中小企業診断士 泉台経営コンサルタント事務所 ブログ

経営のこと、政治のこと、社会のこと、趣味のこと、人生のこと

経営分析入門第10回

2013年08月28日 | Weblog
総合評価と企業価値

 企業の買収や合併、すなわちM&Aにおいては対象となる企業の価値評価が重要となる。別にM&Aでなくとも、投資家向けアピールもあってか、株式の「時価総額」*17)が、国内外の企業との比較で話題になる。

 因みに東京証券取引所の第一部上場企業1,752社の時価総額は2013年7月31日現在で396兆5,067億3,600万円。国内企業のトップは勿論トヨタ自動車で、20兆5,845億円。続いて第2位は三菱UFJフィナンシャルグループの8兆5,103億円。以下ソフトバンク 、本田技研工業、NTTドコモ、三井住友フィナンシャルグループ 、みずほフィナンシャルグループ、KDDI、日産自動車、日本たばこ産業の4兆5,666億円までがベスト10となる。米国のGEやIBMも20兆円程度であるから、トヨタの健闘が光る。

 時価総額は株式市場の評価であり、株価は毎日変動するため、今現在はどうかという情報が必要で、ネットの時代の目まくるしさも付きまとう。8月27日現在トヨタの株価は6,160円、ソフトバンクは6,240円。銀行株はなぜか安く、三菱UFJフィナンシャルグループ596円、みずほフィナンシャルグループなど204円だ。もっとも三井住友フィナンシャルグループは4,445円である。高いのはNTTドコモで、162,100円。株価はもともと1株50円、100円でスタートした会社と万円単位で発行した会社で現在値も差がつくのは当然である。

 時価総額という企業価値の指標は、上場企業の話で一般の中小企業にはあまり縁がない。通常の企業価値評価は、貸借対照表の資産、負債に基づき純資産額を求めて企業価値とする純資産法がある。この場合、総資産を簿価で見るか時価で見るかで企業価値は変わってくる。企業が倒産という危機にあっては、その再生のために改めて資産評価が行われるが、資産をいざ売却して現金化しようとすれば、価値の著しい低下が免れないことも多い。在庫評価や売掛金の回収も額面通りに行かない。そのことが却って債権者にその時点での企業清算を思いとどまらせ、現状からの再建に向かわせることにもなる。工場や工場用地もそのまま将来も使い続ければ本来の価値があるものだ。

 その他の企業価値の算出方法には、収益還元法やフリーキャッシュフローと加重平均資本コスト(WACC)から求める方法などがある。

 経営分析の視点からの企業の総合評価のポイントをあげると、①財務上の安全性、②営業キャッシュフロー、③収益力、④資本の効率性(生産性)、⑤成長性と最初に返って経営分析のポイントの項目になる。但し、総合評価では加えて⑥人材や⑦ソフトな企業力、すなわちブランド力であったり知的財産力さらには明確な経営ビジョンを持っていることなども評価対象となる。

 長く企業に勤めて狭い範囲ではあるがその変遷をみるに、企業トップの資質、能力がより強く直接業績に反映される時代になったという気がする。大企業の末端の職場も所属長によって変わる。所属長を誰にするかを決めるその上の組織の長の器が順次問われているのだ。

 傾いた大企業が外国人経営者を招聘したり、落ちぶれそうな国や県や市は女性政治家をトップに据える。日産自動車のゴーン氏やイギリスのサッチャー女史などの成功例もあるが、概ね残念なケースが多い。人材を育てるに即席栽培はない。植物でさえ移植も簡単ではない。良い農作物を作るためには土壌から変えてゆかねばならない。その人が生まれ落ちた時、その土壌がリーダーを育て得るものであったかどうか。その人の関心が人というものへの洞察を強く持っていたかどうか。勿論リーダーの好ましいタイプは時代・環境によって多少の変化はあるが、いつの世にあっても「冷静な頭脳とあたたかき心」“cool head but warm heart”*18)を持った人でなければならない。少なくとも私利私欲ばかりの人はリーダーには向かない。



*17)発行済株式数×時価(一定日の市場価格)
*18)近代経済学の祖であったアルフレッド・マーシャル(1842-1924)が、ケンブリッジ大学の経済学の教授に就任するときに言った言葉。伊東光晴、佐藤金三郎共著「経済学のすすめ」筑摩書房1968年刊

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経営分析入門第9回

2013年08月25日 | Weblog
キャッシュフロー

 売上高とそれに掛る費用のすべてが、現金で入出金されていれば起こらない問題が、貸し倒れ。われわれ若い時分は先輩に連れられてなど結構飲み歩いたりしたけれど、地元の飲み屋さんは地元の大企業の社員だと大抵ツケ飲みにさせる。ツケが効けば現金を持たない時も飲みに行けるし、来てもらえるから客、店双方に都合がいい。しかし反面賑わっているお店でありながら、ツケ貸しをしてその多くに遁ずらされると倒産することも起こり得る。当時はまだクレジットカードなるものはなかった。

