中小企業診断士 泉台経営コンサルタント事務所 ブログ

経営のこと、政治のこと、社会のこと、趣味のこと、人生のこと

経営を診る第10回

2015年09月28日 | ブログ
不祥事

 国内で東芝の粉飾決算が大きなニュースとなったと思えば、今度はドイツの名門フォルクスワーゲン(VW)社の排気ガスデータ改ざんが大問題となっている。中国天津の倉庫の火災大爆発事故だって、倉庫会社の不正があってのこと。あれだけCSR(企業の社会的責任)だ法令順守だと日常的に叫ばれていながら後を絶たない企業の不祥事。

 東芝は福島原発事故によって打撃を受けた原子力事業の損失隠しという噂があり、VWではクリーンエンジンと銘打ったディーゼルエンジンの能力不足を隠して売ろうとしたこと。すなわち誇り高き名門の技術力の欠如を認めたくもなかったために起こったものか。天津の倉庫会社は、行政担当者との癒着で法律を歪めて運用していたようだ。三者三様に不祥事にもそれぞれのお国の事情や文化を反映しているところがあってもの哀しい。

 中小企業においては、規模が小さいだけに1社の不祥事がこのような世界的な大ニュースには成り難いけれど、建築事務所の強度設計の改ざんや食品への農薬混入、ユッケによる食中毒など、一般の人々の安全や健康に直接影響を与える事例では、過去に数々の不祥事が世間を驚かせ憤らせてきた。

 それぞれの業界で、管理監督するための法律や監査機関がある筈であるが、企業の全てを隅から隅まで把握できるわけではない。また、監査する側と監査される側の力関係もあったりする。
 
 ISO9000がわが国に入って来た1990年代前半頃の審査員は厳しかった。審査される側の社員の目の前で、審査員が課長や係長をこっぴどく遣り込めるなど当たり前だった。ところが、ISO9000の取得企業も一巡し、審査会社があふれるようになると、厳しい指摘は行わなくなる。ISO9000の意義が消滅してゆく。

 公認会計士など上場企業への会計監査が仕事などだから、この度の東芝のような粉飾決算が見つかれば、直ちに適切な処置を執って是正させなければならない筈である。ただ、あまりに厳しく監査を行うと、次には監査法人を変えられる恐れもあり、ISO9000同様監査側が目こぼしするケースも出てきているらしい。そのほころびが大きくなって、繕えなくなって発覚するから影響が多岐に及ぶ。以前、カネボウの粉飾を知りながら摘発しなかった監査法人は消滅した。不祥事を監督すべき企業が不祥事を起こした。
 
 このように企業の不祥事は企業の存立基盤を根底から揺るがし、倒産につながることさえある。目先の利益を得たい為、確信犯的不祥事が続くのだけれど、「天知る地知るわれ知る」、「天網恢恢疎にして漏らさず」で不正は遠からず暴露されるものだ。経営者は自身の潔白は勿論、幹部はじめ従業員が不正に手を染めにくい社内制度を構築すると共に、機会ある毎に社内に注意喚起する必要がある。


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経営を診る第9回

2015年09月25日 | ブログ
承継

 一般に中小企業は同族経営であることが多く、承継は非常に重要な課題である。

 ゴーイングコンサーンという言葉がある。企業は継続を前提とすることで、企業間取引での信用供与、減価償却などの前提、「のれん」や特許権などに無形固定資産に資産価値を認めることなどなどが成立する*14)という。現経営者は自分の代で事業を終わらせることなく、後継者に将来を託す必要がある。

 しかし、現実には後継者が居ない為に廃業というケースが多く、行政でもパンプレットを作り、承継セミナーを開催するなどその対策に取り組んでいる。仕方ないことでもある。高度経済成長の時代には作れば売れる、店頭に陳列すれば売れるところもあって、儲かる所には参入者も多かった。小さな商店、町工場など戦後はどんどん増加した。1980年代後半には、5百数十万社あった企業数は、2000年代に入り4百万社余りと、20年で百万社程度少なくなった。国内人口が停滞から減少に転じる中、新興国の台頭で海外からは安価な製品が入ってくる。小売業でも大資本が規模の経済で席巻する。小規模企業は従来のやり方の踏襲では経営が成り立たなくなった。

