中小企業診断士 泉台経営コンサルタント事務所 ブログ

経営のこと、政治のこと、社会のこと、趣味のこと、人生のこと

泉台経営コンサルタント事務所

2025年04月09日 | Weblog
  東京都中小企業診断士協会会員
  千葉南法人会会員
  東京商工会議所会員
  

  清のブログ(77歳のひとりごと)
         


 
  
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

人事について考える第3回

2014年06月07日 | Weblog
人事戦略

 企業経営においてやたら「戦略」という言葉が氾濫した時期があった。外交の世界でも「戦略的互恵関係」などという言葉が登場したが、その関係は悪化の一途を辿っている。こちらは友好的にと思っても、端からその気のない国には「のれんに腕押し」「馬耳東風」「馬の耳に念仏」なのである。かの国は当初から、わが国を利用するだけ利用して経済成長を遂げれば、軍備を拡大、兎に角難癖をつけてその領土領海をせしめようという戦略であったのだ。

 外交問題は兎も角、企業経営において、戦略を立て方向性を明確に示すことは、「経営の見える化」の第一歩であり必要なことである。

 経営戦略には、事業戦略と機能戦略があり、人事戦略は財務戦略、生産戦略、開発戦略などと共に機能戦略のひとつである。事業戦略があって人事戦略もある。余力人材の活用のために新規事業を立ち上げることは有り得るが、組合対応の雇用確保でPPM*3)にいう「負け犬」事業をいつまでも継続することなど戦略とは言わない。

 人事戦略とは、雇用(採用)、賃金(報酬)、人事異動(配置)、教育(能力開発)、昇進昇格、定年制や年金制度、福利厚生など人事制度を、企業の成長戦略にマッチさせることである。不景気な時こそ新規に優秀な人材を雇用するチャンスだと捉える経営者もおれば、リストラ(人員整理)ばかり考える経営者もいる。どちらが戦略的思考かは云わずもがなである。人事システムは「顧客満足はまず従業員満足から」とのインターナルマーケティングを担う。ハーズバーグの言う、「動機づけ要因」*4)の充実であり、「衛生要因」*5)の改善である。

 近年は、中小企業にあっても海外進出が盛んとなっているが、海外事業においては、現地従業員への人事施策にさらに注意が必要である。2012年7月に起こったマルチ・スズキのインドマネサール工場での暴動は記憶に新しい。

 また、海外進出のための人材としてグローバル人材を求める声が多く聞こえるようになっている。島国で、他国に支配された歴史のない日本人は、従来一般的に外国語が不得手であった。そのため、グローバル人材と聞けば、すぐさま外国語に堪能な人材を連想するが、それほど底の浅い話ではないようだ。

 日経ビジネス6月2日号に、アビームコンサルティング株式会社が、一橋大学の楠木教授*6)と社長の岩澤氏の『日本企業が世界で勝つために「グローバル人材が育つ設計図づくりを」』と題するアドバトリアル*7)対談を載せている。この冒頭で楠木教授が『グローバル人材を端的に言えば、慣れ親しんでいない場所に行って、自分で商売を丸ごと動かせる「経営人材」のこと。外国語でのコミュニケーションや国際的な専門知識を持つことではない。・・・』と発言され、岩澤社長が『まったく同感です。いま日本企業が「グローバル人材が足りない」と言っている理由は明確で、海外売上比率が経営者の思ったほど伸びていないからです。・・・』と応えている。

 人事では、事業戦略に沿ってどのような人材をいつまでにどれほど確保するか。雇用の質が戦略達成の鍵を握る。新卒者か中途採用か、はたまた他社からの引き抜きまでを考えるのか。即戦力人材に重きを置くか、将来性に期待するのか。多くの選択肢を企業の資金力などの制約条件を考慮しながら最適解を求めてゆくことである。そして「人は人間社会で育てられて人間となる」と言われるように、企業人は企業で育てられる。当該企業における教育制度が加えて重要となるのである。
 



 *3)プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント:SBU(戦略事業単位)とPLC(製品ライフサイクル)を前提とし、事業の市場成長率を縦軸に、相対的市場占有率を横軸にとった各SBUのポジショニングチャートを作成し、事業のバランスを視覚的に捉えて各事業への資源配分を考察する手法
 *4)勤労意欲を向上させるもの。(達成感、仕事のやりがい、昇進など)
 *5)不足であれば不満となってモチベーションを減ずるが、良いからといってさほど勤労意欲の向上にはつながらないもの(労働条件、作業環境、人間関係、給与など)
 *6)楠木健(くすのき・けん)氏。一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授。専門はイノベーションの組織と戦略。
 *7)雑誌などにおいてPR内容が通常の編集記事とよく似た体裁で編集されたペイドパブリシティ(記事広告)の一形態。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