 そうなっては大変だから、ボーナス時期など工場門前や社員寮にまでマスターやママさんが借金取りに来たりすることになる。下手をすると借金を払わない知り合いのツケがこちらのツケに増額されてくる恐れもあったりしたけれど、お店だってホステスの給料やお酒の仕入れ、お店の家賃と定期的に出費があって資金繰りが大変なのだ。

 企業には企業間信用に基づき「売掛金」が発生する。製品の納入後入金されるのは3ヶ月後だったりすれば、その間の運転資金(売上債権+棚卸資産-買入債務)は確保しておかねばならない。バブルの後には「不良債権」という言葉を随分と聞いたけれど、回収できなくなった売掛金や貸付金の抵当に取った土地が大幅に下落したために生じたものだ。大手金融機関*16)でもそのために倒産した。

 そもそもキャッシュフロー会計とは、損益計算書や貸借対照表からだけでは見えにくい現金の動きを明確にして、資金繰りに困らない経営を行うためのものだ。企業の利益は売上から原材料費はじめ諸経費を差し引いて残額ということになるが、期首に比べて売掛金が増えておればそれだけ利益から現金は少なくなっているし、買掛金や支払手形の額が減少しておればその分、売上に依存していない現金の流出が起こっているためキャッシュは少なくなっている。在庫だってそうだ。期首に比べて期末在庫が増えておれば、在庫の分は費用計上しないため、利益から現金が流出していることになる。

 一方、減価償却は費用計上されるが、実際にはその期に出費されたものでないため、キャッシュフローには有利だ。元々設備投資や土地購入費用(但し、土地は減価償却の対象ではない)などはキャッシュフロー会計では投資キャッシュフローとして、これまで述べてきたキャッシュフローである営業キャッシュフローとは別会計のような扱いになる。銀行からあらたな融資を受けたり、借入金を返済したりというのも損益計算書の売上や経費にあたらないため見えにくいが、キャッシュフロー計算書の財務キャッシュフローとして増減が管理される。

 すなわち、キャッシュフローには「営業キャッシュフロー」、「投資キャシュフロー」及び「財務キャッシュフロー」の三区分ある。健全なキャシュフローとは、営業キャッシュフローが十分プラスであり、そこで蓄えた現金を使って新たな投資を行うことである。因みに営業キャッシュフローと投資キャッシュフローの合計をフリーキャシュフローといい、投資家に対して分配可能な自由に使えるキャッシュフローでもある。トータルのキャッシュを増やそうと思えば、投資は行わず借入金だけ増やせば当面のキャッシュは増えるが、投資につながらない借金というものは、営業活動によるキャッシュの流出の穴埋めであることが多く、不健全なキャシュフローと言える。





*16)山一証券、日本長期信用銀行、北海道拓殖銀行など
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経営分析入門第8回

2013年08月22日 | Weblog
損益分岐点分析

 企業が製品を出荷して、または商品を販売して得られる売上高に占める費用には、売上高に比例して変動する変動費と売上高に依存しない固定費がある。固定費は売上が全く無い状態でも発生するわけだが、製品単価に占める利潤でもって固定費を丁度カバー出来る製品の売上数量における売上高が損益分岐点である。

 ただ、費用項目のうち、何が変動費で何が固定費かの線引きが多少やっかいである。代表的な固定費と変動費の分解方法には、①勘定科目法、②高低点法、③散布図法および④最小自乗法がある。財務分析のため、当該企業の決算書を受けた場合は①の勘定科目法で行うのが手っ取り早い。すなわち、財務諸表の勘定科目ごとに変動費か固定費かを決定する方法である。日本銀行の「主要企業経営分析」によれば、【固定費=(販売費及び一般管理費-荷造運運搬費)+労務費+(経費-外注加工費-動力燃料費)+営業外費用-営業外利益】、【変動費=売上原価-労務費-(経費-外注費-動力燃料費)+荷造運運搬費】となる。

 ②高低点法は、過去の実績データから最も売上高の高かった場合の原価と最低の売上高の場合の原価を、横軸に売上高縦軸に総原価の図上にプロットして売上高が0の時の総原価がすなわち固定費、原価の立ち上がり角度を変動費率とするものである。③散布図法では、過去の全ての売上高と総原価の値をプロットして、各点の中間を通る線を引いて固定費と変動費率を求める方法で、④最小自乗法は散布図法のデータから数学的に回帰直線を求め、固定費と変動費率を求めるのである。

 何でこのような面倒なことをして、損益分岐点を求めるかといえば、この損益分岐点比率が高いか低いかで、会社の収益力が分かり、売上の変動に対しての安全性を評価できる。安全度が高いということは、景気変動などによる売上の低下にも耐えうる力があるということ。不況時にも赤字に転落し難い企業である。

 また、自社が固定費型なのか変動費率型なのかの認識できることで、効率的な経営の方針を立てることができる。固定費型であれば、利益を出すための売上高のハードルは高いが、それを超えればどんどん利益が上がる。変動費率型では、利益を出すための売上高のハードルは低いが、売上が伸びてもそれほど利益率は上がらないことになる。従って、より利益率を上げるために、変動費に焦点を当てて経費削減努力をするのか、固定費削減に注力するべきかなどの指針が得られるのである。