 だから、相続が主要テーマであった同族企業の承継は、経営力の伝承が最重要視されるようになった。パイが膨らんだ時代と異なり、誰かが儲かれば誰かは損を余儀なくされる時代、経営者に確かな経営戦略が求められる時代となったのである。

 経営を診る場合にも、経営者の能力が評価される時代であるが、同時に後継者の有無は大切な評価ポイントになる。しかし、単に後継者は居るから安心ではなく、早くから承継計画を立てて、後継者には時間を掛けて陰に陽に経営者教育を行う必要がある。

 後継者が親族にも社内にも不在の場合は、M&A(合併、買収)手法も活用されることも多くなった。M&Aの斡旋を行う企業も増加している。この場合、企業を丸ごと売却する場合と、何割かの権利(株式)を現経営者に残すという選択肢もある。いずれにせよ経営権は他社に委ねることになるが、株式を残せば、現経営者は当該企業から継続して収入を得られる可能性がある。

 事業承継の説明会やその資料に、自営業者を対象とした事業承継を目にしない。しかし個店などでは特に、法人化されていない自営業者が多いが、継続して事業を行いたいと考える経営者も結構居ると思われる。

 自営業の承継では、現在の経営者が一旦廃業して、継承者が新たに個人事業の開業を行う。このため子息が相続して承継する場合は、相続や贈与などの税金対策が必要になる。税金対策として不動産など高額な資産は当面現事業主の所有のままとして、使用賃貸とする方法もある。

 親族に承継者がなく、従業員など他人に譲る場合は、事業用資産から負債を差し引いた金額を有償譲渡することになるが、土地・建物など不動産の時価譲渡が難しい場合は前述と同様賃貸契約とすればいい。現在身近に後継者が居ないが事業を継続したい場合、一旦株式会社などに法人化し、徐々に資本と経営の分離を図れば、承継の選択肢は広がるように思う。

 老舗企業は、内部統制の仕組みを持ち、経営革新を繰り返してきたことに加えて、しっかりした承継を継続してきた証である。人間である以上経営者に寿命はある。しかし、企業は可能な限りゴーングコンサーンを目指すことが必要である。



*14)固定資産の取得原価主義、減価償却制度、繰延税金資産の計上など、現在の会計制度の多くは継続企業の前提によって成立している。



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経営を診る第8回

2015年09月22日 | ブログ
投資

 銀行での不祥事などを描いたテレビドラマの原作者は、元々銀行マンであることが多いと思われ、デフォルメがあるにしても事実に基づく出来事であるように思う。

 先日のドラマは、銀行の支店長が自身の営業成績を上げたい為に、中堅中小企業に海外投資を持ちかけ、その投資案件が失敗し資金繰りが苦しくなると、その救済を餌に借り換えによる返済を持ちかけ、自社(銀行)への損失を無くした上で、融資を停めたというものだった。

 ドラマの当該中小企業の経営者は元々拡大戦略志向ではなかったが、銀行側の熱心な融資意欲に、能力以上の海外投資を決めたものだった。*13)

 それなら企業の能力に相応しい投資額の指標は何なのか。一つは自己資本比率を考慮するということがある。自己資本は返済しないでよい資金であり、利益を出し続けておれば、利益準備金が膨らむことで自己資本比率は上昇する。勿論、利益以上に借入額が膨らんだり過分な配当を行ったりしていない前提はある。この自己資本比率をどの程度までに維持するかが借入額限度の一つの指標となる。

 すなわち投資の為に銀行から融資を受け、借入金(他人資本=返済の必要な資本)が増大し、自己資本比率を低下させても一定の自己資本比率を維持するように投資の為の借入額を制限するというものである。一般に自己資本比率は10%を切ると危険地帯であるという。20%程度には維持したい。

 通常の投資は、自社の毎年の減価償却額程度に抑えること、また営業活動キャッシュフローの範囲で賄うことが基本と聞く。

 実はキャッシュフローは営業活動だけで捉えられるものではない。設備投資を営業活動キャッシュフローの範囲で賄うといっても投資を実行すれば現金が出て行くし、保有していた株(有価証券)などを手放した場合は現金が入ってくる。この収支を捉えるのが投資活動によるキャッシュフローである。