人事について考える第2回

2014年06月04日 | Weblog
現場の労務管理

 従前工場の人事課長といえば、工場部長級の羽振りがあった。労働組合対策に始まり、社員の健康管理から家庭の状況までを把握し、転勤を含む人事異動、昇進昇格などにも影響力を行使できていたように推察する。しかし、会社が大きくなり機能別組織から事業部制に移行してそれが定着してくると、人事権は各事業部長に移った。人事課長は工場の人事異動や昇進昇格セレモニーの祭司的存在となった。

 それによって大企業においては、社員の個人的事情等に精通するポジションは失われ、会社と従業員の関係のデジタル化が進んだように思う。能力主義、成果主義という建前で、総人件費の抑制が進んだ。企業年金制度の廃止、退職金制度の見直し、家族手当、住宅手当の廃止、人事担当部署が、人件費抑制くらいしか自分達の成果を示せなくなったからである。

 しかし、今また、人事制度は大きな曲がり角を迎えている。女性社員の活躍の場を提供することが義務付けられ、その昇進昇格にも配慮が必要となった。加えて育児休暇の充実も必要である。男性社員にあってさえ育児や老親の介護のために残業免除、転勤不可との配慮が必要となる時代である。パラハラ対策、ブラック企業という汚名を着せられないための労務対策も必要である。一方で政府は、成長戦略促進の一助のために新しい働き方を訴えて、労働時間規制の緩和に向けて歩を進めている。労働組合との折り合いが難しい。

 それにしても、NHKの「クローズアップ現代」でやっていた、奥さんが幼子2人を残して単身赴任。旦那が甲斐甲斐しく子供の面倒を見ていたけれど、現代の新手の喜劇にしか見えなかったものだ。公務における特殊な専門業務でもあるまいに、そこまでしての女性活用の成長戦略などいずれ破綻する。

 一方労働時間規制の緩和は必要であろう。現行の会社に残れば残業手当を貰える制度に社員間の不平等感はある。大企業出身の中小企業経営者の方が、そのことを問題視し、自社の制度を規制緩和の先取りした形で実行されているという話を聞いたことがある。確かに、時間内に成果を出して昇進(管理職登用)して増加する給料より、残業で稼ぐ人の年俸が遥かに大きいことも事実としてあった。

 ボーナス交渉時期にその増額を訴えていると、恒常的に残業の多い職場の社員は、ボーナス額など問題にしていなかったものだ。日頃から十分残業手当で稼いでいる。生活をボーナスに依存する部分が少ないのである。もっとも残業の一律25%の割り増し賃金は、あくまで本給ベースに算出されたもの、当然にボーナス分までを含まないから、正確には割り増しとはなっておらず、自分の時間を切り売りすることはやっぱり得なことではない。

 しかし、本来残業の賃金割増しは、例えば午後5時までの工場労働者に増産のため、今日は7時までラインを稼働させるからよろしくということで、手当で償いするもので、管理職でもない社員の裁量で長時間労働して割増賃金を得る性格のものではない。

 そこらあたりの労務管理は現場の係長や課長の担当であるが、現実問題難しい職場も多い。もっとも何かにつけて部下を叱れないパラハラとは対極にある上司もおり、ライン管理者が体を成していないケースも見て来た。古参兵に尻に敷かれた将校の類は、レベルの低い大企業には多いのではないか。時に政治の世界でも大臣と官僚の軋轢が伝えられ、ある時は大臣の無能が問われ、ある時は官僚の横暴が言われる。

 企業の場合のそれは、当然に現場管理者だけの罪ではない。会社が適切で具体的なルールを定め周知し、一定以上の残業が定常化する職場には、徹底した業務の見直しを検討させ、出来なければその職場の増員を図るべきなのである。もっとも会社は総人件費で管理し、残業手当増加分は昇給やボーナスを削ればいいとの目論みもあったように思う。残業手当が増大すれば、時間内で精一杯働く社員の本給やボーナスが割を食うことも有り得ることである。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

人事について考える第1回

2014年06月01日 | Weblog
人事と経営

 企業経営にとって、何が大切かと問えば当然にまずお金ということになるけれど、ヒト、モノ、カネ、情報という順番からすればヒトが一番であるとも言える。「企業は人なり」とは言い古された言葉だけれど、やっぱり企業や組織にとって人が最重要であり、すなわち人事が大切となる。