 架空企業の事例で、損益分岐点分析を行ってみる。A社B社共に今期1.5億円の売上があったとする。A社の固定費は5,000万円、B社の固定費は3,500万円で、変動費はA社9,000万円(変動費率0.6)に対してB社1.05億円(変動費率0.7)だったとする。この場合、売上高から総費用(固定費+変動費)を差し引いた利益は共に1,000万円で、売上高に対する利益率は両社6.7%となる。この両社の損益分岐点=固定費/{1-(変動費/売上高)}(①式)を計算すると、
 A社の損益分岐点=5,000万円/{1-(9,000/15,000)}=12,500万円
 B社の損益分岐点=3,500万円/{1-(1.05/1.5))≒11,700万円

 両社の損益分岐点売上高に大きな差はないが、この売上高での安全余裕率はA社16.7%、B社22%とB社が売上の低下に対して抵抗力がある。ところが両社売上を1.6億円に上げた場合はどうなるか。変動するのは変動費額でそれぞれ9,600万円と1.12憶円となり利益額はA社の1,400万円に対してB社は1,300万円で、利益額ではA社優位となる。しかし、安全余裕率は売上高の変化で損益分岐点は変化しないため、A社21.9%に対してB社は26.9%と変わらずB社が優位である。すなわち比較的固定費型のA社の方が、売上が伸びれば利益は大きく成り易いが、売上高が同じであれば安全余裕率では比較的変動費型のB社が有利である。

 売上高から変動費を引いた貢献利益(限界利益)という指標もある。企業がその事業から撤退を余儀なくされるのは、一次的には売上高から総費用を差し引いた利益がマイナスになった時(さらに赤字が継続)であるが、貢献利益が出ている間は事業を継続できなくもない。貢献利益で固定費の一部でもカバーし得るからである。しかし、貢献利益がマイナスになれば、費用が全く回収できないばかりか持ち出しになるため、撤退せざるを得ないのである。この貢献利益(固定費+利益)率は、(100-変動費率)%となる。

 また、損益分岐点売上高の公式(①式)を使って、目標利益額を確保する売上高目標値も計算できる。例えば1.6憶円の売上高で1,400万円の利益を得たA社が、さらに1,500万円まで利益を伸ばしたい場合の目標売上高は、利益額=目標売上高-{固定費(5000万円)+変動費(目標売上高×変動費率0.6)}=1,500万円(②式)となり、変動費をVと置くと目標売上高はV/0.6で、Vは9,750万円となるため、目標売上高は(9,750/0.6)250万円増しの1.625億円となる。



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経営分析入門第7回

2013年08月19日 | Weblog
生産性

 「生産性」とは、製品やサービスを生み出す為に必要な、労働力、資金、機械・設備、原材料、土地等の「生産要素」をどれだけ有効に利用されているかの度合いを示す指標である。生産性を数式で表すと生産性=産出量÷投入量であり、産出量とは、生産量、輸送量、加工量、サービス額、販売高等で投入量とは、原材料、資本、機械・設備、エネルギー、土地、労働力等である。

 これまでに診てきた効率性と同義のところがあり、資本回転率などは資本の効率性であるが、結局資本の生産性であるとも言える。先の稿にも触れたけれど、財務分析は与えられた財務諸表を多面的に診る作業である。円錐は上や下から見れば丸に見え、横から見れば三角形に見える。何を診るにも一面からの評価では見誤ることが多い。

 ここに改めて「生産性」を取り上げるが、ここでは生産要素のうちでこれまで取り上げていない労働力の面から診ることになる。労働力は最近では「人財」などとも言われ、その重要性が再認識される中、ロボットの発達で工場などどこまで無人化出来るかも改めて企業の課題となっている向きもある。

 「人財」とはいって、従業員が貸借対照表の資産に載ることはない。人件費は損益計算書において費用であるが、一方企業が生み出す付加価値額の一角でもある。中小企業の財務指標における付加価値額とは、「経常利益+労務費+人件費+支払利息割引料-受取利息配当金+賃借料+租税公課+減価償却実施額」(日銀方式)*14)で表される。付加価値とは、企業が生み出した経営成果のうち、当該企業が新たに生み出した価値のことである。

 生産性分析の代表的な指標に「付加価値生産性」がある。当該企業当期の付加価値額を従業員数で割ったもので、従業員一人当たりの付加価値額となり、これが大きいと人的生産性が高いといえる。単に売上高を従業員数で割って、従業員一人当たりの売上高というのも生産性の目安となる。また売上高に占める付加価値額の割合である付加価値率*15)という指標もある。

 機械化の目安として、「資本装備率(または労働装備率)」があり、従業員一人当たりの有形固定資産額で計算する。この額が大きいということは、機械化が進んでいることを示すが、その資産が有効に付加価値を生み出しているかを診る「資本生産性(設備生産性)」という指標(付加価値額/有形固定資産)もある。有形固定資産当たりどれだけの付加価値を生み出しているかの指標である。