 また、借入金を返済したり配当を行えば現金が出て行くし、銀行などから融資を受ければ現金が入ってくる。借入金の大小は結果として金利負担の増減となって損益計算書に、また貸借対照表の負債額の変動となって顕在化するけれど、その収支は捉えにくい。これを管理するのが、財務活動によるキャッシュフローである。キャッシュフロー計算書はこの3つを分けて示し、トータルとして現金及び現金同等物(貸借対照表の流動資産)の期末残高を示すものである。

 営業活動キャッシュフローと投資活動キャッシュフローを合算したものがフリーキャッシュフローで、企業が自由に使えるお金ということ。これがプラスであれば、企業の設備投資が本業で得た現金で賄えていることを示しており健全な経営と診ることができる。

 投資、特に新規事業への投資や増産のため、または出店のためなど事業拡大のための投資は、常に危険と隣り合わせであり、その回収期間の見積もりも含め慎重な判断と、果敢な決断が求められる。基本を忘れず、リスクを恐れず、市場環境を見据えて決断することは経営の醍醐味かもしれないと思う。



*13)「花咲舞が黙っていない」第10話(日テレ) 2015年9月9日放送
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経営を診る第7回

2015年09月19日 | ブログ
将来性

 将来のことは誰にも判らない。「政界の一寸先は闇」とかよく聞くけれど、一寸先が闇なのは政治の世界に限るまい。ドルショック、オイルショック、リーマンショックなど名たる経済に与えた甚大なショックは、多くの企業を倒産に追い込んだりした。個人だって、さまざまなリスクに晒されている。事故、災害、病気、失業などなど。

 大雨が降っても大河の堤防が決壊するなどは想定外のこと(正常性バイアス)で、逃げ遅れて自衛隊ヘリコブターの神業にすがるしかなくなったりする。隣国が物凄い勢いで軍備を充実拡張し、明らかな海洋進出を明言していても、同盟国との絆を確かにする法案を「戦争反対」にすり替えてつぶしていい訳はないのだけれど。野党とはいえ国会議員が、巷のラップに乗って反対を唱える連中と嬉しそうに吊るんでいる姿は醜態でしかない。これも正常性バイアス。すなわち禍(敵国からの侵略)は起こらないと信じたい気持の為せる業でしかない。

 今、元気でも、今、儲かっていてもまさに明日のことさえ保証はないのである。人生には3つの坂がある。「登り坂」、「下り坂」、「まさか(まさかの坂)」などとじゃれ事を言うまでもなく、常に「まさか」は付き纏う。だから企業の将来など判ろう筈もないけれど、同業の企業との比較において、将来性が有りそうだとか程度は言えるのかもしれない。

 財務諸表から読み解く場合、「成長性」という表現で、ここ数年の損益計算書から増収率(={(当期売上高/前期売上高)-1}×100)〔%〕とか増益率(={(当期利益/前期利益)-1}×100)〔%〕という指標を使って、成長か停滞か下降気味なのかは計算できる。

 投資家は、配当性向{=(配当金/当期純利益)×100}〔%〕、配当利回り{=(1株当たり配当金/株価)×100}〔%〕、株価純資産倍率PBR{=株価/1株当たり純資産(株主資本)}〔倍〕や株価収益率PER(=株価/株当たり利益)〔倍〕などなど株式投資の参考にするのだろうけれど、上場企業のコンサルには縁が薄いし、株は持っていないので埒外である。企業の「将来性はキャッシュフロー計算書で診る」というが、まさにキャッシュフロー計算書が制度会計として要求されるのは、上場企業である。