 戦後歴代最長政権を誇った佐藤栄作元総理は「人事の佐藤」などと呼ばれたし、現在の安倍総理なども小泉政権の後を継いだ一次と比べると、人事面で格段の成長があったのではないか。そのことが、政権の安定に大きく寄与しているように見受ける。

 これは前にも書いたのだけれど、扇谷正造*1)さんの「君よ朝のこない夜はない」*2)の冒頭の一節に「真の意味における教養というものは、女性にとっては男を見る目、男性にとっては女を見る目ということにつきる」と述べているが、これは若い人向けに「結婚六つの条件」という副題の付いた第1章にあるので、こうなっているけれど、「真の教養とは人を見る目ということにつきる」と言い換えていいのではないかと思う。

 比喩が適切かどうかは分からないが、囲碁の世界では特に序盤において、石の形、その美しさが問われる。最近は囲碁も将棋もコンピュータ化が進み、将棋ではすでにプロ級の棋力があり、囲碁でもアマチュアトップクラスのレベルまで進歩している。「美しさ」などという感性頼みではなく、デジタル的に解明される日が近づいているようにも思うけれど、今のところ囲碁の序盤において、いかにコンピュータといえ、強いプロといえど終局までを読み切れるわけではない。その修業と経験によって精神力と感性を陶冶し、自分なりの美しさを会得し、それを追い求めることで、勝率を上げているのがトッププロであろう。

 人物評価もあらゆる評価項目をコンピュータ解析することで、その好悪や能力全般をある程度評価可能ではあろうが、通常のペーパーテストでは所詮その一断面でしかない。しかも将来性などという評価はまず困難である。よって論文や面接試験が企業の採用では主流となる。だから面接試験の責任者、例えば人事部長の人を見る目、すなわち感性が企業にとっては非常に大切となる所以である。

 能力の乏しい社長には、悪賢い取り巻きが跋扈する。価値観の低俗な人物はやはり低俗な人を採用してしまう。「類は友を呼ぶ」、「同病相哀れむ」、「同じ穴のムジナ」、「友達を見ればその人が分かる」等々、格言、金言の類もそのことを指摘する。昇進・昇格者選考も同じだ。業績の上がらない企業の根っこはそこに始まる。人事はその結果が遅れてやってくるし、企業業績は、景気など外部要因に左右される振れが大きいため、その巧拙が結果と結びついて論じられにくい。その証拠を問われても、科学の世界でないだけに論理的に説明がつき難い。しかし、それだからこそ重要なのである。




*1)(1913年-1992年) 宮城県出身。1935年に東京帝国大学文学部国史学科を卒業して朝日新聞社に入社。応召され一等兵で終戦、復員後「週刊朝日」編集長、学芸部長、論説委員。特に「週刊朝日」編集長時代には同誌のすさまじい拡販に貢献。朝日新聞退社後評論家、ジャーナリストとしても活躍し、大宅壮一氏らと共に戦後マスコミの三羽烏と呼ばれた。byウキペディアなど
*2)株式会社講談社1984年4月10日第1刷(定価1000円)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

産業毎の品質保証第19回

2014年05月28日 | Weblog
自動車部品分野の品質保証

 わが国の製造業には、長らくケイレツ(系列)と呼ばれる部品や素材の強固な調達網が企業間連携の中心にあったが、その典型例が自動車部品メーカーと自動車メーカーの関係であった。自動車メーカーをピラミットの頂点として1次、2次、3次と数多くの部品メーカーが連なっており、自動車メーカーは発注先や購入価格の決定で圧倒的な力を持っていた*24)。

 1980年代、急速な円高で海外での競争力を低下させた自動車メーカーは、部品メーカーに厳しい価格低減を求め、苦悶に喘ぐ小規模部品メーカーが連日のようにテレビのニュースで紹介されていたのを思い出す。その後所謂下請け企業は、取引先企業数の拡大を求め、自動車メーカーはその生産拠点を海外に移し始めた。そして取引構造は系列に囚われずメッシュ化していった。