 従って付加価値生産性とは、「従業員一人当たり売上高」(売上高/従業員数)×「付加価値率」(付加価値額/売上高)また「資本装備率」(有形固定資産/従業員数)×「資本生産性」(付加価値額/有形固定資産)とも表現できるが、いずれも付加価値額を従業員数で割った式となることが分かる。

 付加価値生産性は業種・業態によって大きく異なるが、自社の過去のデータや同業他社との比較において生産性が低くなっておれば、人と機械・設備の効率性に着目して改善を促す指標なのである。



*14)中小企業新事業活動促進法における付加価値額は、「付加価値額 = 営業利益 + 人件費 + 減価償却費」のように計算される。
*15)わが国全産業の付加価値率の平均は20%程度である。不動産業やサービス業などは70%を超える企業が最も多く、流通業や建設業では10~30%に集中し、飲食業・宿泊業では30~50%が中心である。運輸業は10%台から70%以上まで同じような割合であるなど当然ながら業種間で異なりを見せる。利益率が良い業種、人件費のウェイトが高い業種など付加価値率は高くなる。
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経営分析入門第6回

2013年08月16日 | Weblog
成長性

 実は、企業の真の成長性については財務分析からだけでは分からない。確かに売上高が伸びており、売上高対営業利益率や経常利益率も伸びているというトレンドがあれば、成長性について高い評価となる。また、研究開発への投資額*10)やそのための人材投資を把握することが出来て、それが同業他社に比べて多いとなれば将来も発展する確率は高くなると評価できるが、背景となる将来の時代の変化は読めず、過去の実績だけで、今後の成長性については必ずしも担保できるものではない。

 NECがNTTドコモとの連携で進めた携帯電話端末は、ガラケーと呼ばれる折り畳み型では一世を風靡したが、スマホが登場して苦しくなった。結果ドコモにもはしごを外される形となった。ガラケーの成功体験がスマホへの転身を阻んだ*11)。技術革新のスピードは早い。僅かな経営判断の遅れが致命傷となり兼ねない時代のようだ。

 工場の全社的品質管理活動の一環で、小集団活動の職場リーダークラスで、トヨタの工場見学をさせて貰ったことがあった。1989年頃だったと思う。当時から新しい時代に向けた車の開発は自動車メーカーの課題と思われていたので質問してみたけれど、否定的な答えだった。プリウスの本格的な開発プロジェクト開始は1994年だったというが、当時から構想はあったと思う。

 品質管理課に転属になった1990年代初頭、ポリエチレンを供給していた関係で富士フィルムから品質監査があった。電線メーカーと並び非常に厳しい監査であったが、フィルムメーカーのトップとして不動の地位を築いていた当時から、現在のデジカメ時代を予測して、危機感を持っているような話を聞いた。

 長く繁栄を続ける企業は、常に時代を先取りする。トヨタはトヨタ生産方式が有名だが、昔から営業のトヨタと言われるように、営業が強い会社と聞く。営業は単に自社の製品を売り歩くだけでなく、そのためでもあるけれど顧客情報や顧客のちょっとしたニーズを汲み取り自社製品に反映してゆく努力の積み重ねがある。その過程で時代の先が見えてくる。

 企業分析の手法としてSWOT分析は有名であるが、自社の強みを活かすことは勿論だが、外部環境の変化に企業も対応して変わっていく必要がある。企業は官僚化でダメになるとは聞く言葉であるが、フレキシブルな企業風土というものも経営分析において加味して評価する必要がある。しかしその柔軟性も、しっかりした企業理念に立脚したものである必要がある。

 先に総資本回転率を診た大手企業の最近3カ年の売上高及び経常利益の推移を以下に示す。トヨタ自動車(単独)が業績を急速に盛り返し、日立製作所(単独)も売上を伸ばしている。任天堂は下げ止まった感じが分かる。住友化学はこの3カ年、成長感はないが安定感はある。三井化学は業績が不安定で、事故の影響もあって利益率で退潮感が否めない。もっともこれだけのデータでは成長性を結論付けられるものでないことは言うまでもない。

           売上高の推移[億円]           経常利益率の推移[%]
           2010   2011   2012   2010   2011  2012 [年]
住友化学(株)<連結>   19,824  19,479  19,525    4.24   2.60   2.57
三井化学(株)<連結>   12,077 14,540 14,062    2.79   1.57   0.65
トヨタ自動車(株)<単独> 82,428  82,412  97,560   ⊿0.57   0.28   8.78
(株)日立製作所<単独>  17,953  18,705  19,115    7.11   2.62   3.98
任天堂(株)  <連結>  10,143   6,477  6,542   12.63 ⊿10.32   1.65

 その他、企業の成長性を診る指標として、従業員への教育研修に掛ける売上高教育研修費率や社会貢献に対する取り組みなどの指標として社会貢献度(=社会貢献費用/経常利益)などからも評価できる。