 制度的に要求されていない一般の中小企業にあっても、キャッシュの管理は、それが枯渇すればすなわち倒産であるから最重要の筈である。通常の損益計算書ではまず営業利益がどの程度あるかが事業の優劣の指標となる。営業利益は本業で稼いだ利益である。しかし、営業利益はキャッシュの増加を保証しない。確かに売れたけれど現金化されていない売掛金が増加していたり、拡販を見越して増産した結果売れ残っても、原価計算には売れた分の原材料費しか計上されないから、在庫が積み上がった期にはキャッシュが大幅に減少していることがあるのだ。このキャッシュ管理の指標として営業キャッシュフロー(営業CF)がある。この営業CFを売上高で割った比率がキャッシュフローマージンで、「7%以上あれば優良会社」という説がある。

 企業の将来性は、確かな財務基盤に加えて製品開発能力、優れたマーケット戦略、リスク管理や必要な人材(中小企業における後継者人材は最重要)を有していることなどソフト面の評価が重要であろう。ただ、逆説的だが現在どんなに儲かっていてもブラック企業の噂が立ったり、強欲資本主義に毒されていると思われる企業に明日はない。


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経営を診る第6回

2015年09月16日 | ブログ
組織

 小規模企業の場合、株式会社となっていても家業的経営を抜け出せておらず、業務分担が明確になっていないことがある。ものづくり企業であれば、社長と製造部長と経理部長、営業部長くらいの役割分担は必要なように思うが、社長と甥っ子の二人でやっている企業とか、奥様が経理をやっておられ、現場は70歳前後のパートの従業員数人だけだったりすれば、役職はすべて社長となる。

 下手に役務を付けて、手当が必要になったり、変に権限を振り回されても経営としては却って混乱すると考えることもあるかもしれないが、相応しい人材が居ないこともある。しかし、組織は組織体の骨格であるから、初めは形だけでも組織図にして、従業員の役割分担とその責任と権限をある程度明確にしておきたい。家業的経営から脱皮し、企業の成長のためには必要である。

 社長の片腕となる人材が欲しい。経営に限らないが人間一人で出来ることは限られる。一人で一生懸命回っても中々渦は起こせないが、二人がまわれば難なく大きな渦を起こせることもある。何事にもパートナーは重要で、それが組織の始まりとなる。

 「地位は人を作る」という言葉もある。名前だけでも責任ある役職を与えられれば、多くの場合人は発奮するものだ。仕事に対してモチベーションが上がり、まず自分の頭で仕事を考えるようになる。自分から動くようになる。もともと人間の総合力なんてそんなに大きく変わるものではなかろうと思う。「やるかやらないか」が大きい。最近日産自動車もCMにこのフレーズを使い始めた。

 反面、確かに人材がないことも事実だ。一般の従業員をリーダーに育てるに定まったマニュアルがあるわけでもなかろうと思う。スーパーマーケットや飲食業にしても次々と出店する拡大路線が、結構見る間に挫折することがあるのは、市場との不適合もあるだろうけれど、相応しい店長が育たぬうちに店舗数だけ増やしたことになどもあるように診る。

 組織の価値は、偏にトップの人柄・能力に掛っている。トップとは店舗なら店長となる。本部などから与えられる権限にもよるが、仕入れから陳列、従業員管理(勤休・接客)、万引きなどに対応するロスプリベンションに代表されるリスク管理まで、店長には多岐に亘るスキルが要求される。顧客にとって居心地の良い店舗空間を演出することは容易ではなかろうと思う。

 内向きの業務でも同じだ。調達、経理、生産、研究・開発、メンテ(工務)、試験など、日頃顧客に直接接しない部署だって、その業務の出来栄えが顧客満足につながる。それぞれの組織の長は、そのことを念頭に従業員満足から顧客満足につなげるマネジメント能力が要求される。

 加えて組織は、部署毎の最適と共に、それが全体最適に通じるものでなければならない。取締役会に始まる組織が切れ目なくつながり、それぞれの部署が経営ビジョンに向かって共通認識を持っておれば組織は強い。優れた経営者の第一は人づくり、第二は組織作りなのである。



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経営を診る第5回

2015年09月13日 | ブログ
人事制度

 どのような組織であれ、人間が運営している以上その組織の有り様は、当該組織に属している人々に表れるものだ。同じ会社であっても大きな会社になると同一工場内にも多くの職場があり、職場の雰囲気は微妙に違いがあるものだ。同じ賃金体系で同様の福祉を享受しながら、明るくやる気を持って前向きに仕事をこなしている職場もあれば、それほどもない所もある。勿論職場によって仕事そのもの負担感も異なることもあるが、所属長の考え方や部下との関わり方、先輩後輩同僚などとのタテヨコの人間関係も大きく影響する。