 もっとも自動車部品メーカーといって、中小企業ばかりではない。業界規模は22兆3,136億円(平成24年7月~25年6月決算)、労働者数約21万人であり、売上トップ10では、1位デンソー(売上高:3兆5,809億円)、2位アイシン精機(売上高:2兆5,299億円)、3位豊田自動織機(売上高:1兆6,152億円)、4位トヨタ紡織1兆794億円)、5位ジェイテクト(売上高:1兆675億円)と実に上位5社が1兆円以上の売上高を誇っている*25)。もっとも自動車業界の影響を直接受ける自動車部品メーカーにとっては、自動車メーカーの業績がその明暗を握っていることは間違いないのである。

 この分野の市場の特徴を、「ガイドブック」は、『①気温45℃を超えるような高温地域からマイナス40℃を下回る低温にさらされる地域、わが国では考えられないような最高車速での連続走行や、荒れた路面での高速走行など、想定される過酷な条件での走行耐久性を求められること。②直接の顧客は自動車メーカーであるが、最終製品の使用者は不特定多数の消費者のため、設計者の予測しないような操作にも対応する品質確保が必要で、それぞれの専門分野において、自動車メーカーと同等以上の技術知見や市場情報収集が必要となること。③自動車部品の中には、数百の部品からなるシステムもあり、そのような部品の多くは取引先からの購入品となるが、その生産拠点の近くでの生産が求められ、自動車メーカーの海外進出に伴い、自らの構成部品の調達先もグローバル化していること。④グローバル化にも伴い、さらに低コスト短納期、一段と厳しい品質レベルが求められること。⑤自動車の性能はハード面ばかりではなく、ソフトにより決定される度合いが強くなり、電子制御技術の進歩と要求品質の向上で、制御条件は複雑化していること』。などを挙げている。

 そして、この分野の品質保証の特徴としては、まず、「安全性の確保と信頼性・保全性」を挙げているのは当然である。『自動車の基本機能である「走る、曲がる、止まる」にかかわる部品においては、機能が失われたり、異常作動した場合には直ちに致命的な事故につながる恐れがあるからである。また、部品個々に欠陥がないことは勿論、システムとしての信頼性確保、経時劣化への配慮、誤った操作に対する自己防御、故障発生時の安全退避可能なフェールセーフ。加えて故障の診断や修理の容易さなども品質保証の範疇である』。

 2番目に『「地球環境、地域社会への配慮」がある。燃費向上(CO2削減)のためのエンジン(部品)設計、車体重量やフリクション(摩擦)の低減。排ガス中の有害物質低減も課題であった。

 3番目に「自動車メーカーおよび取引先との連携」がある。自動車メーカーの新車開発期間の短縮に対応するために、あらかじめ決められた期間の中で定められた機能を満足させ、信頼性を確保する設計仕様や生産工程を、自らの取引先とも連携して作り上げなければならない』。とある。

 なお、部品メーカーの売上トップテンNo.1およびNo.2のデンソーやアイシン精機は(一社)日本品質管理学会の主要メンバーで、海外拠点も含め現在も熱心にQCサークル活動(デンソーでは、海外含め7000サークル:2012年)を行い、成果を挙げていることを申し添えておきたい。



*24日経ビジネス2014.04.28・05.05合併号「ケイレツは’血’より’知’」
*25)「業界動向SEARCH.COM」データによる。

 本稿は、(社)日本品質管理学会編2009年日科技連刊“新版品質保証ガイドブック” (文中「ガイドブック」と略称)第Ⅳ部第7章「自動車部品分野の品質保証」を参考にし、『 』内は直接の引用ですが、一部編集があります。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

産業毎の品質保証第18回

2014年05月25日 | Weblog
情報システム・ソフトウェア分野の品質保証(続)

 情報システム・ソフトウェア分野における市場、顧客、製品の特徴の6項目について前号に記したが、「ガイドブック」はそれらに対応して、この分野の品質保証の特徴を次のように述べている。

 『①「目で見ることができない」に対する品質保証の難しさとその対応策は、開発における適切なドキュメンテーションとその実施を確実なものとする監査が基本となる。情報システムやソフトウェアのオブジェクト*23)を目で見てもその品質の良否を判断できないので、オブジェクトをテストした結果のデータに統計的品質管理をすることで対応する。