 戦後のわが国の高度経済成長時代には、アマチュアスポーツは大企業が支えていた。現在も大きく変わらないとは思うけれど、有名な実業団チームが親会社の業績不振で廃部となった事例は事欠かない。投資に対して効果の見えにくいものではあるが、フィランソロピー*12)やメセナ活動*13)の一環として、企業のブランド形成に寄与し、将来の成長につながるものと思う。




*10)2012度の研究会開発費にトヨタ自動車では、連結で8,075億円使用しているが、これは連結売上高の3.7%。同年度日立製作所では、連結で3,413億円投資、連結売上高の3.8%。それぞれの有価証券報告書の研究開発活動の項に記されている。
*11)日経ビジネス2013.8.13号「時事深層」より。
*12)医療施設、教育施設等への寄付行為やボランティア活動への参加。
*13)文化・芸術活動等への支援。
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経営分析入門第5回

2013年08月13日 | Weblog
効率性

 効率性は、総資本回転率に代表されるように、これが高いということは資本の効率性が良い(資本当たりの売上高が高い)と判断される。総資本対経常利益率が売上高対経常利益率(経常利益/売上高)×総資本回転率(売上高/総資本)と表されるように回転率(効率性)と利益率とは別物ではあるが、効率が良ければ資本当たりの収益率も高くなる。

 効率性には売上債権回転率、買入債務回転率、棚卸資産回転率、有形固定資産回転率などもあり、それぞれ逆数をとれば回転期間となる。売上債権回転率(=売上高/売上債権(=受取手形+売掛金))が5回である場合(売上債権額は前期残額と今期末残額の平均をとる)、逆数の0.2とは、1年365日の0.2倍の73日。すなわち平均約2.4カ月で売掛金が回収されていることになる。売上債権回収期間は従業員20人から49人規模の中小製造業の場合平均で1ヵ月半というデータがある。規模がさらに小さくなると期間は短くなる傾向にはある。売掛金の回収は早い方がいいが、売上を出すため、大手企業との取引では契約時に顧客の支払条件を緩和し、納品から支払いまでの期間を長く設定する場合も見られる。売掛金の平均回収期間の従業員の給与などは先払いのようなものだから、その分の現金・預金の備えも必要となることに留意が必要である。

 棚卸資産(在庫)回転率や有形固定資産(土地、建物、設備・機械など)回転率も重要である。前述規模の製造業平均で棚卸資産の回転率は20回、有形固定資産回転率は10回程度というデータがあるが、製造業全体では数値はそれよりだいぶん小さい。規模が大きくなると資本効率は悪くなる傾向にある。

 総資本回転率が人体でいえば、身長と体重の割合を示すBMI値*9)だとすれば、BMI値が高い(総資本回転率が小さい)原因が皮下脂肪なのか内臓脂肪なのかなど、分けて見ようというのが、売上債権回転率、棚卸資産回転率及び有形固定資産回転率ではないか。もっとも人間の成人にとって身長を伸ばすことは困難であるが、企業は売上高を伸ばすことが可能で、対策面まで同様に考えることは出来ない。

 自社のそれらのデータ比較または推移を見るには、わざわざ回転率を計算しなくても、売上高、総資本、売掛金、棚卸資産及び有形固定資産それぞれの額を折れ線グラフで同じ図上に表せば、傾向を大凡把握できるが、同業者との比較においてはやはり売上高などを基準にした回転率なり利益率などを見ることが必要になる。在庫など可能な限り少ない方がいいことは分かるが、同業他社のデータも参考に適正在庫量を探ることができる。

 買入債務回転率は基準が売上高ではなく、当期の仕入れ高と仕入れ債務の比率である。この比率が高いと仕入れ代金の支払い速度が速いことになる。自社のキャッシュフローにとっては、支払速度は遅い方が有利であるため、新規購入条件に納品から支払までの期間を長くさせる企業があったが、下請け代金支払い遅延等防止法に抵触しない配慮が必要である。




*9) BMI(ボディ・マス・インデックス)とは1994年にWHOで定めた肥満判定の国際基準。日本でも健康診断で使っている。BMIは「体重(kg)÷身長(m)の2乗」のように求められ、わが国では25以上を肥満とするが、WHOの判定は、18.5未満を「低体重」、18.5以上25.0未満を「標準」、25.0以上29.0未満を「標準以上」、30.0以上を「肥満」としている。
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経営分析入門第4回