 特に、「職場の好悪はその職場の女性にもっともよく表れる」というのは、勤め人の頃からの持論で、だからどうなのと言われそうだが、現在に至っても現場を診るひとつの指針とはなっている。女性は論理性よりも感情論的な発想が優先し易いし、職場での補佐的な仕事が多いことから理屈では言い表せない職場の微妙な雰囲気に、表情や態度が強く影響を受けやすいものと感じていた。

 企業診断やコンサル業務で企業を訪問させていただいた時は、まさに深く従業員の方々と接することはないので、この場合は男女に関係しないが、そのような従業員の方々の雰囲気を評価の一助とすることはやむを得ない。

 最近は企業において非正規社員の割合が非常に高くなっていることが問題視されているが、小売業においては確かにほとんどがパートというのは普通だけれど、製造業的な中小企業は、派遣とかアルバイト、パートという従業員は事務の女性が該当するくらいで、勿論例外がないわけではないが、ほとんどが「一応正社員です」というところが多い。しかも明確に定年年齢を定めているところも少ないようだ。退職金制度もないような企業もあるけれど、その代わり働けるうちは働いて下さい。という方針の所が多い。勿論高齢者雇用には国からの補助金であったり、一定の年齢以上の従業員は厚生年金などの費用負担がなくなるメリットもあってのこととも思うが、地方の中小企業が高齢者雇用に大きく貢献していることは確かだ。

 良い人事制度は、従業員の不平不満を少なくし、その従業員満足(ES)こそが、業種に関わらず顧客満足(CS)に貢献する。だから優れた経営者は可能な範囲で、従業員が気持よく働ける環境を整備したいと考える。給与は高いに越したことはなかろうが、仕事の内容に照らして高額の賃金を得ることは、従業員にとっても良いことではない。

 社内の教育制度も重要である。最低限の仕事のための技能訓練に加えて、社会人としての素養を身につけることができるような職場であって欲しい。関連する資格取得を奨励し援助することも一案である。大企業でやっているような制度は中小企業では無理だということではなく、お金や時間を使うことだけではなく、教育方法も工夫次第であるように思う。改善提案制度やQCサークルや5S活動など、企業訪問のたびに経営者の方にはお話しするけれど、急に売上が高くなるわけでも、目に見える大幅なコストダウンが達成する保証があるわけでもなく、却って従業員には嫌われそうな施策とも思われそうである。

 日々の仕事の中で、また休憩時間の先輩との会話の中で、より良い仕事への取り組み方が学べればいいのだけれど。社会人としての人を育てることも、顧客創造やイノベーションに加える企業の大切な役割であろう。


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経営を診る第4回

2015年09月10日 | ブログ
生産性

 生産性分析の代表的な指標は付加価値生産性(付加価値額/従業員数)であり、これは従業員一人当たりの売上高(売上高/従業員数)×付加価値率(付加価値額/売上高)または、労働装備率(有形固定資産/従業員数)×設備生産性(付加価値額/有形固定資産)としても求める。

 この場合の付加価値とは、事業活動によって新たに生み出した価値のこと。100円で買った材料を加工して200円の製品として販売できれば、加工によって100円の付加価値が生み出されたことになるわけだ。

 損益計算書から付加価値額を計算する場合、簡易的には〔営業利益+人件費+減価償却費〕が使われるが、〔人件費+減価償却費+租税公課+支払利息割引料+経常利益〕と経常利益を使うこともある。因みに労働分配率はこの付加価値額を人件費で割ったものである。

