中小企業診断士 泉台経営コンサルタント事務所 ブログ

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品質保証再考第19回

2010年03月28日 | Weblog
生産

 先日、テレビ東京開局45周年記念ドラマ、浅田次郎原作「シューシャインボーイ」を観た。東京大空襲で焼け野が原になった東京で、戦争孤児になった主人公が靴磨きから身を起こし、現代に実業家として成功している。主人公は多くの食品加工工場を持つ食品製造会社の社長。社長は、毎日各工場の現場を回って、製品への異物混入を徹底排除する取組みを実践している。口に入るものを作っているのだからと、消費者の絶対安心をモットーに、信用第一で会社を大きくしてきた。現在の事業のきっかけとなる弁当屋を始めた時から一緒に苦労してきた、食品素材供給業の企業でさえ、産地偽装の食品を納入したとして一切の取引を停止する。これらのことはドラマの主題ではないが、食品業界の品質管理の取り組みの厳しさの一端を見せていた気がして、共感するところが大であった。

 どのような業種であれ、生産現場は過酷である。というより、それだけ絶対的な真摯な取り組みを必要とする。品質、納期を確実に守りながら、働く人々と設備の安全を確保し、厳しい原価管理を要求される。また、新たな市場のニーズに応える製品仕様変更による、原材料の変化や工程変更にも対応する必要がある。同じように作っているようで、日々刻々経験を積むことで得られる工夫を、コスト低減につなげていかなければならない。緩めば落伍してゆく。

 それらのために、どのように生産活動を管理してゆけばいいのか。ガイドブックには、まず「工程管理計画の作成」として、QC工程表の作成や作業標準の作成を挙げている。何度も繰り返すけれど、工程が安定していなければ、出荷検査だけで品質を保証することは出来ない。続いて「生産準備・工程設計の妥当性確認」を挙げているが、ここまでは生産準備・工程設計のプロセスに重なる部分である。

 生産が開始され「初期流動管理」が始まって真に生産プロセスとなる。航空機などでもパイロットは発着陸に最も神経を使うと聞く。生産設備にあっても開始されて定常状態に入るまでは、特に入念な点検を必要とする。

 定常状態を確認できれば、通常の工程管理と工程改善に移る。本稿第13回の「日常管理」で述べたけれど、改善業務は事前に計画されたもの、すなわち方針管理としてあがっているものもあるけれど、日々の業務の中で発生する問題や不具合を、その場その場で解決を図らねばならないものも多い。また従業員の作業管理として、技能レベルを向上させるための教育や、思わぬヒューマンエラーを防止する施策も検討しなければならない。

 「設備管理」、「計測管理」など、現場の運転監視業務に加えてメンテナンス担当者による保守点検も必要となる。加えて部品や原材料や添加物の取り違えを起こさない取組みとしての「識別管理」が重要である。また、この製品は、どの材料を使い誰がいつどの設備で作ったものかなどを追跡できるトレーサビリティを確保するためにも「識別管理」は必要となる。

 安全は、人と設備と社会的信用を守るために生産活動の前提となる。また、企業は有害物質、騒音や振動の発散を最小限に抑える義務がある。最近ではCO2排出量削減のためのエネルギー削減が大きな課題である。

 生産現場で働く人々は、いわば指示された定型業務をこなす一般従業員がほとんどだけれど、従来日本のものづくりは、ここで働く人々の熱意と創造力と感性に支えられてきた。現場から日々あがってくる情報ほど、プロセスの進化にとって重要なものもないのではないか。

 品質保証プロセスは、この後、「調達」、「物流」、「販売」、「アフターサービス」、「回収・廃棄・再利用」、「サービス設計」そして「サービス提供」さらに「品質保証システムの構築と改善」と続く。本稿第11回「品質保証体系図」で、「ガイドブックは、本文1,216ページから成るゆえ1,216分の1の品質保証体系図であるけれど、・・・」と書いたけれど、「品質保証システムの構築と改善」の章にはより詳細に品質保証体系図を取り上げている。