2013年08月10日 | Weblog
続、財務分析のポイント

 文藝春秋今年の8月号に、池上彰さんの「政界リーダー連続インタビュー」という記事があり、前東京都知事の石原慎太郎さんとの対談もあった。その中で石原さんが『この国の会計制度はいまだに大福帳まがいの単式簿記なんですよ。単式簿記だと何がいけないかといえば、その年のことしか考えなくなるから、何にいくら要るかという予算ばかりに目が行くようになる。予算というのは、余れば翌年に持ち越すことも可能なのに、資産と負債の発想がないから、その年度内に使い切らなくてはいけないという、馬鹿げた単年度主義の発想になってしまう。・・・こんなことをやってる先進国はありません。どこの国も発生主義*8)の複式簿記なんです。僕は都知事時代、平成18年から新しい複式簿記の財務会計システムを取り入れた。すると期末における財産の残高や増減の原因までわかるようになりました。予算の繰り越しもできるし、コスト削減につながる。・・・』と述べておられるが、企業ではたとえどんな小さな企業でも税務署へ青色申告届さえしておれば、この複式簿記が適用される。なぜ国や地方の行政機関の財務管理が未だ問題意識を持った所以外単式簿記でいいのか「さっぱり分からない」。

 複式簿記によって、前回の稿に述べた、「自己資本比率がマイナス」になるということの説明がつく。決算書はその年1年間の営業成績を表す損益計算書(PL)と決算日の資産状態を示す貸借対照表(BS)であるが、1年間の決算でPL上赤字の場合、その赤字分はBS上において純資産(自己資本)の減少になるのである。赤字が続き自己資本を食いつくすと自己資本がマイナスとなり、従って自己資本比率はマイナスとなる。「債務超過」すなわち資産のすべてをなげうっても負債をカバーできない状態となる。

 財務分析のポイントの2番目に収益性があるが、前述の通り収益性が悪いと安全性も悪くなるのは当然であり、それぞれ関連する指標である。すなわち財務分析は決算書をいろんな角度から見つめる作業だ。多くの視点から問題点を探り改善につなげる。または当該企業の評価によって融資や投資、取引の開始を判断する指標とするわけだ。

 収益性は、PLでみれば、売上高対総利益率(粗利益率)に始まり売上高対営業利益率、売上高対経常利益率が代表的で、BSの総資産(=総資本)をベースにとれば、総資本対経常利益率や営業利益率、また自己資本利益率などがある。この場合、資本については期中平均をとるのが原則であるが、当年度数値しか分からない場合など簡易的に当年度末額で計算する。

 計算法は兎も角、従来企業業績は売上高対経常利益率で診ることが中心であったが、近年総資本に対する利益率が重視されるようになった。本稿第2回の「企業の健康指標」に述べた通りである。また、投資家の視点からは自己資本利益率(ROE)も注目される。これが高ければ多くの配当が期待できるし、株価も上がる可能性が高くなるからである。

 診断士の勉強以前に関連セミナーで、売上高対総利益率(粗利益率)は50%程度は欲しい。と聞いていたが、その後担当した中小製造業の多くは20%台である。原材料、エネルギーコスト高に加え、製品価格を叩かれ、利益を下げざるを得ない現状がある。粗利が低いと、製品開発に始まり広告・宣伝、ブランド育成などマーケティングにお金が掛けられない。成長戦略が立たない負の連鎖に入る。従って売上高対営業利益率、経常利益率もマイナスの企業が多い。わが国には4百数十万社の企業があるが、その75%は赤字決算といわれている。最近はさすがに税理士会なども黒字決算を推奨しているけれど、企業は自ら経営分析を行うことで収益の改善を図り、黒字決算を目指して欲しいものである。


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経営分析入門第3回

2013年08月07日 | Weblog
財務分析のポイント

 企業の決算書から経営状況を評価する場合のポイントは、1.安全性、2.収益性、3.効率性、4.成長性、5.生産性の5項目くらいが普通である。効率性は活性度、成長性は発展性などと表現を変え、生産性は人材資源全般への評価に含めていたりする専門書も見られる。キャッシュフローや損益分岐点分析などからの視点も重要である。

 企業の財務分析は、われわれ診断士などが企業から依頼されて、問題点を摘出し改善に繋げるために行う場合、上場企業の有価証券報告書から投資(株や社債の購入)の可否判断のために行う、銀行などが企業への融資の適否を判断するために行う、与信管理として当該企業やそこから依頼された調査会社が新規取引先を評価する場合や自社の管理のために自社で行うものなど様々であろうと思うけれど、それらの目的によって分析結果に異なりを見せる場合が考えられる。それは、決算書のデータの信頼性についての取り扱いが変わるからである。

 われわれ企業側から依頼されて当該企業の経営分析を行う場合は、当面その決算書の数値を信じてやるしかないが、融資の適否判断であれば、粉飾はないか等、融資担当者の知識・経験に基づく独自のノウハウからの見立てもあり、数値の信憑性について疑義を挟むことは当然にあり得る。

 日曜夜のテレビドラマ大手銀行の融資課長を描いた「半沢直樹」*2)が評判である。ネットなどによると、現役の銀行員も多くが見ていると言う。中には「メガバンクでは5億円くらいの融資失敗では、ドラマほどの大騒ぎにはならない」という感想があったりした。銀行の融資担当者などの融資先企業の決算書評価は、われわれ診断士よりさらにプロフェッショナルな仕事に思えて、そんな話を飲み友達の中小企業の社長にしたところ、「結構いい加減だよ」みたいな答えが返って来たのは、5億くらいで大騒ぎしないという話に連動するものかもしれない。