 必要な場合には、このように付加価値額の計算も行わねばならないが、通常自社の経営を診る場合、付加価値額までに拘ることなく、例えば従業員一人当たりの売上高や店舗であれば店舗坪数当たりの売上高などを生産性の指標とすることもできる。製造会社であれば、従業員一人当たりの機械装備額(設備資産/従業員数)*11)を知り、また売上高に対する機械装備額によって機械装備の生産性(効率性)の指標にする*12)などである。道路貨物運送会社であれば、設備資産額を持ち出さなくても、保有するトラックの台数によって、トラック一台当たりの売上高でその効率、売上への貢献度を診ることもできる。

 企業会計には財務会計と管理会計があるが、通常の決算書は財務会計であり、制度会計の会社法で定められた会社法会計と納税のための税務会計などがある。上場企業ともなれば、金融商品取引法(旧、証券取引法)会計が必要になる。生産性分析は特に管理会計の要素が強いものだ。自社を管理するためのものだから、自社で分かりやすい数値を使えばいいのである。しかし、同業他社との比較には同じ物差しを使う必要がある。

 業界の平均的な数値と比べ、自社の売上高に対する従業員数が多いとか少ない場合、経営上何らかの事情がある筈である。その事情が問題であれば改善する必要がある。

 全体の売上高をみるだけでなく、取引先や製品毎の売上高に分けてみる。また原材料等にしても仕入れ先、材料毎の金額を捉えておく必要がある。何人で何時間働いてどれだけ売上げたのか(人的生産性)。結果どれだけの利益を上げることができたのか。また、そのためのエネルギーコストは、機械設備の稼働率は、など経営者は自分なりの指標を持って、自身の企業を管理する必要がある。生産性分析はそのための指標を提供している。
 


*11)設備資産=機械装置+船舶、車両運搬具、工具・器具・備品、リース資産
出典:「平成25年調査/中小企業実態基本調査に基づく中小企業の財務指標」一般社団法人中小企業診断協会編、株式会社同友館。
*12)正確な機械投資効率は、(付加価値額/設備資産)[回]で計算される。
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経営を診る第3回

2015年09月07日 | ブログ
決算書

 企業経営を診るに決算書抜きでは考えられない。しかし、その決算書なるものの中身への考察が重要である。

 決算書のデータから何を診るか。一般的には当該企業の安全性、収益性、効率性及び生産性*5)などがある。これらをまず検証することで、当該企業の問題点を浮かび上がらせる。

 安全性すなわち企業継続能力の代表的な指標は自己資本比率であり、短期的には当座比率*6)や流動比率*7)である。長期的な安全性指標としては、固定比率(自己資本対固定資産比率)や固定長期適合率〔固定資産/(自己資本+固定負債)〕などがある。自己資本比率がマイナスになった状態が債務超過で、資産の全てを処分しても借金が返せない状態だから、債権者から診れば破綻懸念先となる。自己資本比率は安全性の面からは高いにこしたことはない*8)。
 
 当座比率や流動比率は、100%以上を安全域とするが、流動資産には売掛金や在庫が含まれるため、いくら流動比率が200%であったとしても、回収見込みのない売掛金や不良在庫が多く含まれておれば安全ではなくなる。貸付金や未収金なども回収できるものかどうかが問題である。日々の安全性はキャッシュの管理が必要で、手元流動性*9)という指標がある。ここには不良在庫や回収不能の売掛金は入ってこない。

 これら決算書の中身については、経営者や経理担当者など一部の社員しか知り得ぬ情報である為、通常経営者への聴取によるしかなく、確度の高い企業診断には経営者との信頼関係が不可欠となる。

 収益性と効率性は一体のものと考えられるが、収益性が利益率のように割合で表現されるのに対して、効率性は回転率や回転期間など、回数や期間で表される。また前述の安全性への考察はバランスシート(貸借対照表)からの分析であるが、収益性や効率性は、損益計算書と貸借対照表から導かれる。

 収益性の基本は、総資本利益率*10)である。すなわち投資/効果。元手(総資本)に対する儲け(利益)の割合である。分解すれば売上高利益率に総資本回転率を掛け合わせたものになる。

 利益の売上高に対する割合が売上高利益率。売上高は製品なりサービスが、顧客に認められているかどうかの指標として重要である。売上高から費用を差し引いたものが利益であり、売上高や利益率の変動は、その原因を探り対策する必要がある。利益を高めるためには付加価値の高い(高く売れる)製品なり商品の開発、価格戦略、プロモーションなどの拡販努力と、原価低減や諸経費を抑える努力(コスト削減)が必要となる。