 今回の品質保証のプロセス「生産」までで、ガイドブックのまだ133ページしか進んでいない。またの機会に引き続きガイドブックを頼りに品質保証を語ってみたい。


本稿は (社)日本品質管理学会編2009年日科技連刊“新版品質保証ガイドブック”を参考にしています。

品質保証再考第18回

2010年03月25日 | Weblog
生産準備・工程設計

 品質保証プロセスの4番目に、「生産準備・工程設計」が来る。次に来る「生産」プロセスと併せて、狭義に捉える品質管理の中枢部分と考えられる。『製品がねらいにどれだけ一致しているかは「合致の品質」と呼ばれるが、「生産」において合致の品質を保証できるようにすることが、生産準備・工程設計の重要な役割となる』。また、『品質保証のための原則の1つに「プロセス重視」がある。これは「品質は工程で作り込む」という思想であり、・・・不良を発生させない工法や工程、不良を流出させない工法や工程を開発・編成することである』。

 この生産準備・工程設計のプロセスの最初に来るのは、内外製方針の検討である。開発された製品・商品を自社の生産設備で作るのか、外注に委ねるのかという検討である。自社の設備に生産能力的に余裕がない場合や、技術的に困難なケースに所謂OEMとして、全面的に外注することになる。また、生産工程内の一部の工程を外注に出すケースも多い。金属工作を得意とする企業が製品の樹脂部分の成型をその専門メーカーに委託したり、メッキなど特殊な工程を必要とする場合など、その専門企業に委託する方が手っ取り早いことが多い。しかしこれらでは、単に原材料や部品を購入すること以上に、委託先の技術力の評価や品質、納期、原価等の厳しい管理と、より緻密なコミュニケーションが必要となる。

 次に、生産システム設計・工程編成となるが、このためには生産の流れをまずフロー図に表し、その後QC工程図に仕上げる。フロー図に添えて工程ごとの管理項目、特性値、計測器、管理頻度(間隔)、管理方法、管理者と関係帳票などを記載する。以前にも書いたけれど、QC工程図は現場で活用できるものを作りたい。詳細なものはマスターとして作成し管理すれば良い。ポイントは、管理項目の特性値が基準を外れた際に、フィードバックする工程を示しておくことである。通常フロー図の中に菱形でチェックポイントを入れて、OKなら下方の次工程へ、NOなら上方のフィードバックすべき工程へ矢印を伸ばしておくことである。

 そして量産試作を行い、工程能力を把握する。この”能力”には当然に生産量も含まれるけれど、品質管理の面で工程能力といえば、継続的に規格に対する適合品を生産する能力をいい、工程能力指数であるCp*11)やCpk*12)によって評価された*13)能力をいう。これについてガイドブックは、第3部「品質保証のための要素技術」の項で詳細に説明している。規格幅に対する、製品特性値のバラツキの余裕度と考えてよい。財務管理で言うなら損益分岐点比率のようなものだけれど、CpやCpkが大きくて品質に余裕があれば良いといったものでもない。コストとの兼ね合いからも過剰品質に注意が必要である。

 さらに工場での量産に向けて、トラブルの予測と対策や不良品の流出を防止する検査工程の設計が必要である。

 ガイドブックは、ここまでの商品企画から生産準備に至る開発期間の短縮のため、コンカレントエンジニアリングを推奨しているが、これは、後工程のメンバーがより前工程に遡って早い段階から連携した活動を進めることで、品質の作り込みに寄与できるためとしている。作り易い製品構造への提案は品質問題の発生を抑え、品質保証に大きく寄与するのである。


*11) Cp=(SU-SL)/6s(両側規格の場合)SU:規格上限値 SL:規格下限値
   Cp=(SU-x)/3s(片側上限規格の場合) s:データの標準偏差
     x≧SU のときは、Cp=0とする x:データの平均値
   Cp=(x-SL)/3s (片側下限規格の場合)
     x≦SL のときは、Cp=0とする
*12) Cpk=(1-K)(SU-SL)/6S (両側規格カタヨリを考慮する場合)
     K=[(SU+SL)/2-x]/[(SU-SL)/2]  Kは絶対値
     K≧1 のときは、Cpk=0とする
*13) 1.67≧Cp、Cpk≧1.33 工程能力は十分である。
   1.67≦Cp、Cpk  管理の簡素化やコスト低減の方法を考える