 財務分析の「安全性」とは、勿論企業の倒産の危険性を問う。この評価が低ければ倒産の危険が大きいことになる。例えば自己資本比率*3)がマイナスとなれば、所謂債務超過(金融検査マニュアルで、「ハケ」と呼ばれる破綻懸念先にランクされる。この状態が長く続けば「ジッパ」実質破綻先となる)といわれるように、自己資本比率は高い方が安全性は高い。勿論流動性分析と言われる流動比率*4)や当座比率*5)、固定比率*6)や固定長期適合率*7)などでも評価される。

 以下次号。






*2)池井戸潤による企業エンターテインメント小説。バブル末期に大手都市銀行に入行した半沢直樹が銀行内外の人間や組織による数々の圧力や逆境と戦う姿を描くシリーズ小説のテレビドラマ化。2013年7月7日よりTBS「日曜劇場」枠で放送中。
*3)自己資本(純資産)/総資本(総資産)
*4)流動資産/流動負債 なお、流動資産とは現金・預金はじめ1年以内に現金化可能と思われる資産をいい、流動負債とは仕入れ債務はじめ短期借入金など1年以内に返済期限の来る負債をいう。少なくとも100%以上あることが必要。
*5)当座資産/流動負債 なお、当座資産とは現金・預金流動資産の中でもさらに短期に現金化できる資産(受取手形、売掛金、有価証券など)をいう。100%以上であることが望ましい。
*6)固定資産/自己資本 固定資産が返済義務のない自己資本でどの程度カバーされているかを見る指標。この指標が小さいほど資金面で安定的な設備投資が行われていると評価できる。
*7)固定資産/自己資本+固定負債 固定資産が長期資本(自己資本+固定負債(長期借入金など))によってどの程度カバーされているかを見る指標。100%以下であることが必要。
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経営分析入門第2回

2013年08月04日 | Weblog
企業の健康指標

 会社(企業)の症状はよく人間に喩えられる。財務分析から求める財務指標なるものが当該企業の経営状態を表しており、われわれが健康診断を受診して得られるデータが健康状態を示すという意味から、比喩として確かに分かり易い。

 近年「メタボ」という言葉が流行った。正確にはメタボリックシンドローム(代謝症候群)のことで、内臓脂肪型肥満(内臓肥満・腹部肥満)に高血糖・高血圧・脂質異常症のうち2つ以上を合併した状態をいうらしい。メタボは命の危険のある病に罹る確率が格段に高くなると警告されている。そして身長に対して体重が重い(オーバーウエイト)、すなわち肥満体だとメタボになり易い。このため特に男性は40歳になると走り出すと言われ、食べ物・飲み物に健康志向食品が大流行りである。

 これを企業に喩えると総資本(総資産)に対して売上高が少ない場合である。すなわち総資本回転率(売上高/総資本)が小さい。通常、総資本に対して売上高は1倍以上あることが望ましいとされる。もっとも人体に置き換えても、お相撲さんなどは皆さん不健康な体型であるが、狭い土俵上で短時間の闘いに向く体型である。また、生まれつきの体質もあり個性の一種で、その人にとってベストなバランスということもある。企業だって、設備投資の重い業種ではその値が低くなるのは仕方がない。また、好況時に行った設備投資が不況となって売上に貢献しないことは間々ある。

 人体で一般的に肥満体がなぜいけないか。末端まで多くの血液を送り続けるために心臓に負担が掛る。これを企業の現象に置き換えると、売上すなわち経営に貢献しない無駄な資産を抱えていると見られるわけで、人体の血液にあたる資金が無駄な資産の形で眠っていることになる。すなわち血流が悪くなることで、健康状態が悪くなるように、企業では資金繰りの苦しさが、さらに借入金の金利を上げるなど、経営を苦しくさせる大きな要因となる。

 近年わが国でもキャッシュフロー経営が叫ばれ、総資本に対する利益率が求められるようになったのは、バブルの教訓も大きかったように思われる。大企業も福利施設などの見直しによって社宅や保養施設などの売却も進んだ。時代の変遷によって利用率の少なくなった福利施設などが処分の対象となるのは当然のようだが、何事も過ぎたるは何とかで、贅肉を落とすためのダイエットで筋肉まで落としたり、低体脂肪が却って病気への抵抗力をなくすことになるように、万一のための備えや企業の社会的な貢献という意味から必要な資産もあり、切ってはいけないものもあるように思う。

 個人的な興味であるが、大企業の総資本回転率を各企業の最新の有価証券報告書(平成25年3月末)からごく一部を取り出してみた。自己資本比率と従業員数は参考まで。トヨタなど優良企業の総資本回転率が意外と低いが、内部留保の増加や金融資産の過剰など従来の経営理論とは異なる現象があるようだ。

 以下各「売上高」、「総資産(総資本)」、「総資本回転率」、「自己資本比率」、「従業員数」と並ぶ。

住友化学(株)<連結>  1兆9,525億円   2兆4,721億円  0.79   20.1%   30,396人
<単独>    7,383億円   1兆4,226億円  0.52 16.0% 6,265人

三井化学(株)<連結>  1兆4,062億円   1兆3,380億円  1.05 28.2% 12,846人
<単独>     8,077億円  1兆 354億円   0.78   27.1%    4,716人

トヨタ自動車(株)<連結> 22兆 642億円  35兆4,833億円  0.62   34.2%   333,498人
<単独>  9兆7,560億円 11兆2,348億円  0.87   66.2%   68,978人

(株)日立製作所<連結>   9兆 411億円  9兆8,092億円  0.92    21.2%   326,240人
<単独>  1兆9,115億円  3兆4,234億円  0.56   37.9%    33,665人

任天堂(株)  <連結>    6,354億円  1兆4,479億円  0.44    84.8% 
<単独>   6,077億円   1兆1,205億円   0.54   84.7%

 任天堂は平成21年3月期の売上高は1兆8,386億円に上っていた(この時の総資本回転率は1.02回)。ソフトの会社の割に資産が多いが、その多くは現金・預金をはじめとする金融資産で、流動資産で総資産の82%を占めている。

(総資本回転率は単年度データで計算しています)
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経営分析入門第1回

2013年08月01日 | Weblog
中小企業診断士のスキル

 医師であっても外科、内科、小児科など専門分野を持つし、弁護士であっても刑事事件が得意、民事訴訟を中心、また、企業再生を専門にしている方も居るように聞く。税理士も製造業、小売業など業種で得手不得手はあろう。診断士も製造業出身か流通業出身かなど、出身業種で得意分野を言うことが多い。しかし、業種・分野を問わずその士業に普遍の仕事は何かと問われれば、税理士が決算書を作るのを主な仕事とするのに対して、診断士はその決算書に基づく「財務分析」を通じて経営分析を行うことである。というか、それが出来ることが診断士の最低限のスキルとなるように思う。

 診断士になるための勉強では、企業経営理論の中で「マーケティング」について体系的に学ぶことで、このマーケティングスキルを診断士の中核スキルに上げる人もあるけれど、製品開発に始まる市場開拓や広告・宣伝活動はより専門的なスキルであると思う。管理技術や理論だけで対応できるものではない。診断士の他の士業と差別化できるスキルは、やはり「財務分析」を中心とする「経営分析」ではないかと考えている。

 ただ、診断士の役割は当該企業の未来を描くことにあり、過去の決算書の分析によって現状を把握することで終わりではない。今後どうすればより業績を向上できるかの道筋を示すことが経営分析の目的である。単に「経営計画の作り方」などのコンピュターソフトにデータを入れて、もっともらしい経営計画書を作るだけではあまり意味はない。当該企業の経営資源を詳査し、外部環境を考慮しながら確度の高い将来の方向性を見定めてゆく必要があり、その点でも「マーケティング」のスキルが重要であることは当然である。

 話しを少し戻すけれど、診断士の専門性について経験分野を問う人が多いが、その多くが「固有技術」と「管理技術」の境界の認識が曖昧である。同じ製造業でも業種・業態が異なれば管理法が異なるので、同じ業種・業態を経験していないと認めないような風潮がある。

 われわれは個人で多くの業種・業態に実務として経験できるわけではない。しかも企業ごとに固有技術は異なりを見せる。しかし管理技術はどのような業種にあっても非常に共通項が多く、しっかりした問題解決法を心得ておれば、経験の無い業種・業態の経営分析やコンサルも実は可能なのである。却って狭い範囲で定型的な業務に精通して専門家然としていると、レールの無い所は走れなくなる。診断士はゼネラリストであり、何でも出来ますと言うわけではないが、問題摘出の役割は果たせる。必要であれば専門家に繋ぐことが仕事となる。

 財務分析は数値で表すもので明解のようだが、問題はその数値の意味するところが大切なことは言うまでもない。自社のデータを客観的に評価する方法としては、中小企業庁の中小企業の財務指標で、同業同規模の企業との比較があるが、簡易的には中小企業基盤機構が運営しているインターネットの「J-Net21」(中小企業ビジネス支援サイト)の経営自己診断システムを利用するのが手っとり早い。自社の決算書のデータを入力すれば、同業他社との比較などによって分析結果を評価できる。また、自社の中長期(5~10年)のデータとの比較も重要である。良くなっている指標も悪くなっている指標もあろうが、その原因を考察することで、自社の経営改善につなげる。

 診断士の行う経営分析では財務分析と併せ、当該企業を訪問し、現場を見せて貰い経営者から直にお話を伺うことが必要であり、現場を診る目と共に如何に情報を聴取出来るか*1)、コミュニケーションスキルも診断士に必須となる。




*1)経営者の能力、企業の組織、ブランド、マーケットシェア、顧客など、インテレクチャル・キャピタルと呼ばれる企業を理解するための要素。その他立地や人事制度、従業員の働きぶり、安全管理への配慮など、見るべきところ聴くところは一杯ある。
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