 ②「顧客ニーズの多様化」に対する品質保証上のむずかしさと対応策については、顧客にとっての「魅力ある品質」を提供するために何を作るかを決めることが大切で、その際に参考になるのが、ISO/IECJTC1/SC7 9126-1で規定されている品質特性がある。その品質特性には、★機能性(ソフトウェアが指定された条件の範囲で利用されるときに、ユーザーの明示的または暗示的な要求に対応した機能を実現している能力)、★信頼性(ソフトウェアが指定された条件の範囲で利用されるとき、要求に合った性能を維持する能力)、★使用性(ソフトウェアが指定された条件の範囲で利用されるとき、理解や習得が容易など、利用者にとって魅力的な能力を表す)、★効率性(ソフトウェアが指定された条件の範囲で利用されているリソースの量に対比して適切なパフォーマンスを提供する能力を表す)、★保守性(ソフトウェアが障害の発生や仕様変更に対して、修正のしやすさを提供する能力を表す)、★移植性(ソフトウェアをある環境から他の環境に移行することを容易にする能力を表す)がある。

 ③「一品一様のものを短納期で求められる」に対する品質保証上のむずかしさと対応策では、短納期で提供する手段として、顧客ニーズに近い他社製品を導入したり、自社より開発力のある他社に開発作業を外注する方法がある。いずれの場合でも、導入製品の品質や他社の開発・サポート能力を事前に十分吟味しておく必要があることは当然である。

 ④番目の「製品の複雑化」に対する品質保証上のむずかしさと対応策は、しっかりした構成管理(顧客に提供したソフトウェアをバージョンにより識別できるようにするとともに設計仕様書、ソースコード、オブジェクトなどソフトウェアの構成要素の関連を追跡できるようにすること)が不可欠である。これによってソフトウェアへの機能追加、仕様変更、不良修正などの再提供に際して、提供漏れなどの問題発生を防止するのである。

 ⑤「セキュリティ上の脅威」に対する品質保証上のむずかしさと対応策では、担当する現場SE(システムエンジニア)へのセキュリティの専門家による十分な教育と、セキュリティ方式に漏れがないかの検証やSEへの問診による知識の追加移転、セキュリティ必須要件が守られているかの第三者検証が必要である。

 ⑥「高度の信頼性が求められる」に対する品質保証上のむずかしさと対応策としては、まずは、過去の類似の失敗を繰り返さないよう、その記録を確実に残すと共にその活用、すなわち対策の水平展開を行うことである。また、完成したシステムを顧客の視点で確認する取組み、発見すべき不具合に的を絞ったレビューやテストなどを行うことである。』

 情報システム・ソフトウェア分野は①「目で見ることができない」に象徴されるように、高度で特殊な世界に思え、事実そうなのだろうけれど、品質保証に対する基本的な考え方はその他の分野と変わることはない。TQMやISO9000で学んできたことを確実に実施することで対応できる。すなわち、統計的品質管理の活用であり、魅力的品質の作り込みであり、外注管理であり、トレーサビリティと識別管理、教育、記録の活用による未然防止としての水平展開などを着実に実行することである。






*23)オブジェクト指向プログラミングにおいて、ソフトウェアが扱おうとしている現実世界に存在する物理的あるいは抽象的な実体を、属性(データ)と操作(メソッド)の集合としてモデル化し、コンピュータ上に再現したもの。by IT用語辞典「e-Words」

 本稿は、(社)日本品質管理学会編2009年日科技連刊“新版品質保証ガイドブック” (文中「ガイドブック」と略称)第Ⅳ部第5章「情報システム・ソフトウェア分野の品質保証」を参考にし、『 』内は直接の引用ですが、一部表現を変えています。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

産業毎の品質保証第17回

2014年05月22日 | Weblog
情報システム・ソフトウェア分野の品質保証

 社会学者エズラ・ヴォーゲルによる「ジャパンアズナンバーワン」(原題:Japan as Number One)が出版されたのは1979年というが、わが国はその後急速な円高と1990年代初頭のバブル崩壊以降、欧米の逆襲もあって停滞期を長く続けることになった。欧米がTQC(TQM)などわが国の経営手法を謙虚に学び、学校教育にまで取り入れた。

 彼らは日本式経営手法の良いところを体系化、システム化し、新しいテクノロジーを付け加え、数々のエンジニアリングにまとめあげた。SCM*19)、ナレッジマネジメント*20)、コンカレント・エンジニアリング*21)、そしてリエンジニアリング*22)までを可能にした。本格的なグローバル化と情報化時代を迎え、情報システム活用においてわが国は遅れを取ったのである。それらは従業員のIT機器を使いこなす能力の差とも相俟って、わが国の競争力優位を損なわせたともいえる。

 太平洋戦争だってそうだ。日米の工業力の差が歴然としていたこともあるけれど、その差は、たとえば乗用車の普及の程度によって、国民が車を運転する能力に反映されていたのだ。それは国民一人一人の兵士としての能力差となっていた。国力の差とは結局国民一人一人の能力の総和で決まるものなのである。