本稿は (社)日本品質管理学会編2009年日科技連刊“新版品質保証ガイドブック”を参考にその一部を引用(『 』内)しています。

品質保証再考第17回

2010年03月22日 | Weblog
製品設計

 製品のコストは、設計段階で決まる。一方で製造物責任や環境技術対応が強く求められ、製品設計から生産までの大幅な期間短縮も要求される。課題は常に背反するところに存在する。また現在では、ますます多様化・複雑化・大規模化しているソフトウェアが、製品の中でその果たす役割が重要となっており、その設計の品質が重要となる。

 今回のトヨタプリウスのブレーキの問題のように、ソフトウェアに係る部分の不具合であったとすれば、その再現性が難しいため、「(運転者の)フィーリングの問題」とか「短時間(ブレーキが)利かなくなるという現象だが、踏み増せばクルマは確実に止まる」*10)のように、当初トヨタ幹部が発したようなコメントになり易く、問題を拡大させる。

 我々人間の脳細胞のメカニズムも一種のソフトウェアで、電気信号で操られているようだけれど、その所為かどうか赤信号と青信号の識別さえ、万に一つは取り違えたりする。その確率は適度な緊張感を持って運転することで桁違いに減らせる筈であるけれど、高速道路を横切る高圧電線の手前何メートル付近では事故が多いとかいわれるような、各種電磁波の外部からの影響は十分には捉えられていないのが現実ではないか。

 どこまで行っても、元々物事に絶対はないが、不具合の確率を百万分の1、一億分の1、さらに一兆分の1へと減少させる緒策が必要である。『その実現のためには製品設計のプロセスを確立・刷新し、適切に管理することが必要不可欠となる。』
 
 また、ハードウェアとソフトウェアで設計プロセスは異なるが、『これらの製品設計プロセスの品質保証を確かなものにするには、市場調査・企画、研究・開発のステップを経て提示される“製品開発指示書”に合致する「設計」を効果的・効率的に生み出せるように“製品設計のプロセス”の計画と管理を進めることが重要である。・・・両者の製品設計プロセスを別々のものとして捉えるのではなく、密接に連携するものとして扱うことが重要である。』

 これらに続いて、ガイドブックは「製品設計の品質マネジメント」や「トラブル予測と未然防止活動」として、設計の段階ごとにポイントを述べている。要は、市場の要望を十分に取り入れた指示書に基づき、設計に必要な技術的な課題の解決を図りながら、製品の信頼性、安全性をどのように担保するか。また原価目標を管理することで、機能とコストを両立させる価値工学(Value Engineering:VE)の大切さについても触れている。


*10)日経ビジネス2010年2月15日号

本稿は (社)日本品質管理学会編2009年日科技連刊“新版品質保証ガイドブック”を参考にその一部を引用(『 』内)しています。

品質保証再考第16回

2010年03月19日 | Weblog
研究開発

 品質保証プロセスの2番目に来るのが、この研究開発である。まさに品質保証や品質管理の領分からは遠く外れた、別領域の話に思えるけれど、『研究開発により、適切に製品化を図り、それを商品として市場に投入し、顧客に価値をもたらすことが研究開発の目的であるが、それを確実に実現するためには品質保証の考え方が導入されなければならない』とガイドブックは述べている。

 すなわち、研究開発にあっても、そのプロセスの管理が重要であり、テーマの選定、研究開発の進捗管理、成果の確定、成果の事業化、商品化へのフォローアップなど「研究開発の評価」が品質保証や品質管理の考え方に重なるからである。その具体的な評価の方法について、ガイドブックは次のように述べている。

 『チェックリスト法や評価基準に沿って主観的な評価を行う、「決定論的評価方法」。研究開発の投入費用と成果との対比を求めるなど、経済的効果を算出する評価手法である、「経済論的保評価方法」。シュミュレーション、関連樹木法などOR*8)手法により、研究開発活動で発生する諸事象を数学的モデルに表現し、将来を予測し、研究開発の評価を行う方法である、「OR的評価法」。これらの手法は単一で使用されるのではなく、目的に合わせて複数を組み合わせ、使用される、「複合的評価法」』である。

