オリンピックの柔道は、柔道ではなく剛道に化しているように見えてしまう。組み手争いに多くの時間を費やすのも勝負だから仕方ないと言えばそうだけれど、技の攻防を期待する観衆からは興味を削がれる。
一般に欧米人(白人)や黒人は、資質的に腕力・体幹が強いようで、最初から腕力等に頼る傾向にあるようにみえる。男子81kg級ともなれば、自重とのバランスからみて腕力・体幹の比重が最も高いクラスと思える。その為かどうか、このクラスでは今大会まで五輪連覇がなかった。日本選手にとっても不得手なクラスだった。
しかし、今回、日本の永瀬選手が東京五輪に続き金メダル、このクラス初の連覇を達成した。テレビでだけど、彼の柔道を観ていて、本物の柔道を見る思いがした。柔道は昔は、30歳くらいが一番強いと言われていた。永瀬選手は丁度30歳。すなわち心・妓・体のバランスの良い年齢なのだ。勿論、修行を継続してきた選手にのみ訪れる頂点の時期である。彼の柔道には、お粗末な審判の判定など入り込む隙などなかった。彼は団体戦でも一階級上の選手を攻めて攻めて指導を奪い勝利している。
永瀬選手は「旭化成」に所属する企業人柔道家のようだが、昔は同業の「東レ」などにも強い柔道選手が居たものだが、聞かなくなって久しい。勿論企業は、広報活動、社員への福利厚生の一環としてスポーツを支援するため、スポーツ選手を採用する戦略もあろうが、企業の社会的貢献の一環でもある。
柔道の場合、警視庁などは企業と言うより、剣道・柔道は本職みたいなものである。最近は警備保障会社(体術・護身術)や中央競馬会(落馬の際の受け身)なども柔道の実用性を認め、有力柔道選手を採用しているようだ。日本製鉄なども繊維会社と同様、高度経済成長期には有力選手が多かった。失われた30年を経て、スポーツ選手育成に貢献する旭化成は、懐の大きい企業と感じる。
スポーツで鍛えた体力・気力に個人的人脈などを加え、現役引退後、営業部門などで企業戦士として生き残る術もあり、当該企業で後輩アスリートを指導する生き方もあるが、柔道の場合、警察官ほどの組織へのアピールポイントとはなり難い。しかし、超一流選手には必ずやそれなりの人生が待っている筈である。永瀬選手のさらなる健闘に期待している。