 総資本に対して何倍の売上高を上げているかが総資本回転率。この指標を好転させるためには、売上を上げるか、売上が上がらないなら資本を下げる必要がある。遊休資産はないか点検し、使う見込みのない用地の売却や資産に計上されながら売れる見込みのない製品在庫、使えない原材料があれば安価でも売却処分することなど資産の圧縮が必要である。一時的に損失となってもキャッシャは増加し、身軽になることで今後資本利益率は向上する。

 因みに今年4月に発行された「平成25年調査/中小企業実態基本調査に基づく中小企業の財務指標」一般社団法人中小企業診断協会編、株式会社同友館。によれば、全産業平均の総資本当期純利益率は1.4%(売上高当期純利益率1.3%×総資本回転率1.1)である。




*5)生産性は従業員数のデータを加えねばならない項目も多いため次号。
*6)当座資産(=現金、預金+受取手形+売掛金+有価証券)/流動負債(買掛金や未払い金、短期借入金など、一年以内に返済しなければならない負債)。なお、受取手形や売掛金は貸倒引当金を控除した額で計算する。
*7)流動資産(当座資産に主に在庫が加わったもの。通常1年以内には現金化可能な資産をいう)/流動負債
*8)負債比率が自己資本利益率(ROE)の変動に大きな影響を与える。総資本を同一とし、売上高や支払利息以外の費用も同じとした(事業利益が同じ)場合に総資本事業利益率(ROA)が負債金利より高い場合には、金利負担があった方がROE(自己資本利益率)は高くなる(財務レバレッジ)のだ。
*9)(現金+預貯金+短期有価証券+すぐに換金可能な資産など)/(売上高÷月数)
*10)総資本営業利益率、総資本経常利益率、総資本当期純利益率などがある。
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経営を診る第2回

2015年09月04日 | ブログ
経営

 英訳すれば「マネジメント」となる。ドラッカーではないが、これを解説すれば一冊の本になる。定義を問われれば「事業を営むこと。企業の管理・運営である」*2)程度に答えて間違ってはいないと思う。しかし、ドラッカーはその著書の冒頭に、「マネジメントは企業だけのものではない」とし、『市の水道局や大学など企業以外の組織におけるマネジメントの欠如が大問題となっている』*3)と述べている。また、事業とは言えない学校や企業内の同好会活動であっても、「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」ではないが、それを目的に沿って成立させ継続させておれば、それも経営であり、国家の運営も経営である。従って、この定義だけでは経営を十分に網羅しているとは言えない。

 経営とは、「組織体がその目的を達成し成立させ、継続するための運営を適正に行う仕組み作りであり、方策である」のように定義したい。そして経営を成立させるためには、当然経済的な基盤が必要であり、利益を出すことを目的としない例えば市の水道局や有志による同好会活動にしても、受益者負担と運用のための経費のバランスを図らねばならない。企業体であれば、経営概況には当然に売上高や利益額の推移への考察が必要になる。

 兎角「親方日の丸」と揶揄されるように公共事業では、その運用が問題になる。「民間では考えられないお金の使い方だ」などとよく聞くけれど、それなら民間企業が、本当に適正な資金の運用を行っているかと言えばそうでもなかろうと診る。

 企業は創業者の夢、理念に始まり、経営ビジョンから中長期計画、年度計画とブレークダウンさせて運用される。経営理念に、お金儲けのためにこの事業を行いますとする企業はなかろうと思うが、企業であればやはり収益が出なければ消えてゆくしかなくなるから、適正な利益を継続して出すことは必要かつ不可欠である。

 利益を生み出す仕組みが、ビジネスモデルであり、どのような事業を展開するかが事業ドメイン(事業領域)である。列車を単なるお客を運ぶ運送会社と考えれば、JR九州のななつ星観光列車は思いつかない。またどうすれば競合他社を凌ぎ利益を拡大できるかの策が経営戦略であり、事業ごとの事業戦略があり、企業内部の機能を最大限に効率化するための機能別戦略がある。