 情報システムと聞けば、合併によるシステム統合の不具合で大きなトラブルを招いた大銀行の話などを思い出すけれど、国家ぐるみのサイバー攻撃などもあり、便利さの半面で大きなリスクも取りざたされる。

 「ガイドブック」は、情報システムやソフトウェアの品質保証に関する市場、顧客、製品の特徴について次のように述べている。

 『①「目で見ることができない」。機械語の羅列を見ても、その品質の良し悪しは判断できないのである。②「顧客ニーズの多様化」。信頼性に加えて使いやすさなど多様な品質特性が重視される。③「一品一様のものを短納期で求められる」。④「製品の複雑化」既存のパッケージソフトウェアやオープンソースソフトウェアを組み合わせて利用する形態が多く、組み合わせる分、製品の構造が複雑になる欠点がある。⑤「ネットワーク化の進展に伴うセキュリティ上の脅威」。サプライチェーン・マネジメントのように他社の情報システムもネットワークを介して連携することが多く、さらに脅威は拡大する。⑥「高度の信頼性が求められる」。銀行のオンラインシステムなど社会基盤を支えるソフトウェアなど、その障害が与える影響範囲は大きい。』

 またこれら6つの特徴のそれぞれ対応する品質保証については次号。




*19) Supply Chain Management:供給連鎖管理
*20) Knowledge Management「KM」:知識管理(個人の持つ知識や情報を組織全体で共有し、有効に活用することで業績を上げようという経営手法)。
*21) Concurrent Eengineering「CE」: 同時進行技術活動(製品開発において概念設計/詳細設計/生産設計/生産準備など、各種設計および生産計画などの工程を同時並行的に行うこと)。
*22) Re-engineering:業務・組織・戦略をゼロから根本的に再構築すること。

本稿は、(社)日本品質管理学会編2009年日科技連刊“新版品質保証ガイドブック” (文中「ガイドブック」と略称)第Ⅳ部第5章「情報システム・ソフトウェア分野の品質保証」を参考にし、『 』内は直接の引用です。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

産業毎の品質保証第16回

2014年05月19日 | Weblog
土木・建築分野の品質保証

 わが国の経済力の停滞が言われ続けたここ20年、しかし東京でも大阪にも新たな高層ビルが立ち続けた。その様を外国人は不思議がって見ていたそうな。東京ではスカイツリーが完成し、東京駅も立派に復元された。東京駅では隣接するデパートも新装開店したし、周囲のビル街や通りもさらに整備された。駅構内の所謂駅ナカと呼ばれる商店街も一層充実した。2020年五輪に向けてまだまだ東京は変貌する。東京の街を歩き地下鉄など利用すると、本当に人類の土木・建築技術の偉大さを見せつけられる。

 瀬戸内海に掛った3つの橋も木更津と川崎を結ぶ東京湾アクアラインも多くの建設費がかかったことで批判もあったが、完成してみればやっぱりその威容と利便性は、お金に卓る価値を感じる。夢を叶えたこれらプロジェクト推進者の功績は大きい。

 「ガイドブック」では、『土木・建築分野の企画・調査・設計・施工・維持管理・廃棄に至る建築事業プロセスにおけるさまざまな形態のプロジェクトの特徴を次の8点と捉えている。

 ①ほとんどの建造物は個別の一品生産である。
 ②生産場所が全国に点在しており、環境や地域社会への影響が大きい。
 ③生産設備や施工チームが移動し、完成後に生産設備とチームが解散する。
 ④労働集約型の屋外産業で、気象などの環境条件の影響を強く受ける。
 ⑤設計と施工が分離されることが多い。
 ⑥技術指向が強く、経験に負うところも多い。
 ⑦完成後に建造物がどのような形態になるのかが生産過程ではわかりにくい。
 ⑧特定の直接顧客である発注者が介在し、最終的な利用者の声を聞きにくい。』

 この産業を支える『50万社といわれるうち資本金1億円以上の企業はわずかであり、大半は中小企業で、零細な個人企業も多い。労働生産性は製造業と比べて高くなく、人への依存度の高い労働集約型の裾野の広い産業である。また、労働災害は減少傾向ではあるが他産業に比べて多い。さらに売上高のうち、外注費・材料費・労務費の占める割合がきわめて高く、特に外注費が大きいことも特徴である。

