さびついた現場力
2019.10.21号「日経ビジネス」の特集記事は「さびつく現場力」。日経ビジネスは2015年5月にも「日本の現場は強くない」という特集記事を組んでいる。中国やインド、東南アジアの国々の企業が日本的品質管理を学び、小集団活動や改善提案活動を取り入れ成果を上げているのに対して、バブル崩壊後のわが国では、それらの活動がマンネリ化してきたことに加え、それまでの日本的経営手法が否定され、短期業績評価など株主主導の管理経営が主流となった。団塊世代の退場で現場を支えてきた中堅層が細ったこともある。
今回日経ビジネスは、まず昨今の大手製鉄所の火災等各種トラブル事例や大手企業のデータ改竄などの不祥事事例を上げ、この国の現場力が明らかに低下していると指摘する。その原因として危険で作業環境の悪い現場作業は、外国人に頼らねば成り立たなくなっている若手労働者不足の現実。それはものづくりの上流工程である設計部門にも及んでいること。
そして、上場企業における株主の変化も要因としてあると指摘する。金融機関など安定株主中心から、外国人等もの言う株主が増え、短期志向の経営が目先の売上確保やコストダウンに走り、そのしわ寄せが現場の負担を増大させる。人件費の増加を抑えるべく、現場で働く従業員の4割は非正規社員で、挙句企業業績は上がり、内部留保や株式配当は増加しているが、従業員の所得は30年間横ばいのまま。現場の士気が上がるわけはない。
一方アジアの企業では、わが国では当然のこととして重きを置かれていなかった5S活動を徹底する。改善提案活動を行い、従業員の意見を尊重することで士気を高め、製造業における生産性や品質管理もわが国に肉薄するようになっているという。
『現場力とは、現場の自主的、自発的、自律的問題解決力です。現場自らが能動的に問題を見つけ、解決し、価値向上につなげます。・・・』遠藤功氏(ローランド・ベルガー日本法人会長)
その現場力がこの国では「さびついて」しまった。現場力というと多くはものづくり現場を想い描くことが多いが、本稿(「現場力」再考)では今回、テレビドラマも借りていろいろな現場を論じてみた。
わらわれ団塊世代と呼ばれる世代が大学への進学を迎えた時代、その進学率も上昇へのターニングポイントを迎えた。高度経済成長のお陰で、大学への進学率は上がったが、逆にものづくり現場を支える中堅層が細った。そして国家を支える官僚の現場力も最近頓に低下したのではないか。
儲け第一主義の企業経営者の国家観も問題である。確かに稼ぐことで国民の胃袋を満たす使命は重要であるが、自由と人権、まじめに働く人々が報われる社会の継続こそ国家には重要である。経済人だから政治は知らないでは済まない。軍事大国を利するような当該国への投資や自由貿易は自制があって当然ではないか。
現場の士気、現場力は、やはり政治・経済界のリーダーの器が左右しているのである。