間にも、世界では38もの戦争(1000人以上が死亡した軍事衝突)があったそうだ。

 国際的な各種トラブル、戦争を回避するため、国際連合があるが、必要な時に十分に機能しているとは思えない。拒否権を持った大国が、自国の国益に沿わねば、その権限を行使して中立的な運用を妨げるからである。それらの大国とは、米国、ロシア、英国、フランスそして中華人民共和国とは中学生でも知っている。第二次世界大戦の連合国の主要国だ。もっともその定義からすれば、中華人民共和国(中国共産党)が名を連ねるのはそもそもおかしい。蒋介石の中華民国、現在の台湾政府でなければならない。

 そんなこともあってか、国際的な紛争解決、調停に国連がその成立趣旨に沿った活動ができているとは到底言えないのである。現在の事務総長などもヨーロッパ諸国からさえ文句が出るほどの人物で、中国の抗日戦争70周年軍事パレードに堂々と列席した。韓国では人気が高く、次期大統領との呼び声も高いそうだが、そうなれば、日韓友好条約など反故にした方がいいようにさえ思える人物だ。

 テロとの戦いも、空爆など一般市民を巻き込むことで批判もあるが、テロの未然防止には必要悪で、トランプ氏がイスラム教信者の入国を制限するなどと発言することも分からないではない。各国とも出入国管理は厳重に行っていることで、IT技術も最大限活用しながら、効率的な水際管理が米国に限らず望まれるところだ。

 テロに限らず、一般犯罪においても、その未然防止こそ重要である。凶悪事件が起こってから、いくら犯人を逮捕したところで、失われたものは返ってこない。それにしても、最近は我が国においても、幼いわが子殺しや大学生の女性への集団暴行事件などが相次いで報道されている。有名私立大学や国立大学の医学部の学生が、まさに恥も外聞もない行動に出る。前頭葉の発育不全というか、学校や塾での勉強が、人格形成のためではなく、お金儲けの手段として大手を振る風潮があり、マスコミ主導の性の解放が、命をつなぐ厳粛な営みの意味を捨て去ってしまった帰結なのであろう。

 犯罪を抑止するために、警察力の強化や罰則強化も必要であるけれど、人格を陶冶し恥を重んじる文化の醸成のために、心の教育の充実が必要である。学校でのいじめ問題対応などもそうだけれど、他人の痛みを知ることから始めねばならない。

 トラブルにはこのように社会問題まで含むけれど、企業活動に伴う、安全・品質トラブルからコンプライアンスまでの未然防止をどのように行えばいいのかを中心に考えてみたい。
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