 決算書は、これら事業の年度毎の通信簿である。何段階で評価するかは勝手だけれど、目標との差異がなぜ生じたのかを考察し、次のアクションに繋げねばならない。すなわち経営はPDCAの繰り返しとなる。また、若い企業は創業者を筆頭に情熱によって業績を向上させる。しかし、組織が大きくなり全体として安定してくると官僚化して*4)、時代の変化に感度が悪くなる傾向がある。企業経営には、内部資源をフル活用しながら外部環境に適応した変革が常に求められるのである。



*2)新修広辞典第4版、昭和57年、株式会社集英社刊
*3)上田惇生訳、P.F.ドラッカー著「マネジメント(エッセンシャル版)」2001年ダイヤモンド社刊
*4)「会社は夢で始まり、情熱で大きくなり、責任感で安定し、官僚化でダメになる」エルピーダメモリ社長兼CEO(当時)/坂本幸雄氏の言葉。2005年日経フォーラム世界経営会議。
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経営を診る第1回

2015年09月01日 | ブログ
診る

 形ある物を見る場合、視点を変えて多面的に見ないと全体像が捉えられないことがある。「群盲象を見る」など代表的なもので、また「円錐は真上や真下から見れば円に、横から見れば三角形に見える」というのもよく使われる比喩だ。

 人を診る場合は感情が入ることが多いのでやっかいだ。好きなタイプであれば「あばたもえくぼ」だけれど、嫌いなタイプなら普通の所作や当たり前の口上さえ不愉快に思えたりする。さらに性別、人種、お金持ちか貧乏か、学歴や経歴、家柄、有名か無名かなど客観的と思える評価でさえ、それらに囚われると本質を身損なうことがある。診る側の欲得が絡むとさらに診る目が曇る。詐欺師の餌食にされる危険さえある。

 何を診るにも自分なりの見方があるもので、その癖がその人の人生の幸、不幸を大きく分けるように思う。ある人は、『真の意味における教養というものは、女性にとっては男を見る目、男性にとっては女を見る目ということにつきる。なぜかといえば、人間の幸不幸は、結局はその選択につながるからです。』*1)と言っている。

 国民の政治や政治家を診る目などは、国民個々の判断の総和が、国の政治に現れるから、国民のものを診る目のレベルが国家のレベルとなり、国家の命運を分ける。無責任で偏ったマスコミに扇動されて、「一度変えて見よう」で明らかに失敗していながら、喉元過ぎればで「安保法案を戦争法案」と断じ、徴兵制にまで行きつくような論評を支持するようではこの国は危うい。

 企業診断は人の健康診断にも喩えられたりするけれど、医師の診断は、問診、触診、聴診などから血液検査やX線やエコーなど機器による検査と進むが、企業診断も経営者への問診から始まることが多い。ここでは経営ビジョンから経営計画、人事制度、マーケティング戦略、決算書などからの売上高や利益の推移、財務状況などが問われるけれど、加えて企業の現場を見せて貰うことも重要である。

 ところで、診断士にやたらと専門分野を問う方が居るが、確かに経営コンサルタントとしての商売上は、専門分野を絞って特化した方が、企業側から見て分かり易く依頼し易いということはあろうが、診断士そのもののスキルは、経営のある部分に特化したものではなく、企業を総合的に診て、問題点を指摘し改善を支援するジェネラリストである。

 診断士資格を取るまでの経歴、経験、自己啓発分野の異なりによって、当然得意分野や得意業種などが分かれることはあり、そのことでコンサルタントとして専門分野を特定することは勝手であるけれど、中小企業診断士は医者に喩えれば町の内科医的なところがある。町医者は大きな病気を発見すれば大学病院など、さらなる専門医を紹介するけれど、診断士にも専門家に繋ぐという仕事がある。

 「診る」とは、目でみる、舌でみる、手でみる、聴く、感じるなど五感を総動員して評価することであるが、各種データを読み解く能力を加えて、診断士には企業経営を診る目の確かさが求められる。



*1)扇谷正造著、「君よ朝のこない夜はない」1984年、株式会社講談社
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