 土木工事と建築工事に分けて見てみると、公共投資は社会基盤形成のため土木工事が大半であり、民間需要は住宅、店舗など建築工事が大半となる。

 土木工事では、設計と施工を分離して発注されることが多く、またその施工にあたっては、自然環境の影響を受けることから既存の技術では予測できないリスクも多く、所定の品質、工期、安全などを確保するための施工技術、環境への環境評価技術などが不可欠である。一方建築工事は、設計施工一貫方式であり、設計品質と施工品質を整合させやすい。

 これら土木・建築分野の品質保証の特徴は、(1)「日本文化に育まれた品質保証の考え方」が根付いていること。すなわち施主と棟梁との強い信頼感に裏付けられた、匠の技術を背景とした請負制度が発達していること。(2)「TQMを推進」してきたこと。すなわち土木・建築分野のリーディングカンパニーは1980年代積極的にTQMを推進し、良い品質の製品・サービスを安定して社会へ提供し続けるための品質保証のやり方を学び、実践し実効をあげてきたのである。

 さらに最近では、WTO/TBT協定*18)やISOのマネジメントシステムなどのグローバル化の進展に伴い、品質に関する透明性を高める思考が強まり、品質保証を中心に据えた品質競争力に秀でた透明な建設プロセス構築への取組みがなされている。』





*18)世界貿易機関(WTO)が1995年に制定した「国際標準に規制や標準を整合する」という参加国間の協定。「各国は貿易に支障をきたさないよう、国内の規制や標準を国際標準に整合させなさい」というもの。

 本稿は、(社)日本品質管理学会編2009年日科技連刊“新版品質保証ガイドブック” (文中「ガイドブック」と略称)第Ⅳ部第11章「土木・建築分野の品質保証」を参考にし、『 』内は直接の引用ですが、加筆省略があります。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

産業毎の品質保証第15回

2014年05月16日 | Weblog
化粧品分野の品質保証(続)

 化粧品業界の市場は流行の変化が激しい。このため、ファッション感覚に優れる顧客の心を掴む新素材や機能訴求型の商品が求められると共に、世代各層のニーズに対応した商品開発が求められる。時代の変遷と共に、生活者のライフスタイルも変化し、男性用化粧品も需要を伸ばしている(2012年男性化粧品の市場規模*15)は1008億円で、前年の1.3%増)。

 相俟って、『流通販売チャネルもカウンセリングによる特約店での「制度品販売」や「訪問販売」に加え、ドラッグストアなどでのセルフ型商品の「一般品販売」、情報通信の発達による「通信販売」、美容院やホテル向けなどの「業務用販売」と多様化している。

 外資系や他産業*16)からの参入も多い。フランスやアメリカの外資系メーカーは、高級ブランド品を主に百貨店で販売し、製薬会社からの参入では、つながりの強いドラッグストアを販路にしている。わが国の化粧品大手各社は、成就化した国内市場から海外市場に販路や生産拠点を拡大し、販売を強化している』。特に開発途上国では、品質保証の点でわが国の化粧品のブランド力は大きな武器となっていると考えられる。

 化粧品分野の品質保証の前提として「薬事法」がある。その薬事法における化粧品の定義は『人の身体を清潔にし、美化し、魅力を増し、または皮膚もしくは毛髪を健やかに保つために、身体に塗擦、散布その他これらに類似する方法で使用されることが目的とされている物で、人体に対する作用が緩和なものをいう』とある。これは、『メーカーが化粧品を開発、製造、販売するうえで品質、有効性、および安全確保の基本となるものである。化粧品は人体の皮膚、頭皮などに直接作用させる方法で使用されるため、品質保証項目は重要な条件として管理しなければならない』。

 一方、『化粧品は新製品依存の高い業種であるため、市場ニーズや同業他社の動向の把握から1つの商品を生み出すまでの期間をできるだけ短くすること、すなわち短期間での新製品開発の実現が重要である。・・・』このような業界の競争環境は、新しい製品開発への活力ではあるが、検証不十分な製品を市場に出すリスクも抱えている。

 化粧品分野における品質保証の特徴を「ガイドブック」は次のようにまとめている。

 『品質保証項目として、①「安全性」(刺激性・毒性)、衛生性(防腐、防かび試験・微生物汚染度試験など)、②「安定性」(色調・匂い・物理化学安定性・主剤安定性など)、③「使用性」(美容テスト・官能テストの使用試験など)、④「有用性」(製品別各種効果試験など)の製品そのものへの保証に加え、容器外装保証がある。それは、①「バルク(化粧品そのもの)保護」(耐光性・透過性など)、②「材料適正」(耐薬品性・耐腐食性・耐光性など)、③「機能性」(物理的機能・人間工学的機能など)、④「使用上の安全性」(使用環境・使用方法など)、⑤「対環境」(廃棄処理の容易性。廃棄上の安全性など)、⑥「表示」(薬事法・消防法・不当景品法および表示防止法などへの適法表示)。