 『研究で生まれた科学技術の知識を生かして新製品開発から商品化にいたるプロセスは、研究(基礎研究、応用研究)⇒開発⇒設計⇒製造⇒販売⇒サービス、というリニアモデルとして説明されている。しかし、このモデルに沿って研究開発や製品化を進めても、途中で挫折するケースが少なくない。・・・研究から開発の間、開発から製品化・事業化の間には、必ずしも順調に乗り越えることができないボトルネックがあることが米国で指摘され、これは「死の谷」と呼ばれた。このような死の谷をいかに克服するかが研究開発のマネジメントとして求められ、そのために「ステージゲート管理*9」」というコンセプトがR.クーパーにより開発され、普及した。・・・』

 研究開発マネジメントでは、その予算管理も重要と思われる。工場などの原価管理に比べて、研究者のコスト面の意識は甘く、それに対する管理も放任状態であったりする。企業が多様で専門性の高い人材を外部に求めた場合、その管理をさらに難しくする。研究にはお金がかかるとの先入観で無駄な出費がされるとすれば、研究以前の問題である。

 ある時期から、人材の市場化、流動化が強調され、一定のスキルを持った技術者の大手企業の渡りが、バブルの時期とも重なって肯定された。GEのウェルチ氏の活発なM&Aによる成功や、彼の人材活用思想が90年代以降日本の経営者に安易な模倣となって影響を与えた。勿論技術者にとっても相性の悪い企業で定年まで暮らす必要はなく、新たな機会を求めることは当然であり、企業側の外部人材導入による刺激や多様性の追求も結構であるけれど、研究のプロセスの管理と共に、コアとなる技術者人材はやはり自社で育てる気概が企業には求められる。


*8)オペレーションズ・リサーチ(operations research、米)、ORは、数学的・統計的モデル、アルゴリズムの利用などによって、さまざまな計画に際して最も効率的になるよう決定する科学的技法。複雑なシステムの分析などにおける意思決定を支援し、また意思決定の根拠を他人に説明するためのツールである。                                  *9)研究開発の一連のプロセスをいくつかのステージに分割し、各ステージで行うべき活動を明確にするとともに、ステージ間にゲート(チェックポント)を設定して、必要な条件や品質保証を満たさないと次のステージに進むことができない。                                 *
本稿は (社)日本品質管理学会編2009年日科技連刊“新版品質保証ガイドブック”を参考にその一部を引用(『 』内)しています。

品質保証再考第15回

2010年03月16日 | Weblog
市場調査・企画

 品質保証プロセスは、この「市場調査・企画」に始まる。企業経営の体系をその分野別にみると、この「市場調査・企画」は、品質管理や品質保証というより、「マーケティング」分野に属するとみえる。また調査においては統計学の手助けも必要とする。もっとも品質管理も統計学そのものが、その理論の中枢にある。先に、品質保証の歴史を述べた際、それがマーケティングの変遷と重なることを指摘したけれど、まさにここでも品質保証、品質管理とマーケティングは相重なる。それは、良い製品をお客さまに届けるという共通の目的を持っているからであろう。

 『市場調査・企画はすべての品質保証活動の第1段階と位置づけられる。その後、開発設計→生産→販売・サービスのあらゆる活動の内容を具体的に方向づけるため、非常に重要である。出発点であり、ここでどのような商品を作り、販売するかがほぼ決定されるため、それ以降の活動の成否を大きく左右する。なお、ここでいう「商品」とは、ハードウェア、情報などのあらゆる形態のものも含む』。

 『市場調査・企画の役割は次の3つに集約される。①市場調査:情報を集め、顧客のニーズを着実に把握する。顧客が何を考え、何を望むのか。これを正確に、しかも深いレベルで知ることがすべての出発点である。②商品企画:独創的な発想で新たな商品の創造・提案を行う。顧客の期待したとおりの商品を提案するのではなく、一歩先の商品、他社が思いつかないレベルの独創的な商品を考案し、顧客にとって最適な商品イメージに集約して提案する。企画ではもちろん商品企画がその中心となるが、販売・アフターサービスなどの企画も総合的に立案すべきである。顧客は商品の価値を常に「商品+販売・アフターサービス」の複合体として総合的に捉えるからであり、すべてにおいて満足しないと反復購入してもらえない。特に耐久消費財やサービス商品においてこの傾向は著しい。③開発設計以降に関する計画の立案:企画を実現する計画を立てる。企画を実現するための設計開発・生産・販売・サービスの大まかな計画を策定する』。

 さらにガイドブックは市場調査や商品企画具体的な方法論まで解説している。「商品企画7つ道具」*6)の括りがあり、その名があることは、私もこのガイドブックで初めて知った。そして商品企画の目標には、「感動商品」すなわち顧客が感動して、価格を度外視して購入したくなるレベルの商品をあげているけれど、これなどもマーケティングにおける製品戦略に重なる。ただ、マーケティングでの価格戦略における、ブランド商品や高級化粧品などに見られる、いわゆる「名声価格」*7)などという市場との駆け引きや低価格競争に見られるような競合との凌ぎ合いは、品質保証の領分にはない。しかし、原価や納期管理の重要性は問われており、まさに感動商品を採算性の中で作り込んでいけるかの管理技術が問われている。より純粋に顧客と対峙するのが品質保証や品質管理の真骨頂であろう。


*6)①インタビュー調査、②アンケート調査、③ポジショニング分析、④アイデア発想法、⑤アイデア選択法、⑥コンジョイント分析、⑦品質表 の7つ
*7)商品のステータスを保つために、敢えて高価格に設定された価格

本稿は (社)日本品質管理学会編2009年日科技連刊“新版品質保証ガイドブック”を参考にその一部を引用(『 』内)しています

品質保証再考第14回

2010年03月13日 | Weblog
品質保証のプロセス

 「新版品質保証ガイドブック」にそって品質保証や品質管理について考えているけれど、ここからガイドブックの第Ⅱ部に入る。第Ⅰ部で学んだ品質保証の基本をベースに、各項目の詳細解説がされることになる。新版品質保証ガイドブックは第Ⅰ部から第Ⅳ部で構成されていることはすでに述べた。ここからの第Ⅱ部は、「品質保証のプロセス」となるが、これは企業・組織が行っている品質保証のための活動を、「プロセス」から捉え、それぞれのプロセスにおいてどのような品質保証活動が必要になるかについて述べられている。第Ⅲ部は、品質保証のもう一つの捉え方である「要素技術」に着目し、これを解説している。第Ⅳ部は、「主要産業における品質保証」であり、家電、半導体から航空宇宙分野、福祉、教育、行政分野まで産業別の品質保証について述べている。

 「プロセス」とは本稿「品質保証体系図」の回*5)で解説した、市場調査に始まり製品開発から、試作、生産、販売、アフターサービスなど、一連の業務の流れ、段階である。一方「要素技術」とは、品質機能展開、問題解決・課題達成法や統計的品質管理など、品質管理の歴史の中で開発されてきた数々の管理手法の解説となる。また、この中には「ソフトウェア設計技法」や「ソフトウェア検証・妥当性確認技法」など一昔前には見られなかった技法もある。

 ここで3つのマトリックスが生まれる。すなわち「プロセス」と「要素技術」の組み合わせ、「プロセス」と「産業分野」の組み合わせ、および「産業分野」と「要素技術」の組み合わせである。各プロセスでどのような要素技術が使われ、また品質保証のために必要なのか。またそれぞれの産業分野で必要な要素技術とは何かなど、ガイドブックに記述の有る無しとして、巻頭に3種のマトリックス図として記載がある。

 ここからの品質保証や品質管理の詳細について、すべての内容に精通することは容易ではない。やはりガイドブックを手元において、必要の都度該当箇所を読み返すことが望まれる。しかしながら、折角のこのガイドブックがどれだけ普及しているかは、若干心細い。

 以下本題から外れるのだけれど、今年1月、新版品質保証ガイドブック出版記念シンポジウムが、東京都杉並区高円寺の日科技連で開かれた。146名の出席があり、会場は満席であったのだけれど、事務局からは、「出席者の所属する企業・団体または個人のうち、新版ガイドブックを購入しているのは21件で、本日購入申し込みをしたのはまだ1件に留まっている。」という購入を促す話があった。

 私などの世界でも類い稀な弱小経営コンサルタント事務所でさえ、いち早く予約購入したものを、シンポジウムに参集した識者とおぼしき面々やその所属団体でさえ、そのうち僅か15%しかガイドブックを購入していないことは、現在日本の知的投資への窮乏を象徴しているのではないか。その後の販売状況は分からないし、私の口を挟む問題でもないかもしれないけれど、品質王国日本に油断があるようで侘しい想いがする。


*5)品質保証再考第11回
本稿は (社)日本品質管理学会編2009年11月、日科技連刊“新版品質保証ガイドブック”を参考にしています。

品質保証再考第13回

2010年03月10日 | Weblog
日常管理

 前節「方針管理」と対を成すのが「日常管理」である。方針管理は、中期短期の経営方針を効果的に達成するために設定されるものであるけれど、日常管理は、年度方針に左右されない部門固有の業務を管理する。

 ここで、一般的な企業の業務を整理してみる。企業は経営理念に始まる。経営理念達成の方策として、企業戦略(経営戦略)がある。企業戦略は、自社の事業領域(ドメイン)を定め、経営資源を適切に配分することにより、競争優位性の源泉としてのコアコンピタンス(中核能力)とシナジーを追求することである。企業戦略に基づいて、中期経営計画が立てられ、その年の年度計画(年度予算)につなげていくけれど、計画達成に向けた企業の業務は、日常管理業務と方針管理業務に分かれる。

 典型的な日常管理業務は、「維持の業務」である。現在の事業を日々粛々と行うことである。一方、典型的な方針管理業務は、「変革の活動」である。これには戦略的課題に対応するものと開発型課題に対応するものが考えられる。企業は常に経営革新を行ってゆかねば継続できない。技術は進歩し、市場は変化を続けるからである。

 「維持」と「変革」の間に「改善の業務、改善活動」がある。これは日常管理業務にも方針管理業務にも跨る業務および活動である。維持の業務は定常業務だけれど、その中でも日々問題は発生するし、維持するために改善が必要なこともある。日常管理業務としての改善活動は、わが国では小集団活動や改善提案活動などによって効果的に行われてきたことは周知の通りである。一方、方針管理業務としての改善活動または変革活動は、専任の開発部門のほかプロジェクトチームやタスクフォースなど、トップダウンで臨時に編成された組織が、期間を定めて取り組むことも多い。

 ガイドブックの645ページ第Ⅲ部第27章に載っている、「方針管理」の解説を前節で紹介したが、そのページに『日常管理は、SDCA(Standardize-Do-Check-Act)を回し、現在の水準を維持するための活動である。それぞれの職場における役割(業務分掌で示される場合が多い)について、業務の進め方の標準と業務の出来栄えの基準を設け、基準を大きく逸脱するような事象が発生した場合に、その原因を追求して是正し、現状を維持できる仕事の進め方を確立していくものである。』とある。

 方針管理は、経営者から部課長クラスまでが担当するが、日常管理は一般従業員から職長、係長くらいまでが担当することになる。しかし、その日常管理の出来栄えが顧客の評価、信用に直接つながっていく。日常業務を抜かりなく遂行するために、標準化と共に、教育・訓練が重要であることは言うまでもない。



本稿は (社)日本品質管理学会編2009年日科技連刊“新版品質保証ガイドブック”を参考にその一部を引用(『 』内)しています。

品質保証再考第12回

2010年03月07日 | Weblog
方針管理

 新版品質保証ガイドブック(以下、単に「ガイドブック」とする)第Ⅰ部第4章は、「品質保証の組織的推進」である。この章に「方針管理」についての解説がある。

 『多様化する顧客ニーズと変化する経営環境に対応するためには、トップマネジメントの強い使命感と強力なリーダーシップのもと、適切な戦略を立て、それにもとづく具体的な実施計画を展開し、その運営管理を効率的に行う必要がある。「方針管理」は、このような取り組みを組織的に推進するための活動である。ここでいう方針とは、トップマネジメントによって正式に表明された、組織の使命、理念およびビジョン、または中長期経営計画の達成に関する、組織の全体的な意図および方向づけであり、
 1)重点課題:組織として重点的に取り組み、達成すべき事項 
 2)目標:方針または重点課題の達成に向けた取り組みにおいて、追求し、めざす到達点 
 3)方策:目標を達成するために、選ばれる手段 
の3つを含むのが普通である。「方針を上位から下位に展開する」ことで、方針(ねらい)と現状とのギャップが明確となり、各部門・各担当者が取り組むべき課題が明確になる』とあるけれど、加えてうまくいっているかどうかを判断する尺度となる「管理項目」が入る。

 ここで、「方針の上位から下位への展開」を具体的に説明するために、ある企業X社の重点課題の一つが「売上高の向上」であった場合を想定する。その売上目標額が仮に5億円とし、X社にはA製品部門とB製品部門、他があり、A製品部門はそのうち3億円を賄うことにする。A製品部門の現在の売上高が2億5千万円であれば、A製品部門は5千万円の売上増がその目標となる。このような課題では管理項目は売上高そのものだから分かりやすい。また、X社として売上増のための方策が、トップセールスの実行や新製品の市場投入だった場合、下位のA、B、他各部門では、有効なトップセールスのためサポートや、自部門で開発中の新製品の開発スピードをあげることが課題となり、部門の方策として具体化することが求められる。

 また、方針管理のしくみは、『中長期の経営計画にもとづいて組織全体の年度方針(または期方針)を設定し、これをもとに上下、左右の部門・担当者が密接な話し合いを行い、より具体的な課題・実施計画へと展開する。年度(期)の途中では、管理項目を用いて各々の課題への取組状況を定期的にフローし、必要なアクションをとる。年度末(期末)には実施計画を総合的に反省し、次期の方針管理につなげる』とある。

 「方針管理」は、ガイドブックの645ページ第Ⅲ部第27章にも取り上げられており、そこでは『方針管理とは、組織の使命・理念・ビジョンにもとづき出された経営計画をもとに、全部門・全階層の参画のもとでPDCA(Plan-Do-Check-Act)を回し、目的・目標を達成する活動である。方針に関する個々の課題への取り組みは、テーマの選定、現状把握、目標の設定、要因の解析、対策の立案・実施、効果の確認、標準化と歯止めなど、基本的にQCストリーに準じて進められる』と解説されている。

 このように方針管理は、品質管理の考え方から生まれたけれど、上記X社の架空事例ではないが、その課題の取り上げ方によっては、必ずしも当該企業の製品品質を保証するものとはならない。企業の永続的な発展のために、常に品質第一に考えた重点課題を盛り込むことが重要である。


本稿は (社)日本品質管理学会編2009年日科技連刊“新版品質保証ガイドブック”を参考にその一部を引用(『 』内)しています。

品質保証再考第11回

2010年03月04日 | Weblog
品質保証体系図 

 新版品質保証ガイドブックは第Ⅰ部から第Ⅳ部で構成され、第Ⅰ部の第3章3.3項「品質保証にかかわる原則」が、14項目のいわゆる私の言うTQCの考え方である。その次の3.4項に、小題の「品質保証体系図」が解説されている。ガイドブックの27ページ目である。

 私はこれを非常に重要視している。大手の企業であれば、またはISO9000の認証を受けている企業であれば、当然に作成しているであろうけれど、私は社長と従業員1人という町工場でもこの作成をお勧めしたい。またすでに作成している企業では、単なる体裁だけになっていないか見直してみる必要があるのではないか。
   
 まず、自社の業務をフロー図にしてみる。2人の工場では、営業も製品開発も、検査も経理さえも皆一人でやっていると社長さんはいうかもしれないけれど、自社の組織のその機能分けの認識がまず重要である。そして、業務フローに、万一納入した製品に対して客先からクレームが来たときに、どのようなシステムでこれに対応するのかを入れる。市場調査は納入先から要望に依存していても構わない。そこに始まってクレーム処理に至る組織内の業務フローを実際に書いてみる。業務フローからお金のやりとりを外せば、品質保証の仕組みとなる。

 これを、品質保証体系図に表すには一定の様式がある。まず、企業の機能を体系図の上辺に並べる。左端を「顧客」として、順に顧客に近い組織部門から並べる。生産部門の前には品質管理・検査部門がくる。右端は、原材料の購買先や外注先となる。左辺は上から業務の流れの順に、調査・企画に始まって、開発試作、(生産準備)、生産、販売とくる。業務は四角で囲って示すけれど、複数の部門に跨っている場合も多いからその範囲を四角を横に伸ばして示し、業務の流れは、矢印で下方に進める。これを文書として管理するが、管理には適宜見直しをかけることが当然含まれる。

 製造業であれば、フロー図の中の生産の部分はさらに「QC工程図」に落とし込んでみる。「QC工程図」のことは、ガイドブックにも後で出てくるのだけれど、言いたいことをここで述べれば、品質保証体系図もそうだけれど、品質管理本に出ている見本に習って作成することは基本ではあるけれど、作成者が工夫して自社に合ったオリジナルなものを作ることである。事細かい綿密なだけの分かりにくものを作って喜ぶ人もいるけれど、そんなものは現場では誰も見ない。ISO監査員に感心されるくらいがいいところである。私が言う「品質保証体系図」や「QC工程図」は現場で使える、見て楽しい分かりやすく実用的なものである。

 「品質保証体系図」を作成することで、業務の流れの無駄やシステムの欠陥が見えてくる。またこの時代、情報伝達の電子化は進んでいると思うけれど、実際はどうかの現状把握としても有効となる。紙やFAXでやりとりしている情報のうち、パソコン間のやりとりにできるものはないかなど、意外と行えば容易(たやす)いことが、昔のままの非効率なやり方になっていることが分かったりする。また、「品質保証体系図」は新たな顧客にも提示して、自社のアピールとも成り得るものなのである。

品質保証再考第10回

2010年03月01日 | Weblog
「分けることは分かること」 

 ガイドブックの「品質保証にかかわる原則」すなわちTQCの考え方は、前回までに紹介した14項目。しかし、TQCの考え方は、その他いろいろなバリエーションがある。書物によって、すなわち学者によって項目の取捨選択が少しづつは異なる。ガイドブックにはないけれど、TQC等の解説書にみるその考え方には、「品質第一」、「目的志向」、「自責で考える」や「知識の共有化」と今回の表題にあげた「分けることは分かること」などが見られる。結局は同じような考え方なのだけれど、表現を変えたに過ぎないと考えて大きく間違いはなかろうと思う。

 ただ、「分けることは分かること」は、考え方というより問題解決手法の一つの拠り所であり、所謂「層別」の効能を言ったもので少し毛色が異なる。しかし、これを本稿の小題に上げたのは、TQCにおける問題解決法の最も初歩的なもののようであり、それでいてこれほど核心をつく問題解決法もなかろうと考えるからである。

 「層別」そのものは「QC7つ道具」のひとつに入れられたり、外されたりする。外す理由は、他の7つ道具全ての手法にも必要な共通するものだからということであるようだ。どうも「層別」にも広義と狭義の解釈があるようだ。狭義に解釈した場合はQC7つ道具のひとつであり、広義に解釈すれば「分けることは分かること」となってTQCの考え方のひとつになるのではないか。

 とにかく、何か問題に出くわした時、その解決への取り組みの拠り所として、この考え方を持っているかいないかで、大きな差があることは確かだと思う。
 
 よく使われる層別の例として、人に関するものでは、担当者別、経験別、年齢別、男女別などあり、機械・工具では、メーカー別、型式別、新旧別などあるし、原材料・部品にもメーカー別、購入先別、等級別、ロット別等々、その他作業条件である温度、圧力、方法、処理条件など、時間の中にも午前午後や週別、月別、期別、年別などなど、分けてみなければならないことは無数に近くある。これら品質に与える変動要因(パラメータ)同士の組み合わせを、結果データからヒストグラムで解析したり、散布図にとって関連を検索する手法はデータ解析の入口となる。

 また、部品の生産などの歩留まり向上に有効な方法として、不具合品の欠陥の種類分けがある。検査で不合格品と判断される要因は数々ある。不具合の種類によってそれを生む原因も異なるものである。検査時は合格品と不合格品を分けるだけでなく、不具合の種類分けもしておく必要がある。不具合に応じた原因探索を行い、対策を行えば歩留まり向上が見えてくる。まさに「分けることは分かること」なのである。