 以上を受け、生産部門では化粧品GMP(Good Manufacturing Practies)*17)とISO9000sを融合したマネジメントシステムにより、量産化工程設計と監視、改善を繰り返し、よりよい製品供給を行う。・・・』としている。




 *15)業界全体の市場規模は1兆7,608億円、直近5年間は平均年-0.45成長(平成24-25年版 業界動向SEARCH.COM)
 *16)国内では花王がカネボー化粧品を傘下(2006年2月)にして参入したし、富士フィルムは写真フィルムの研究で培ってきた技術が化粧品に生かせると参入(2006年秋)した。
 *17)製造管理および品質管理に関する技術指針で、1981年に日本化粧品工業連合会の自主基準としてまとめたもの。主に次の3つを要件としている。①混同、手違いによる人為的な誤りを最小限にする。②製品に対する汚染および品質低下を防止する。③高い品質を保証するシステムを構築する。この化粧品GMPは2007年にISOにおいて新たに規格化されている。by「ガイドブック」

 本稿は、(社)日本品質管理学会編2009年日科技連刊“新版品質保証ガイドブック” (文中「ガイドブック」と略称)第Ⅳ部第19章「化粧品分野の品質保証」を参考にし、『 』内は直接の引用です。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

産業毎の品質保証第14回

2014年05月13日 | Weblog
化粧品分野の品質保証

 化粧品関係での品質トラブルには、成分表示の不備が多いようだ。成分表示の誤りや欠落、表示されていない成分が入っていたことや、基準にない成分が入っていたなどである。異物混入などもある。マスコミで大きく取り上げられるトラブルではないが、ハインリッヒの法則に言う「1件の重大災害を含む発生した30件の災害の下には、隠された300件のヒヤリハット(災害に至らない危険)がある」ことからすれば、いずれも見過ごせない事例なのだ。

 聞いた話だけれど、江戸時代に大名の子息が早世であった原因のひとつに、乳母が使う白粉(おしろい)があったのではないかという仮説がある。当時の白粉には鉛が含まれ、乳房を通して乳児の体内に鉛が摂取されていたのではないかというものだ。現代では、有害化学物質が化粧品に使われる恐れはないとは思うが、有害の基準は現在の科学レベルで決まるもので、絶対の保証はない。

 昨年は、株式会社カネボー化粧品製の美白化粧品で白斑症状を訴える人が続出し、大問題となった事件があった。今年に入ってからも高額の補償を求める団体訴訟が起きている。化粧品は成分である化学物質によって化粧の効果を得るため、たとえそれが天然成分であったにしても、医薬品と同等の事前チェックが必要になろう。メーカーとしては当然に基準に沿って人体への安全性を確認して発売しているであろうが、顧客のすべての体質に対して不具合の無いこと、塗り薬や他の化粧品との併用などで生じるすべての現象を試験することは不可能に近いかも知れない。しかし、このようなトラブルによって失われるメーカーの損失は計り知れない。結果論ではあるが、メーカーの品質保証体制の不備、発売前の駄目押しの確認が漏れていたと言わざるを得ない。

 化粧品はブランド力がものをいう分野であり、マーケティングにイメージ戦略は重要である。イメージが品質を保証するものではないが、消費者はブランドイメージを保証の拠り所とすることは多い。

 昔、化学会社にバイオの嵐が吹いた頃、石油化学会社においても生物化学研究所などが出来て、ある植物から抽出される有効成分を量産するために、当該植物の培養技術の開発が進んだ。色素成分であるシコニンは口紅などに使用されるが、三井石油化学(現、三井化学)はこのシコニンの量産技術を確立*14)して、化粧品会社に提供した。その口紅は、松田聖子さんのヒット曲と共に大いに売れたが、メーカー側はけっして石油化学会社から原料供給を受けているとは公表しなかった。もしその口紅が、石油から出来ている(出来ているわけではないが)などというイメージが湧けば、消費者は、唇が荒れるかもしれないという不安に駈られるかもしれない。売れ行きは落ちたかもしれない。以下次号。


*14)植物培養細胞を用いた二次代謝生産の工業化の世界最初の成功例(by京都大学生存圏研究所)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする